カーボンニュートラルへ、企業に求められる対応とは?

2024/01/24 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 企業がカーボンニュートラルを推進するときの、重要視点とは?
  • カーボンニュートラル達成には、ビジョンと地道な実践が近道!
  • カーボンニュートラル達成への活路を開く、3つの注力点とは?
カーボンニュートラルへ、企業に求められる対応とは?

国連の気候変動枠組条約 第21回締約国会議(COP21)でパリ協定が採択されて以降、脱炭素の機運が世界的に高まり、温室効果ガス(GHG)排出削減の取り組みが本格化している。さらにGHG排出削減だけにとどまらず、気候変動がもたらす財務的なリスクと機会を把握し、情報開示することも求められ、対応に苦慮する企業は多い。実効性のあるGHG排出削減をどのように進めていくべきか、適切な情報開示の留意点とは何か、バリューチェーン全体のGHG排出削減にどう取り組むか。これまでの知見と実績を踏まえ、東芝 環境推進室の視点から解説する。

パリ協定、TCFDを起点とするGHG排出削減の方向性とは?

上述のように、GHG排出削減に向けた取り組みが世界各国で本格化した最大の契機は、2015年に採択されたパリ協定だ。同協定では、世界の平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて「2度以下に抑えること」「1.5度以内に抑える努力を続けること」を掲げ、その実現のために21世紀後半に世界のGHG排出量を実質ゼロ(排出量と吸収量を均衡)にする「カーボンニュートラル」の達成を目標とする。

 

これを受け、150を超える国・地域が、2050年等の年限付きのカーボンニュートラル実現を表明。日本も、2050年までにGHG排出を実質ゼロにすると宣言した。

 

おのずと企業は、GHG排出削減に従来以上に取り組むことが求められる。GHG排出実質ゼロの達成には、漠然と排出を減らすのではなく、事業活動ごとの排出量を算定し、計画的に削減する必要がある。ここで、企業がGHG排出を削減する上で指針となるのが、国際基準「GHGプロトコル」の考え方だ。原材料等をもとに製品が生産され、最終的に消費、廃棄されるまでのバリューチェーン全体の排出削減を想定している。

 

下図のように、バリューチェーンは3つに分類される。化石燃料の使用により企業が直接排出するGHGを「Scope1」、電力会社の電気を使うこと等で間接的に排出するGHGを「Scope2」と呼ぶ。これらは、自社の事業活動に伴って排出するGHGを指す。これに対し「Scope3」は、バリューチェーンにおいて自社の上流や下流に位置する他社のGHG排出を指す。

 

GHG排出のScope1、2、3

GHG排出のScope1、2、3(環境省ウェブサイトより)

自社の努力で対応できるScope1、2と違い、Scope3での排出削減はサプライヤーや顧客の協力が不可欠。バリューチェーン全体での「GHG排出実質ゼロ」の達成には、簡単ではないが、Scope3においてどれだけ実効性の高い削減策を行えるかが鍵になる。

 

パリ協定に加えてもう一つの大きな契機は、主要国の金融当局や機関投資家が、気候変動による経済的な影響と、それに対する企業の対策を重視し始めたことだ。気候変動に起因する洪水や干ばつ、暴風雨など自然災害が頻発すれば、工場などの資産・設備が損壊したり、グローバルサプライチェーンの寸断で製品の生産・供給が停滞したりと、企業活動に様々な負の影響をもたらす。また低炭素社会への移行により、気候変動関連の政策や法規制の強化、市場ニーズの変化などが起こり、企業のコストや収益に影響を及ぼす可能性もある。一方で、GHG排出削減をめぐる潮流を成長機会と捉え、脱炭素に資する革新的な製品・サービスを開発できれば、企業は収益力を高められるだろう。

 

そこでTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、企業に対して、気候変動が自社にもたらす「リスク」と「機会」を把握し、その情報を開示することを求めている。TCFDは、各国の中央銀行や金融関連省庁などで構成される金融安定理事会によって設立され、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の観点による情報開示の枠組みと、推奨される開示内容を示している。気候変動への対応は企業価値を左右するものであり、各国の企業や金融機関などがTCFDの考えに賛同している。今や情報開示は世界的な潮流だ。

 

GHGプロトコルに基づく活動、TCFDに則った情報開示が、カーボンニュートラル推進において重要

実際、顧客などのステークホルダーや外部評価機関からも、カーボンニュートラルに本気で取り組み、なおかつ適切に情報開示しているかを問う視線は厳しくなっている。これまでGHG排出削減は、ともすれば「環境関連など、特定部門が取り組むべきもの」と捉えられがちだった。だが今後は、経営戦略の主軸にカーボンニュートラルを据え、全社的に取り組むことが不可欠。東芝としても、社内の機運を高め、外部パートナー企業との協力関係も強める施策に懸命に取り組んでいるところだ。

カーボンニュートラル達成のビジョンを描き、地道な実践を!

GHGプロトコルに基づいた活動、TCFDに則った情報開示には、前提としてカーボンニュートラルの目標設定が必要になる。東芝の場合、気候変動のほかサーキュラーエコノミー(循環経済)への対応や、生態系への配慮も踏まえた長期ビジョンとして「環境未来ビジョン2050」を2020年に策定した。環境への取り組みを重要な経営課題とし、事業計画と結びつけながら取り組みを進めている。具体的には、GHGプロトコルをもとに2050年度までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラル達成を掲げた。通過点として2030年度の目標も設定し、GHG排出をScope1・2で100%、Scope3で70%削減し、バリューチェーン全体で70%削減する計画だ(2019年度比)。省エネ設備への投資、再生可能エネルギーの調達などに加えて、東芝ならではの技術力を生かした製品開発も進めている。

 

2050年度のカーボンニュートラル実現へ、具体的な数値目標を設定

2050年度のカーボンニュートラル実現へ、具体的な数値目標を設定

その中で、推奨されるのが、「インターナルカーボンプライシング(ICP)制度」の導入だ。GHG排出削減は喫緊の取り組みだが、そのための投資は目先の収益向上には直結しない。そのため、通常の投資効率を優先する経営判断であれば、GHG排出削減が進みにくい。そこでGHG排出削減への投資が将来に与える影響を経済価値に換算して、意思決定の材料とするのがインターナルカーボンプライシングだ。GHG排出削減の価値が適切に評価されるだけでなく、「自社はカーボンニュートラル化に本気で取り組む」というメッセージが伝わり、社内意識も醸成できる。

 

GHG削減の財務的価値を見える化し、取り組みを促進する

GHG削減の財務的価値を見える化し、取り組みを促進する

加えて、自社ならではの強みを生かした製品開発も有効になる。例えば、東芝は六フッ化硫黄(SF6)を使わない電力開閉装置を開発した。SF6は電気の絶縁性に優れ、人体に対し安全でかつ安定しているガスであるため、今まで幅広く使われていた。だがCO2の2万倍以上もの温室効果があるため代替するガスの開発が求められており、東芝は自然由来ガスを活用した装置を開発した。ここで重要なのは、こうした製品を提供することは、Scope1(自社の活動)だけでなく、その販売を通じてScope3(顧客の活動)のGHG排出削減にも貢献できることだ。このようなに自社の強みを生かし、GHG削減に役立つ製品・サービスを提供することは、なかなか取り組みづらいScope 3への有用な対応、そしてカーボンニュートラル貢献へとつながりやすい。

カーボンニュートラルの取り組み加速へ、3つの力の入れどころ

このように、全社を挙げてカーボンニュートラルに取り組むことでわかってくる力の入れどころがある。それは次の3点だ。

 

1つめは従業員の自分ごと化の推進。GHG排出削減へ全社的に取り組むと言っても、すべての従業員が日々、環境関連の業務に関わっているわけではない。部門ごとの温度差を解消していくために、多くの従業員に自分ごと化してもらうことが大切だ。

 

例えば東芝の場合、川崎市にある本社拠点で実現した「実質100%再生可能エネルギー化」が事例としてある。2023年4月から新たな電力購入を契約し、再生可能エネルギーの環境価値を仮想的に購入している。これにより、拠点内で利用する電力すべてを実質的に100%再生可能エネルギー化した。

 

これは、前述の「環境未来ビジョン2050」に掲げたGHG排出削減を進めるものだが、狙いは他にもある。拠点には様々な事業部が入居しており、自身がいる建物が100%再生可能エネルギー化したことは、カーボンニュートラルを実感させる。こうした象徴的な取り組みと、その社内共有が、自分ごと化を促す近道だ。

 

2つめは社内外の連携強化。前述のように、カーボンニュートラル達成には、Scope3(自社以外)でどれだけGHG排出を削減できるかが重要になる。

 

例えば、サプライヤーと協力してカーボンニュートラルに取り組むには、自社の調達部門の力が不可欠。つまり環境関連以外にも様々な部門が課題を認識し、今まで以上に緊密に連携し合うことが必須になる。その上で、外部のパートナー企業とも関係性を深め、すべてのステークホルダーが納得できるバリューチェーン全体のカーボンニュートラル化を進めていく。そのために、環境関連に限らず幅広い部門が当事者意識を持ち、積極的に取り組みに関与していくことが求められる。

 

そうは言っても一朝一夕に連携が進む訳ではなく、簡単に連携を強化できる魔法の杖はない。環境部門や調達部門の他にも、経営企画部門、財務部門など、多くの部門が各々の立場ですべきことを整理し、対話を続けていくことが何より重要だ。カーボンニュートラルに関する世界潮流、そこに関わるリスクと機会を共有し、自社の理念に照らし合わせて何をするべきかを繰り返し議論することで、納得と巻き込みは進んでいく。

 

3つめは情報開示のあり方。東芝では、GHG排出削減の様々な取り組みを、統合報告書やウェブサイト、サステナビリティレポート等を通じて開示してきた。しかし、情報を単に発信するだけでは、ステークホルダーには真意が伝わりにくい。

 

そこで、情報発信を強化する意味で、「カーボンニュートラルに向けた経営陣のメッセージ」を積極的に社内外に発信していくことが重要になる。実際に、TCFDでも経営陣の関与は重視され、外部ステークホルダーからも「経営陣の思い、本気度をぜひ聞かせてほしい」といった声が多い。経営陣のメッセージを伝えることは、社内の機運を高めることにもつながる。

 

カーボンニュートラル達成には、自分ごと化、連携・巻き込み、発信が重要

カーボンニュートラル達成には、自分ごと化、連携・巻き込み、発信が重要

カーボンニュートラル実現には、主要プレイヤーである企業の意欲的なビジョンが必要だ。その実現へ、すべての従業員と、あらゆるステークホルダーの連携が鍵になる。乗り越えるべき課題は企業それぞれであり、注力点をできる所から実践していくことが、カーボンニュートラル達成に着実につながっていくはずだ。

 

 

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