AI時代を支えるHDDの製造拠点とは? 2人のキーパーソンに迫る!

2026/04/27 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 世界のデータ容量の拡大で、HDDの需要が急増
  • 東芝最大のHDD製造拠点では、大容量HDDをフル稼働で生産
  • Autonomyプロジェクトで進める能力強化
AI時代を支えるHDDの製造拠点とは? 2人のキーパーソンに迫る!

1980年代以降、パソコン向けの記憶装置として広く普及したハードディスクドライブ(以下、HDD)。近年は生成AIやクラウドサービスの拡大により、データセンターの記憶装置として需要が増えている。

東芝では1967年にHDD事業へ参入して以来、約60年にわたりHDDを開発・製造してきた。現在では、世界に3社しかないHDDメーカーの一角を担っている。
その東芝グループにおいて、最大のHDD製造拠点がフィリピンにある東芝情報機器フィリピン社(以下、TIP)だ。TIPは1996年に操業を開始して今年で30周年を迎える東芝の一大拠点である。本稿では、TIPで製造管理を担う日本人駐在員と、設計・開発を担う現地エンジニアへのインタビューを通じて、HDD事業の現在地とTIPの役割に迫る。

東芝情報機器フィリピン社
東芝情報機器フィリピン社

拡大するデータストレージの需要とHDDの存在

世界で生成されるデータ容量は近年急速に増大している。こうした中で、記憶装置として期待されているのがHDDだ。
ストレージ用の記憶装置にはHDD とSSD(ソリッドステートドライブ)などがある。HDDは1980~90年代にかけてパソコン、モバイル用途で普及したが、データの読み書きのスピードや衝撃への耐久性の点からSSDが主流となった。一方で、大容量、コスト面で優位性を持つHDDは、大容量のデータを扱うデータセンター向けを中心に近年需要が拡大しており、現在データセンターで扱うストレージ容量の約8割でHDDが使用されている。

TIPでHDDの製造に携わるManufacturing Engineering  Department  兼  Material Science and Engineering Department 池田篤史氏は、現在の状況について次のように語る。
近年、クラウドサービス事業者がデータセンターへの設備投資を進める中で、特にニアライン向けのHDD市場は年々規模が拡大しており、TIPではフルオペレーションでの稼働が続いています。また、大容量モデルの開発・量産を進めている状況で、市場の成長に合わせて生産量を増やし、規模を拡大していくことが今後のミッションです」

TIP Manufacturing Engineering  Department  兼  Material Science and Engineering Department 池田篤史氏
TIP Manufacturing Engineering Department 兼 Material Science and Engineering Department 池田篤史氏

池田氏がTIPに赴任したのは5年前。海外駐在は自身の希望だったという。「日本でもHDDの製造技術に携わっていましたが、より現場に近い製造拠点で、現地従業員と一緒にモノづくりに取り組みたいと考えていました。これまでに何度もTIPへ出張する中で、将来的に赴任することを希望するようになりました」(池田氏)

TIPが製造するHDD
TIPが製造するHDD

TIPでの池田氏の業務は大きく三つある。1つ目が生産計画に沿った安定稼働の維持、2つ目が日本の開発部門とフィリピンの製造現場をつなぐ橋渡し役、そして歩留まり改善や廃却ロス削減といった生産性向上の取り組みだ。中でも、潤滑剤として日本とフィリピンの現場をつなぐ役割は、前任の駐在員からも重要性を引き継いできた。

「TIPは24時間体制で稼働しているHDD量産工場です。新モデルの生産開始時には、日本で十分に検討を重ねていても、現場では想定外の問題が発生することがあります。そうした異常時に迅速な判断を行い、現場で対応することの重要性を日々実感しています」(池田氏)

池田氏とManufacturing Engineering  Department  / Material Science and Engineering Departmentのメンバー
池田氏とManufacturing Engineering Department / Material Science and Engineering Departmentのメンバー

設計・開発機能の進化を支えるAutonomyプロジェクト

HDDの生産が活況を呈するTIPでは現在、「Autonomy(自立性)プロジェクト」と呼ばれる新たな取り組みが進められている。
その中心メンバーの一人が、TIPでHDDの設計・開発を担う、Core Technology Engineering Centerのジョナス・タン氏である。

TIPには優秀な人材と多様な試験設備が揃っており、それらを最大限に活用するため、2024年からAutonomyプロジェクトに本格的に取り組んでいます」(タン氏)

TIP Core Technology Engineering Centerジョナス・タン氏
TIP Core Technology Engineering Center ジョナス・タン氏

Autonomyプロジェクトでは、TIPの自立的なオペレーション確立を目指し、日本の横浜事業所との設計・開発機能の連携を強化している。従来は横浜事業所で行っていた初期分析の一部をTIPで実施し、その結果をもとに横浜事業所が改善策を検討・提示する体制を構築することで、設計・製造の両面で効率化を進めている。

「TIPでは、歩留まり改善など製造工程で発生する課題に対して、日々試行錯誤を行っています。すべての試みが成功するわけではありませんが、その成功が次の改善につながり、大きなモチベーションになっています」とタン氏は明るく語る。

また、TIPには「シンプル・スピード・柔軟性」という基本理念が根付いている。複数ある複雑なテスト工程を最適化(シンプル化)し、工程を省くことで、お客様の希望の納期に間に合うように効率的かつ柔軟なモノづくりに取り組んでいる。

24時間体制でHDDの量産を行うTIPの製造現場
24時間体制でHDDの量産を行うTIPの製造現場

米国でのキャリアの転機、そして今後の目標

現在はHDDの設計開発を担うタン氏だが、キャリアのスタートは製造工程を担当するプロセスエンジニアだった。その後、設計部門への異動をきっかけに、約半年間、米国の会社で勤務する機会を得た。

「言語の壁はありましたが、英語圏の環境で多くのことを学びました。優秀なメンバーに囲まれ、若いうちから設計業務に携われたことは、自身のキャリアにおける大きな転機でした」(タン氏)

この経験を通じて、HDDに対する理解は一層深まったと振り返る。製造プロセスでは決められた手順を確実に実行することが求められる一方、設計の現場では、評価や実験を重ね、問題の本質を見極めるための思考が必要となる。その違いこそが、自身の技術者としての視野を広げるきっかけになった。

今後の目標について、タン氏は次のように語る。「TIPでより多くの設計業務を担えるようになりたいと考えています。フィリピン人技術者の能力を示し、日本側の要求に応えられる体制を築くことは、Autonomyプロジェクトの重要な目的の一つです。また、チャンスがあればいつか日本でも働いてみたいです」

タン氏と設計開発のメンバー
タン氏と設計開発のメンバー

世界で生み出されるデータ量は今後も増え続けていく。TIPが手掛けるHDDはモバイル向けからニアライン向けへと進化を遂げ、さらなる次世代HDDの開発を進めている。AI時代のインフラを支える存在として、TIPの進化と挑戦はこれからも続いていく。

※社名・商品名・サービス名などは、それぞれ各社が商標として使用している場合があります。

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