共創の光はケンブリッジより ~欧州で加速する東芝の量子とAIのイノベーション!

2024/06/14 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 東芝は、R&D拠点・ケンブリッジ研究所で量子技術とAI技術を磨き上げてきた
  • 時代の好機、英国という地の利を生かし、人を起点にイノベーションを起こす
  • グローバルな研究者の交流・連携により、量子とAIで技術開発が加速する!
共創の光はケンブリッジより ~欧州で加速する東芝の量子とAIのイノベーション!

東芝は、量子技術のリーディングカンパニーとして、社会課題を解決する製品やサービスの開発に取り組んできた。次代の量子技術の起点として期待されるのが、ケンブリッジ研究所である。このほど、日本の研究開発センターでAIの研究・開発に取り組んできた、小坂谷達夫氏が副所長に就任した。量子を活用した先進技術に加えて、AI技術でもどのような変革をもたらすのか。イノベーションの地ケンブリッジから、技術の社会実装に向けたロードマップが語られていく。

天・地・人に恵まれしケンブリッジ研究所から、先進技術を創造!

ロンドンから北へ約80km――ケンブリッジシャー州の州都・ケンブリッジは学園都市として発展してきた。英国版シリコンバレー「シリコン・フェン」と呼ばれるテクノロジー企業が集積し、世界で有数のスタートアップの要衝として知られる。ここに東芝のケンブリッジ研究所があり、腰を据えて取り組むのが量子暗号通信の技術。90年代後半から基礎研究をスタートし、世界初となる技術を多く発信してきた。近年は技術の社会への早期展開を目指して、日本や英国のプロジェクトにも参画している。

 

さらに、2023年9月には量子技術の事業化を加速するために、ケンブリッジ研究所があるサイエンスパークに「量子技術センター(Quantum Technology Centre)」を開設。東芝はケンブリッジを起点に、量子暗号通信をはじめとする量子技術の社会実装を進める。

 

世界をリードする企業研究所を目指しており、量子技術とAI技術の開発に注力しています。この2本柱で研究・開発を進めつつ、欧州の名だたるアカデミアや企業とコミュニケーションを重ねて先端知を追っていきます

 

東芝欧州社 ケンブリッジ研究所 副所長 小坂谷 達夫氏

東芝欧州社 ケンブリッジ研究所 副所長 小坂谷 達夫氏

こうケンブリッジ研究所の進路を語る小坂谷氏は、2023年10月に副所長に着任した。ケンブリッジ研究所には意欲と能力に溢れた研究者が世界各国から集まり、量子暗号通信などの量子技術や、コンピュータビジョン、自然言語による対話・インタラクションなどのAI技術を研究・開発している。

 

小坂谷氏は、東芝に2001年に入社以来、顔認識の専門家として技術を磨き、メディアAIラボラトリーを率いてきた。入社当時には画像認識はまだ一般的な技術ではなかったが、機械学習技術や計算機の発展により、現在では顔認識による本人確認や車の先進運転支援など身近な存在になっている。2012年に提案されたAlexNetを契機とした深層学習の爆発的な普及と進化や、近年の生成AIの登場など、AI技術は研究開発においても極めて活発な分野であり、そのスピード感や分野の広がりは一層加速している。その中での欧州という新天地への赴任は青天の霹靂だったものの、マネジャーそしてAI研究者として「ケンブリッジ研究所のアウトプットを着実に価値へと変えていきたい。ここは先端技術の研究・開発に存分に取り組める場所です」と、視線に強い意志をにじませた。彼は孟子を引用し、ケンブリッジ研究所の恵まれた環境を次のように説明する。

 

天の時、地の利、人の和――この言葉を、先進技術の創出における重要視点だと捉えています。ケンブリッジは時代の潮流が生まれ、最新技術を把握しやすい場所です。そしてトップクラスのアカデミアが集積し、彼らとの共創が進めやすい。そこから刺激を得た多様な視点の研究者たちが、国内外で交流・連携を深められます。量子もAIも競争が激しい領域ですが、天の時、地の利、人の和をいかすことで、ケンブリッジから社会とビジネスを支える先進技術を生み出していきます」

 

ケンブリッジ研究所の天の時、地の利、人の和

ケンブリッジ研究所の天の時、地の利、人の和

量子技術とAI技術の強みと人材が、新時代の共創へ!

ケンブリッジ研究所が開発した量子暗号通信の技術は多岐に渡るが、商用化が最も進んでいるのは革新的な量子セキュアネットワークである。これは、量子コンピューターを悪用した盗聴や解読からデータを保護するものだ。こうした安全性を高めるネットワーク技術の実現には、最新のAIが必要だという。長く培ってきた量子技術が、時代の追い風を捉えたAIによって加速する――ケンブリッジ研究所が恵まれし「天の時」だ。

 

すべてがインターネットにつながり多様なデータが流通すると、『情報をいかに安全に通信するか』が課題になります。当然ながら量子暗号通信の機器そのものも極めて精密であり、AIによる機械設計や開発支援が重要になります。加えて、大量のデータを処理するためにAIが活用されます。『高いセキュリティ』と『高速なデータ処理』の両輪が必須であり、それは量子とAIの両方に強みがあることで進めやすい。東芝は機密度の高いインフラサービスを多く担っており、安全に情報を届ける量子セキュアネットワークはそれらとの連携も期待されます」

 

量子とAIが、高いセキュリティと、機器開発や高速データ処理を両輪で実現

量子とAIが、高いセキュリティと、機器開発や高速データ処理を両輪で実現

量子、AIともに得意とするケンブリッジ研究所の技術を、社会へ届けるのも小坂谷氏のミッションだ。近未来に予想される、量子インターネットの世界。そこでは、量子とAIにおける更なる強みの発揮が視野に入る。AIの専門家として補足してくれた。

 

「量子暗号通信では、『ある状態が確率的に決まる』という光子の量子力学的な性質を扱いますが、最終的には一般ユーザーがそれを円滑に活用できる機械品質が必須です。こうした微視的領域の機械設計や調整に、最新のAIが力を発揮します。歩留まりの改善、適切なパラメータの設定、品質の自動的な改善、さらには量子機械学習にまで進むのか――? こういった開発は世界中で進んでおり、まだ決定的な答えはありません。この模索にこそ、私たちケンブリッジ研究所の強みがいかせると考えています

 

ケンブリッジ研究所では量子技術とAI、それぞれのスキルを持った人材が切磋琢磨する。既に量子暗号通信とAIの研究者がコミュニケーションを取り、新たなパラダイムを見出すべく協働が進んでいるという。

 

もちろん、私自身も研究者として技術に向き合っています。現在は、AIが現場でユーザーからインタラクティブに学びつつ素早く適応し、機能を継続的に拡張する“Embodied AI(エンボディドAI)”の研究ビジョンを推進しています。これにはお客様も高い関心を持っており、彼等との対話から面白いアイデアが生まれ始めています。これからもコミュニケーションを重ね、新たな価値を探っていきたいですね

 

インタビューに答える小坂谷氏。

地の利、人の和も包み込み、グローバル連携で未来を描く!

先進技術に挑む企業が集まるケンブリッジには、大学や研究機関も数多く存在する。そもそも、英国は、数学・暗号解読・計算機科学の天才アラン・チューリングの母国だ。小坂谷氏がケンブリッジ研究所の「地の利」に言及した。

 

ケンブリッジ研究所は、ケンブリッジ大学と密に交流してきました。私たちの所長はケンブリッジ大学教授も兼ねるロベルト・チポラ。物理的な距離の近さから共同研究も進めやすく、AIや量子暗号通信の分野で連携を深めています。

 

また、すぐ近くには世界ランキングトップのオックスフォード大学、理工系の名門インペリアル・カレッジ・ロンドンなど、世界屈指のアカデミアが集中しています。高いレベルで技術や知見の交流がかなう環境は、研究者にとって大きな利点であり、メンバーの成長を促すでしょう

 

アカデミアとの交流・連携が、研究者を大きく成長させる

アカデミアとの交流・連携が、研究者を大きく成長させる

ただし、研究所の技術が一足飛びで社会実装に結びつくわけではない。小坂谷氏は、社会実装にいたるまでに必要な段階を「価値の具現化」と表現する。

 

研究所で開発した先進技術をお客様に『使いたい』と思ってもらうためには、経営的な視点も必要です。自分が社会に必要と思う技術を研究・開発するだけでなく、コストを含めて実現性があり、望まれるものを考えていかなければ

 

これに関して、小坂谷氏には東京理科大学のMOT(技術経営)で学んだ経歴がある。そこで得た経営視点は現在のマネジメントに大いにいかされているという。

 

MOTでは中小企業や外資系企業から参加する方、起業家など多様な方と学びました。ケンブリッジ研究所にも様々なバックグラウンドを持つ研究者がおり、その多様性の広さは通じるものがあります。また、マーケティング、ファイナンスなどを理論立てて学ぶことで、技術経営の視点を身につけました。『いい技術なら売れる』わけではない、社会に実装するためには経営視点で進める必要があります。

 

ケンブリッジ研究所には量子やAIに関する一流の研究者が揃っており、研究において尖った鋭い視点を持っています。ここで生み出される先端的研究には素晴らしい価値があり、東芝の将来を支える原石となり得えます。しかし、それらの原石は磨き上げられ、製品としてお客様に届けられ社会に貢献してこそ真の価値を持ちます。

 

MOTは、技術を製品として昇華させるための俯瞰視点を与えてくれます。ケンブリッジ研究所だけではなく、関連する日本の研究所や事業部との連携がなければ社会実装は進みません。量子技術、AI技術を具体的に価値へ変換していくために、私は研究所や事業部との結節点として、そして欧州と日本の橋渡しとして、価値創造を後押ししていきます

 

ここで、小坂谷氏が改めて強調するのは「人の和」だ。東芝のケンブリッジ研究所のメンバーは、技術を社会にいかし、還元していきたいという拘り、志を共通して抱いている。この一体感が研究所の文化を支えている。

 

イノベーションの起点となる技術者の特徴

イノベーションの起点となる技術者の特徴

イノベーションは『人』を起点に起こる、と私は確信しています。研究所のメンバーは、事業部との連携の具体例を伝えると、目を輝かせて聞き入ってくれます。そこには、研究所にこもって没頭するのではなく、広く目配りして技術を製品化し、顧客に届けたい、社会実装につなげたいという思い、共鳴があります。

 

こうした好奇心に溢れ、自ら動く研究者はイノベーションを起こしやすい。自発的な動きの中から新たな共創を生み、新しい変化を起こし、主導することができます。この共鳴や共創は、研究所内にとどまりません。事業部や外部パートナーとの共創にも有効です。私も一人の研究者として多様な人々と切磋琢磨し、ネットワークを形成していきたいですね

 

研究所には多様なバックグラウンドが持ったメンバーが集まり、活発な議論がなされる

研究所には多様なバックグラウンドが持ったメンバーが集まり、活発な議論がなされる

ケンブリッジ研究所は、先端知との出会いを強化する先に、どのような未来を描くのか。最後に、小坂谷氏にこれからの技術のあり方について思いを語ってもらった。

 

先進技術を目利きして積極的に吸収し、社内外に発信・展開していく役割は、今後も変わることはないでしょう。ここで大事になるのは、技術は人を不幸にしてはならないということ――これが私の信念です。

 

昨今、AIが人の仕事を奪うなどの言説があります。その反対に、人間とAIが連携すれば、持続可能な社会が実現可能だと、研究者として実感しています。ここケンブリッジで、量子技術、AI技術を研究・開発し、それらの相乗効果も発揮することで、技術が人や地球と共存共栄する未来を描いていきます

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