働き方の「当たり前」が変わるとき - 東芝が「副業」を推進するわけ

2021/09/22 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 人生100年時代に向け、多様化する価値観と働き方
  • 東芝が副業制度導入に踏み込む!社内に新しい風を吹き込む若手人事担当の活躍
  • 20代に副業で起業!多様な働き方から得られるさまざまな「財産」とは?
働き方の「当たり前」が変わるとき - 東芝が「副業」を推進するわけ

「100歳まで生きる時代、どのように人生を送りますか?」

 

人生100年時代を迎え、従来の「60歳で引退、その後は余生」という考え方が通用しなくなった。医療、健康、衛生などの進歩により、より健康的で若々しく生活ができる年数が増え、「老い」の概念も変化している。70歳や80歳になっても働き、元気に多様な生活ができれば、個人だけでなく、企業や社会全体が長寿化の恩恵を受けることになる。

 

さりとて、まだロールモデルが存在しない中で、多くの人が引退後の生き方、資金に不安を抱えるのは当然のことである。何に時間を使うか、どう貯蓄を増やすか、そのためにいかに働くか。こうした先々を見据え、引退後の生活だけでなく、人生設計そのものを見直し、これまでとは異なるシナリオを描かなければならない。だからこそ、人生の早いうちから個人が希望する働き方を選択できる環境が重要であり、それを企業や社会がサポートしていくことが必要になってくるだろう。

 

東芝では、多様なバッググラウンドを持った人たちが、やりがいを持って働ける環境づくりの一環として2020年から副業を認める仕組みをトライアルしている。この副業トライアルをグループの中で先駆けて始めた東芝デジタルソリューションズ株式会社(以下TDSL)の人事企画担当の渡辺真亜知氏と、これを利用して副業を始めた疋田裕二氏(現在は東芝データ株式会社所属)に話を聞きながら、人生100年時代における新しい働き方と生き方のヒントを探る。

副業、兼業…多様な働き方が推進され始めた背景とは

かつて日本企業の多くは「終身雇用」を採用していたため、副業を原則禁止としてきた。一方、政府が推進する「働き方改革」や新型コロナウィルスの影響によって、働き方の多様化が進み、徐々に副業や兼業を認める企業が増えてきた。

 

そこに2018年、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成し、「モデル就業規則」の改定を行ったことで副業や兼業の推進が本格化した。前述のガイドラインは、副業・兼業のメリットを以下のように整理する。

副業における労働者側、企業側のメリット

 

一方でデメリット(留意点)としては、労働者のワークライフバランスの崩れやオーバーワークがあり、企業としては、職務専念義務や機密情報の流出のリスクがあり、離職を促す可能性もゼロではない。労働者が就業時間や健康、情報などを管理し、 企業としては、副業・兼業を認めることのメリット・デメリットを勘案し、予測される事態へどう準備し、対応するのかが制度導入にあたっての課題だ。

 

多くの企業で副業・兼業への模索が行われる中、株式会社東芝とグループ会社の一部で副業を認める取組みが開始された。東芝グループの中でデジタルソリューションを提供するTDSLではどのような背景からこの取組みの実施を決めたのか、その導入に携わったTDSL人事企画担当の渡辺氏に詳しく聞こう。

人事担当者に聞いてみた―なぜ、副業トライアルを始めたのか?

「2020年4月に人事処遇制度の見直しを行い、一人ひとりが働き甲斐をもって働けることを追求しています。それぞれのキャリアプランを実現するために、会社としてどのように支援すべきかを考える中、その一つとして副業を従業員に対して認める取り組みをトライアルという形で導入しました。」(渡辺氏)

東芝デジタルソリューションズ(株)人事総務部 人事企画担当 スペシャリスト 渡辺 真亜知氏

東芝デジタルソリューションズ(株)人事総務部 人事企画担当 スペシャリスト 渡辺 真亜知氏

TDSLは、2019年にスーツ着用等のドレスコードを廃止する「セルフビズ」を推進するなど、東芝グループの中でも先駆けて新しい取り組みを実施してきた。副業トライアルの導入は、従業員の自律性と生産性、そしてスキルアップを狙った次なる挑戦としての試みだった。しかし、本格導入には様々な苦労があった…。

 

「副業はその特性から、一人ひとりへの対応を必要とします。その前提で副業トライアルの枠組みを作る中で、想定される課題の洗い出しに苦労しました。また、副業を認めることに疑問を持つ人は一定数いて、『なぜやるのか』と、やることのメリットを丁寧に説明し、マインドセットを変えていくのも大変でした。

 

何か新しいこと、わからないことへの抵抗感は、誰しもあります。その抵抗感を超えていくためには、とことん腹落ちしてもらうことが大事です。また、副業を始めた人が困らないように、障害があるならば取り除いてあげるコミュニケーションも必要だと思っていました」(渡辺氏)

 

渡辺氏は、社内の有志勉強会メンバーからのヒアリングや社内アンケートを実施し、副業を行うことを従業員に対して容認している他社へのヒアリングも行いながら、㈱東芝と連携して仕組みづくりを進め、2020年4月から㈱東芝およびTDSLにてトライアルを開始した*1。初年度の実績として、1年間で合わせて約60名*2の申請があったという。副業の内容としては、資格やスキルを生かしたもの、業務経験や知識を生かしたもの、趣味から派生したものなど幅広く、半数以上が本業と直接関係のないチャレンジをしている。また、目的の多くはスキルアップや自己実現のためであり、約8割がそれを達成できているとの結果だった。

 

*1:2021年4月以降は、東芝インフラシステムズ株式会社、東芝デバイス&ストレージ株式会社にも副業トライアル制度の範囲を広げて実施中。
*2:2020年度実施者数60名の内24名が(株)東芝所属、36名がTDSL所属

副業申請者の副業内容の一部

副業申請者の副業内容の一部

「正直、60名が多いのか少ないのか、現時点では評価しきれませんが、少なくとも60名の希望を拾い上げることができました。このことが、個の成長と人生の豊かさ、東芝への愛着に繋がってくれれば、導入した意義があったといえます。また、実績を積み重ねることで、東芝に入社する人に対して魅力的に映ればと思っています」(渡辺氏)

 

次に、実際に副業を始めた一人の疋田氏に、自身の経験、そこで得られたものを語ってもらった。

副業経験者に聞いてみた ―スキルに留まらない視野の拡大

2020年の副業開始時、疋田氏はTDSLで顔認識AI「カオメタ」を担当していた。このプロジェクトの立ち上げから携わり、商品企画から設計、PoCやプリセールス、プロジェクトマネジメントなど、幅広く担当していたという。驚くべきは、「カオメタ」のリリースを行ったのと同時期に、副業で新しい会社を起業したという。

 

好きな言葉は、「やってみないと始まらない!」。何事にも行動することを心掛けている、という疋田氏。東芝での製品リリースという大仕事を行う傍らで、どのような会社を立ち上げ、どのように仕事を両立させているのか、詳しく聞いてみた。

東芝データ(株)技術部第一 疋田裕二氏

東芝データ(株)技術部第一 疋田裕二氏

疋田氏は、大学に入学する直前に東日本大震災を経験。この出来事に大きな衝撃を受け、大学在学中から被災地支援に関わり続けてきた。「長年災害ボランティアとして現地で活動する中、『まさか自分が被災するなんて』という声を聞く機会がとても多かったんです。防災をもっと普及させたい、防災を広める仕組みづくりに関わりたいとずっと思っていました」(疋田氏)

 

そのような中、彼と同じく『災害が起きてから被害を事後的に最小化する活動ではなく、根本的に起こる被害を少なくする仕組みをつくりたい』という想いを持った仲間と共に、株式会社KOKUA(以下、KOKUA)を設立。厳選した防災グッズを集めたカタログギフト『LIFEGIFT(ライフギフト)』を制作し、販売を開始した。

 

「日本では、約90%の人が『いつか災害は起こる』と考えている一方で、自宅で対策を行っている人は40%程度に過ぎない、というデータがあります。KOKUAはこのギャップを埋めるために、生活環境に調和したおしゃれな防災グッズを集めたカタログギフトを制作し、それを大事な相手に贈るという行動を作り出すことで、日本全体で災害被害がもっと小さくなることを目指しています。

 

防災グッズをプレゼントすることで、『あなたの無事が、いちばん大事』といったメッセージを相手に伝えることもでき、利用者には喜ばれています」(疋田氏)

防災グッズを集めたカタログギフト「LIFEGIFT」

防災グッズを集めたカタログギフト「LIFEGIFT」

長年の思いを形にする事業だったが、当初はリソースの確保、資金集め、商品提供企業との調整など、今までに経験したことがない仕事も多くあった。さらに、まだ市場にないサービスを生み出すことに対し、「本当に売れるのだろうか」という不安は絶えなかったという。しかし、いざLIFEGIFTの販売を開始すると、テレビやメディアなどでも取り上げられ、多くのユーザーから好意的な反応や応援の声が集まり、それが自身の大きなやりがいに繋がった。

 

週5日は東芝に勤めながら、ベンチャー企業の共同代表として活動する疋田氏。どのように二つの仕事を両立し、また互いにどのような影響があるのか?

 

「私のKOKUAでの仕事は平日の夜と休日に行っています。忙しくなったことは確かですが、コロナ禍で自宅にいる時間が増えたこともあり、東芝での仕事とうまく両立できています。また好きなことをやっているので、忙しいけど楽しいんです。

 

副業を始めてから、大きく2つの影響があったと思っています。一つは、「人を巻き込む力」がついたこと、二つ目は社会的インパクトについて考えるようになったことです。KOKUAでは『自然と防災に取り組める社会を創出する』というミッションを掲げています。営利企業でありながら、どうすれば社会をもっとよりよくできるのかを日々意識して活動することができるようになり、東芝での仕事でもそのような意識が高まったと感じています。」

 

また、東芝という大きな企業にいながら、ベンチャー企業の視点を持つことができ、多様な考え方や捉え方で仕事を進めることができるようになったという。上司も副業は自己成長に繋がる良い機会だと理解し、応援してくれていると話す。

 

「東芝には、従業員のやりたいことを応援してくれる文化があります。副業に挑戦してみたいなら、やれない理由を探すのではなく、小さくてもいいから始めることが大事かなと思います。人生は一度きりで、時間は戻ってこないですから」(疋田氏)

インタビューしたお二人の写真

 

渡辺氏と疋田氏の2人の言葉からは、「どこでも、誰とでも、何歳でも働ける」という感覚が当たり前になり、人生100年時代を豊かにする備えが自然とできている空気が感じられた。この先どうなるかは誰もわからないが、未来を想像しながら、自分が今取れるアクションを考え、実践する重要性を痛感する。多様な人材が活躍するために、企業も多様性を受容できるような制度を整え、社会全体で豊かで多様な人生100年時代に向けて、動き出す必要があるのではないだろうか。

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

https://kokua-social.jp/

Related Contents