DEIB推進の鍵:心の居場所をつくる「きっかけ」の仕掛け

2024/11/29 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 企業と個人の成長に不可欠なDEIB(多様性、公正性、包摂性、帰属意識)とは?
  • 従業員の帰属意識を高める「きっかけ」づくり
  • 人事担当者なら真似したい!体系化された施策マップ
DEIB推進の鍵:心の居場所をつくる「きっかけ」の仕掛け

グローバル化が進む現代社会において、企業が持続的な成長を遂げるためには、従業員の多様なライフスタイルや価値観を尊重し、その能力を最大限に活かすことが求められる。この多様性は性別、年齢、国籍、宗教、職歴、さらには働き方に至るまで、幅広い要素で構成されている。多くの企業はこれまで、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進してきたが、D&Iを超えて従業員が真に能力を発揮できる環境を整えることが、今後の企業成長に不可欠であると認識され始めている。

近年特に注目されるのが、DEIB(Diversity, Equity, Inclusion, and Belonging)の概念である。

  • Diversity:ダイバーシティ(多様性)
  • Equity:エクイティ(公正性)
  • Inclusion:インクルージョン(包摂性)
  • Belonging:ビロンギング(帰属意識)

DEIBは単なる多様性の受け入れを超え、従業員一人ひとりが組織に強い帰属意識を持ち、心理的安全性の高い環境で能力を発揮できることを目指している。DEIBを実現することで企業のイノベーションを促進し、提供価値の最大化に寄与するのだ。

2024年3月、東芝はD&Iを進化させた「DEIB方針」を発表した。本方針に基づき、当社グループで働く従業員一人ひとりがそれぞれの違い(多様性)を強みに変え、当社グループで働くことにやりがいを感じ、個々の能力を発揮しながら様々な挑戦を通じて成長していると感じられる企業文化の醸成を目指している。企業と個人の持続可能な成長を支えるため、DEIBは東芝の経営戦略の中核として位置づけられている。

東芝グループのDEIB推進コンセプト・めざす姿
東芝グループのDEIB推進コンセプト・めざす姿

一人ひとりがその適性と能力を最大限に発揮できる組織風土を目指し、ダイバーシティや人権に関する教育の実施や、社内SNSツールを活用した積極的な情報発信、さらには社内コミュニティの立ち上げなど、多様な施策を展開。従業員同士の理解が深まり、絆が強まることを目標に活動している。2022年11月には、LGBT+に関する企業の取り組みを評価する「PRIDE指標2022」においてゴールドの評価を受けるなど、これまでの社会貢献や渉外活動が第三者団体からも高く評価されている。

DEIBとイノベーションの関係

東芝グループのデジタルソリューション事業を担当する東芝デジタルソリューションズ株式会社(TDSL)は、DEIB推進において早期から取り組みを行い、組織風土の変革を進めている。この活動において主導的な役割を担うTDSL取締役常務でICTソリューション事業部長を務める月野浩氏に話を聞いた。

月野氏は、TDSLの業務の特性と掛け合わせてDEIBの重要性についてこう語る。「TDSLは、形が決まっていないソフトウェアやサービスを、お客様のニーズに合わせて自在に作り上げる会社です。次々とイノベーションを生み出すには、DEIBのコンセプトを社員のマインドセットに落とし込むことが重要です。多様な価値観を持つ人たちが、公正な機会を与えられ、一人ひとりの意見が尊重され、心理的安全性が保たれた環境がイノベーションを生み出す原動力となります」と月野氏は話す。

東芝デジタルソリューションズ株式会社取締役常務 ICTソリューション事業部長 月野 浩氏
東芝デジタルソリューションズ株式会社取締役常務 ICTソリューション事業部長 月野 浩氏

さらに、DEIBの中でも「Belonging」の重要性を強調する。

「Diversity、Equity、Inclusionは、制度や仕組みとして会社側が整えることができますが、Belongingは会社が強制できるものではありません。従業員一人ひとりが、自分の居場所があると実感できる環境が整った時に初めて築かれるものです。これが整わなければ、DEIBで掲げる理想の姿に近づくことはできません。我々としてできることは、Belongingを感じられる場、つまりは『きっかけ』を提供していくことだと思っています」(月野氏)

「外からも中からも選ばれる会社」を目指すTDSLの取り組み

その『きっかけづくり』のために動いているのが、人事・総務部門でTDSLの組織開発を担当する丸野麻美氏である。

いわゆる工場や製造設備を持たない私たちの事業にとって、『人』は最も大切な資産です。従業員一人ひとりが活躍できる環境を整えることが、会社としての使命であると考えています。『外からも中からも選ばれる会社』を目指し、DEIBの推進を通じて組織改革に取り組んでいます」と語る。

人事・総務部、事業総務第一室 スペシャリスト 丸野麻美氏
人事・総務部、事業総務第一室 スペシャリスト 丸野麻美氏

2022年に実施した従業員意識調査や外部のサーベイプログラムなどを通じて、課題の洗い出しを行った結果、トップのコミットメントが高く評価された一方、『モノが言える風土』、つまり心理的安全性が十分に確保されていないなど、個人の強みを発揮できる風土が整っていないことが明らかになった。この結果を受け、「DEIB25」という中期目標を掲げ、3つのテーマごとに3つのアプローチで組織風土改革に着手。2025年の目標達成を目指し、下図のように体系化された9つの施策に取り組んでいる。

「DEIB25」3つのテーマx3つのアプローチ
「DEIB25」3つのテーマx3つのアプローチ

「トップが語るアプローチでは、事業部のトップたちがあるテーマについて対談やディスカッションを行います。このアプローチの重要なポイントは、リーダーたちが自らの言葉で、率直に考えを伝えてもらうことです。リーダーたちが話す様子をライブイベントや動画などで共有することで、従業員がトップの人柄に触れ、普段のコミュニケーションが取りやすくなる効果もありますが、トップ自身も、自分の考えを発信することで、日常的なコミュニケーションでも良い変化が生まれてくると感じています」(丸野氏)

マネージャー層の意識改革や理解促進のためには、外部講師を招いたセミナーを開催し、マネージャーだけでなくその部下も参加できる学びの機会を提供している。さらに、従業員が自由にアクセスできる特設社内サイトで、取り組みに関する情報を集約し、随時発信。丸野氏は、「組織風土づくりは管理職だけではなく、全員で取り組むものだと考えています。その意識を持ってもらうために、様々な機会をオープンに提供することが大切だと思っています」と話した。

TDSL社内向け情報ポータルサイト「WORK HARBOR」
TDSL社内向け情報ポータルサイト「WORK HARBOR」

この3つのテーマの中でも特に重視しているのが、従業員調査で課題として浮かび上がった「心理的安全性」の確保である。TDSLでは、この課題に対応するため、さまざまな取り組みを進めている。

たとえば、2020年からは1on1ミーティングを導入し、2~4週間に1回の頻度で実施している。この1on1ミーティングは、キャリアの話題に加え、プライベートな悩みを共有できる場でもあり、個別の対話を通じて心理的安全性を高めることを目指している。「集団の場では言いにくいことも、1対1の場なら話しやすく、従業員の本音を引き出す効果もあります」(丸野氏)

さらに、心理的安全性を育む場づくりとして、TDSLの共創型発想法「ifLinkオオギリ」をDEIB版にカスタマイズして設計したワークショップを実施している。初回のワークショップでは「自分を活かせる居場所や未来」をテーマに、参加者が意見を交わし、ストーリーを共有した。幹部も交えた30代中心の参加者が主体となり、役職の枠を超えた対話が促された。参加者からは「会社の良いところを再認識できた」「多様なバックグラウンドの人と交流できた」といったフィードバックが寄せられ、組織への愛着や多様性理解の促進が図られた。

「TDSL自慢」のお題に対し、参加者から挙がったコメントを共有する様子
「TDSL自慢」のお題に対し、参加者から挙がったコメントを共有する様子

「このような組織改革は一朝一夕に成果が表れるものではありませんが、取り組みを重ねるうちに、ふと過去を振り返って、大きな変化を実感することがあります。だからこそ継続的な取り組みが重要だと考えます。今後も、従業員一人ひとりが「この会社で働き続けたい」と、会社に対する信頼や帰属意識を感じられる組織風土を目指し、取り組みを推進していきます。」と丸野氏は語る。

DEIBの推進は、単なる人材管理の一環に留まらず、企業の持続的な成長に直結する重要な経営戦略の一部である。多様なバックグラウンドを持つ従業員が、それぞれの強みを最大限に発揮し、心理的安全性と帰属意識を感じながら働ける環境を作ることで、組織全体の生産性やイノベーション力が向上する。東芝グループにおける取り組みはまだ始まったばかりで、企業の未来に向けてさらなる価値創造に取り組む一歩を踏み出した。今後、企業、そして社員各々の挑戦がどのような成果を生むのか、そしてそれが社会全体に与える影響にも注目が集まるだろう。

※1on1ミーティング:部下の成長支援を目的として実施する、上司と部下が1対1で定期的に行う対話

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