顔認識AIで変わる、テレビの未来

2020/04/28 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 身近なテレビ報道の裏側に、顔認識AIを導入
  • 本人適合率99.74%の精度が変える、テレビ番組づくり
  • 日テレと東芝の共創が照らす、AI技術を活用した未来
顔認識AIで変わる、テレビの未来

誰もがスマートフォンを持ち、いつでもインターネットにつながっている時代となっても、情報の中心にテレビがあることは変わらない。それは、テレビが早く、正確な情報を報道し続けていることへの信頼の証しだ。

 

そんなテレビ報道の舞台裏で、東芝が提供する人工知能(Artificial Intelligence: AI)の技術が生かされている。AI技術を通じて既存のテレビのあり方を超えようとする、日本テレビ放送網株式会社(日テレ)と東芝の共創に迫る。

テレビ報道の裏側を支えるAI技術

報道機関としてテレビ局が得てきた信頼は、テレビ放送開始以来65年以上にわたって積み上げてきた、正確な情報提供を追求する真摯な態度の表れだ。こうした正確な報道は、華やかなテレビ画面には映らない場所で、多くのテレビ局スタッフの大きな労力、地道な努力の上に成り立っている。

 

日テレ 技術統括局で、テレビ放送や番組制作の技術の研究開発、導入を担当する加藤大樹氏は、AIが変えるテレビの将来についてこう語る。

 

「AI技術を活用することで、私たちは、報道の正確性、それを支える番組制作現場の働き方、さらに番組づくりのあり方を進化させられると考えています」

 

日本テレビ放送網株式会社 技術統括局 技術戦略部 主任 加藤 大樹氏

日本テレビ放送網株式会社 技術統括局 技術戦略部 主任 加藤 大樹氏

加藤氏は、2019年7月の参議院選挙特別番組の舞台裏で、東芝との共同研究により開発された顔認識AI「カオメタ™」の試験導入を行った。

 

「選挙特番では、大勢の候補者を生放送でご紹介しますが、突然入ってくる中継映像に映っている方が誰なのか瞬時に判断して、視聴者に正確に伝えなければなりません」(加藤氏)

 

選挙特番など報道番組の被写体確認作業では、大勢の人手を使って、あらかじめ用意した書類やインターネット上の情報などと映像を目視で比べ、誰が映っているのか判別していた。これは、誤報による社会的な影響を考えると、非常に緊張する作業である。カオメタ™を導入することで、あらかじめ登録された候補者の顔が映ると、横に名前が表示される。複数の顔を認識した際には、それぞれの氏名が登録時の写真とともに表示されるのだ。

カオメタ™のシステム導入イメージ

カオメタ™のシステム導入イメージ

参議院選挙特番での実証実験における認識精度は、本人適合率99.74%*だった。人間が目視で行った際の精度は97%程度と言われているため、人の能力を超える非常に高い本人適合率だったことがうかがえる。カオメタ™は、髪型の変化、加齢による見た目の変化等に関係なく、大量の顔をリアルタイムに認識したという。

* 認識結果を一定間隔でサンプリングし、評価した結果

「実は、0.26%というわずかな誤認識は、映像の切り替え時に発生するトラッキングによるものでした。これは、異なるカメラ映像へと切り替わった際に、認識する顔を見失ってしまうために起こるもので、それを除けば、今回は100%と言える精度だったわけです。カオメタ™で、正確性と効率性という、二律背反する要求を同時に達成することができました」(加藤氏)

 

編集済み放送映像素材の、オンエア前の最終確認の様子

 

編集済み放送映像素材の、オンエア前の最終確認の様子

カオメタ™を活用することで、編集スタッフは時間的にも精神的にも随分と楽になったという。また、確認作業のスピードアップにより、タイミングを逃すことなく用意したVTRをオンエアできた結果、お蔵入りになるVTRが減った。そして、オンエアした量がその前の参議院選挙特番に比べて2倍に増え、多くの情報を視聴者に提供できた。

 

こうして、参議院選挙特番での実証実験は、大きな成果を上げることになった。また、番組制作の正確性と効率性の二律背反を乗り越えるだけでなく、カオメタ™導入によって浮いた人手を人にしかできない業務に割り当てることで、テレビ番組のクリエイティビティが上がることが期待されている。

開発者との距離感が、成功への秘訣

加藤氏は、日テレ入社後、編集業務でキャリアをスタートさせた。その後、人事部を経て、テレビ番組の制作技術に関する研究開発に携わった。加藤氏は、それまで当たり前に行われていた作業にも、別のアプローチがあるのではないかと思ったという。具体的には、AIによる顔認識技術を活用することで、報道の正確性と効率性を向上させることができるのではないかと考えた。そして、数十社のソリューション比較により、東芝をパートナーとして選ぶこととなった。

 

「東芝の顔認識AIの精度は、指折りでした。参議院選挙特番でのシステムでもそうでしたが、事前にAIに学習させる対象者の写真がたったの一枚で済むなど、精度だけでなく運用のしやすさでも群を抜いていました。なにより、一緒に新しいものを作っていこうという体制がうれしかった」(加藤氏)

 

東芝が考える技術の社会実装は、一方的なソリューションの提供ではなく、利用する側のニーズに寄り添った開発から始まる。そう語るのは、カオメタ™の開発を手掛けた、東芝デジタルソリューションズの疋田裕二氏だ。

 

「重要なことは、完成したソリューションとしてAIの顔認識システムを提供することではなく、お客様の課題を解決することだと考えています。そのためには、お客様の望みに耳を傾けながら、ともに生み出すプロセスが大切だと考えています。お客様の価値になるものを開発してこそ、私たちの強みや技術を生かしたことになります」(疋田氏)

 

東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部 メディアソリューション技術部 第一担当 疋田 裕二氏

東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部 メディアソリューション技術部 第一担当 疋田 裕二氏

また、東芝は、日テレとの共同作業を、いわゆるアジャイル型の開発手法を使って進めていった。アジャイル開発とは顧客から仕様書を受け取ってからシステムを構築するのではなく、その都度ニーズや課題をすり合わせながら、顧客の目指す姿に近づけ、それを叶えていく方式だ。疋田氏をはじめとする東芝の社員たちは、顧客と何度も話し合い、構築と修正を細かく繰り返しながら開発を進めたのである。

 

加藤氏は、こうした東芝の開発体制に満足したという。

 

「まったく新しいことを始める時には、軌道修正は細かく行わなければなりません。大きな船は、舵が利き始めたらなかなか進行方向を変えることができませんから。開発者との距離感が近いから、お互いに考えていることをスムーズに伝えられました。だから、後からこうすればよかったといった、後悔のない開発ができました」(加藤氏)

 

加藤氏に応えるように、疋田氏が語った。

 

「今回のプロジェクトでも、お客様のニーズを伺うなかで、様々な新しい課題が見つかり、チームで乗り越えました」(疋田氏)

 

あるとき、加藤氏から「顔が映らなくなった人物も特定したい」という要望があった。報道番組では、カメラを正面から向き続けてくれる被写体は少ない。そのため、顔の判別が難しいアングルに向きが変わると、継続して個人を特定できなくなるのだ。

 

この要望に対して、疋田氏たち東芝のチームは、顔認識技術と人物全体を認識させる技術を組み合わせることで対応できると考えた。しかし、人物全体を認識させて追従することになるため、画面が切り替わった時に同じ位置にいる人のデータが混入し、本人適合率が下がる可能性があった。また、決められた期間内に技術開発を完成させられるか、という厳しさもあったという。

 

「この誤認識をどこまで潰して、実用範囲内に納められるのか見当もつきませんでした。スケジュールも厳しかったので、始めはチーム内で慎重になるメンバーもいたのですが、発生するメリットとデメリットを比較して、何がお客様の価値になるか議論した結果、実装することになりました」(疋田氏)

 

結果として、前述のとおり、参議院選挙特番における実証実験のカオメタ™の誤認識を、0.26%というわずかなレベルに収めることができた。今、加藤氏の頭の中には、既存のテレビ番組を超えるような構想があるという。日テレのエンジニア・クリエイター・アナウンサーといった豊富な人材と、同社に蓄積された豊富なデータとAIの組み合わせにより、今までにないテレビ番組づくりを目指している。

 

「例えば、膨大な映像アーカイブから、映っている人が『誰の顔か』ということがわかるように、顔の映像データと、その人の所属や氏名の情報を同時に抽出するシステムを作りたいですね。また、裏側の技術としてだけでなく、視聴者の目に触れるような演出の一環としても面白いことができると思っています」(加藤氏)

 

日本テレビ放送網株式会社 技術統括局 技術戦略部 主任 加藤 大樹氏

 

そんな加藤氏の構想に寄り添うように、疋田氏が続けた。

 

「アーカイブデータに顔認識を用いることで、データの利活用が進み、これまで以上に映像の価値が高くなると感じます。またそれだけではなく、スポーツ選手の走っている位置や速度を推定したり、1つのカメラで対象との距離を推定したり、東芝のAI技術には、テレビの表も裏も変えられるような技術がまだたくさんあります。今後も、これからの報道を支え、ともに新たなものを生み出していきたいです」(疋田氏)

 

50年以上にわたる研究に支えられた東芝のAI技術は、私たちの暮らしに欠かせないテレビ番組の制作に活かされ、視聴者への情報提供を支えている。また、それだけにとどまらず、140年以上の歴史を誇るモノづくりから、健康を守るための医療など、すでに様々なジャンルにAI技術が展開されている。これからも東芝は、AI技術で様々な価値を創造していくだろう。

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