映像解析AIが変えるセルフレジの常識――カメラ1台で空きレジ案内・支払い漏れ検知を実現!

映像解析AIが変えるセルフレジの常識――カメラ1台で空きレジ案内・支払い漏れ検知を実現!

2026/07/30 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • セルフレジの普及と増加に伴い、小売店舗では「空きレジが分からない」「支払い漏れの発生」という新たな困りごとが発生
  • 東芝テックと東芝が約3年の共創を経て、「空きレジ案内システム」「支払い漏れ検知システム」を商品化
  • 実店舗でのテスト導入では好評価を獲得。商用稼働も始まり、将来的な「スマートストア」の実現へと大きな一歩を踏み出す
映像解析AIが変えるセルフレジの常識――カメラ1台で空きレジ案内・支払い漏れ検知を実現!

近年、人手不足を背景にセルフレジの導入が小売業界全体で進んでいる。中でも商品スキャンから決済まで全て顧客が行うフルセルフレジは便利な一方、新たな課題も生んでいる。人手不足が進む店舗では、1人のアテンダントが複数台のセルフレジを同時に見守るコンセプトになっているが、レジ台数が増えるにつれてサービス品質の維持と各レジへの注意の両立は難しくなる。こうした状況に一石を投じるのが、東芝テックと東芝が共同で開発したセルフレジソリューションだ。映像解析AI「SATLYS(サトリス)」を組み合わせることで、人手を増やすことなく、よりスムーズで安心な買い物体験を実現するという、新たなソリューションと、その実現に至った両社の共創プロジェクトに迫る。

セルフレジが挑む次なる課題

フルセルフレジにはアテンダント(案内員)の常駐が欠かせない。レジ操作に戸惑う顧客への対応や、突発的なエラーへの対処など、アテンダントが担う業務は多岐にわたる。
その負担は年々増している。1人のアテンダントがカバーするセルフレジの台数は、かつての6台程度から、現在では8~10台にまで増加しているという。台数が増えるほど利用者一人ひとりの動きを把握しきれなくなり、サービスレベルの低下や防犯面の手薄さにつながっていく。

「混雑時には『どのレジが空いているか分からない』という利用者に対し、アテンダントが案内に回ることになります。しかし、その対応に人員を割けば他のレジへの目配りが手薄になり、悪意の有無を問わず支払い漏れが発生しやすくなります」と語るのは、東芝テック 量販店ソリューション商品部の西村文秀氏だ。

東芝テック株式会社プロダクト・プランニング&クリエーションセンター 量販店ソリューション商品部 量販店ソリューション第一担当 西村文秀氏
東芝テック株式会社プロダクト・プランニング&クリエーションセンター 量販店ソリューション商品部 量販店ソリューション第一担当 西村文秀氏

実際に支払い漏れが起きれば、担当したアテンダントには事故の報告書作成などが求められることもあり、精神的な負担から担当を敬遠するパート従業員もいるという。セルフレジ自体は年々使いやすく改良されているが、決済手段の多様化など日々のアップデートに利用者が追いつけなかったり、有人レジしか使ったことのない利用者が初めてフルセルフレジ専用店舗を訪れて戸惑ったりする場面も少なくない。

こうした課題に対し、東芝テックと東芝が共創して開発したのが「空きレジ案内システム」と「支払い漏れ検知システム」だ。両システムは、東芝テックが培ってきたPOSシステムの技術に、セルフレジ上部に設置されたカメラの映像を東芝が誇る映像解析AI「SATLYS(サトリス)」で解析することを組み合わせたソリューションである。「空きレジ案内システム」はセルフレジの空き状況をリアルタイムで把握し、顧客を空いているレジへ自動で案内するシステム、「支払い漏れ検知システム」は、セルフレジにおける支払い漏れを即座に検知し、アテンダントへ通知するシステムだ。

空きレジ案内システムと支払い漏れ検知システムの実際のイメージ図。映像解析AIで顧客を認識し、モニターで案内・検知する
空きレジ案内システムと支払い漏れ検知システムの実際のイメージ図。映像解析AIで顧客を認識し、モニターで案内・検知する

「POSシステム上の会計状態の情報だけでなく、セルフレジの前にお客様がいらっしゃることも加味して、そのレジが空いているのかどうかを判断しています」と西村氏は語る。

POSシステムには、人感センサーやカメラなどが既に備わっている場合が多い。これらを活用することで、大きな機材の改修や追加を行わずに新たな機能を実現することを目指して開発が始まった。しかし、レジに搭載済みの人感センサーやカメラをそのまま使うだけでは、様々な形態の店舗に対応することが難しい上、人以外の物体を検知してしまったり、レジ前を通り過ぎる人を誤って検知したりするという課題があった。この問題への答えが、映像からレジを使う人物だけを正確に判別する東芝の映像解析AIソリューションSATLYSだった。

映像解析AIを搭載したカメラで空きレジを案内・支払い漏れを検知。レジを使用する人物を認識するため、より正確な判別が可能。購買行動・店舗経営における効率化や防犯が可能
映像解析AIを搭載したカメラで空きレジを案内・支払い漏れを検知。レジを使用する人物を認識するため、より正確な判別が可能。購買行動・店舗経営における効率化や防犯が可能

頭上カメラの画像認識は、「足元を捉える」がカギ!?

東芝テックと東芝による共創は、2023年度下期ごろから始まった。2024年には様々な展示会に共同で出展し、来場者の声を集めながら商品化の可能性を探っていった。
役割分担は明確だ。東芝テックは小売業界の現場知見と豊富な販路を生かし、商品の仕様や訴求点を企画。東芝側は映像解析AI「SATLYS」を使った仕組みの開発を担当した。「現場の知見は東芝テックに、技術の核は東芝に」というすみ分けのもと、双方が専門性を持ち寄り、何度も試作と検証を繰り返しながら製品に仕上げていった。

「開発は決して常に順調だったわけではありませんでした——実際に店舗へ持ち込むと想定とは異なる現場のニーズや課題が次々と見つかり、その都度仕様を作り直すことも多くありました」(西村氏)

両社で現場での実証実験を重ねていくうち、AI解析にいくつかの難題が立ち塞がった。

「通常は、映像を解析しやすい位置にカメラを設置しますが、今回は順序が逆でした。しかも、俯瞰で近距離を広角レンズで捉えるというレジ上部のカメラでしたから、より高度な解析が要求されました」そう語るのは、東芝でSATLYSによる映像解析を担当する田辺貴之氏だ。

株式会社東芝 デジタルエンジニアリングセンター 流通・メディアサービスソリューション部 流通ソリューション第三担当 田辺 貴之氏
株式会社東芝 デジタルエンジニアリングセンター 流通・メディアサービスソリューション部 流通ソリューション第三担当 田辺 貴之氏

レジ上のカメラでは、顧客の頭部しか映らず、当初は人物として検出できないケースもあったという。そこで、帽子をかぶった利用者などのデータを大量に収集してSATLYSに追加学習させ、精度を高めるという地道な作業を続けた。そんな中、チームのメンバーが口を揃えて「共創の成果」と語る出来事が起こる。

帽子をかぶった人物の画像データを大量に収集してSATLYSに追加学習を実施し、右のように認識精度を大幅に向上させた
帽子をかぶった人物の画像データを大量に収集してSATLYSに追加学習を実施し、右のように認識精度を大幅に向上させた

通常、画像認識で人物を判定するときの中心点は、人間の身体の中心や顔に置いて判定を行うと田辺氏は解説する。しかし、レジ上部に設置されたカメラの画像では、どちらもうまく検出することができず、困難を極めていた。

「ある日、東芝テックの西村さんから『お客様がレジ前に立っているかどうか分かればいいなら、足元を中心点にしてはどうでしょうか?』というアイデアをもらいました。これが見事的中して、検知精度を大幅に向上させることができました」これも、異分野の共創による効果だと田辺氏は語る。

これは、技術開発を担う東芝側がどうしても精緻な設計にこだわりがちだったところに、東芝テック側からの、より現場目線でのシンプルな提案が精度向上へとつながった例の一つだという。

「現場に共に張り付き、日々顔を合わせてコミュニケーションを重ねてきたからこそ生まれたものだと思います。お互いに無理を言い合える関係が、開発の3年間で育まれてきました」と語るのは、東芝の岩本修平氏だ。営業担当としてこのプロジェクトを取り仕切り、顧客や社内、東芝テック側とも密に連携を取りながら進めてきた彼が、しみじみと振り返る。

株式会社東芝 ICTソリューション事業部 流通ソリューション営業部 営業第三担当 岩本修平氏
株式会社東芝 ICTソリューション事業部 流通ソリューション営業部 営業第三担当 岩本修平氏

導入店舗で見え始めた効果と、その先にあるスマートストアの実現

「空きレジ案内システム」と「支払い漏れ検知システム」の両システムは、2025年9月に東芝テックによって商品化された。早速、いくつかのスーパーマーケットにて商用導入に先立つテスト稼働を実施。ある店舗では、セルフレジエリアのアテンダント人数を、導入前の1日平均24.6人から導入後は18.2~22.5人へと減少することができた。支払い漏れ検知システムを導入した店舗でも、支払い漏れの発生件数が減少したほか、検知時に該当レジのみに注視すればよくなり、アテンダントからは、負担が軽くなったとの声が上がっている。

利用者の行動を変える効果も見え始めている。混雑時には、これまでアテンダントが声をかけて誘導していた空きレジに、案内表示を見た利用者が自発的に向かうようになったという。支払い漏れについては、実際の抑止事例はまだ報告されていないものの、出口のサイネージで「監視している」ことを示すこと自体が利用者への一定の抑止効果を生んでいるという声も寄せられている。2026年3月28日には、ライフ大井町トラックス店で、セルフレジ29台を対象にした空きレジ案内システムが商用第1号として稼働を開始している。

今後の課題として挙げられるのが、表示レイアウトの細やかなカスタマイズだ。「『次に向かうべきレジ番号だけを表示してほしい』『店舗のレイアウトに合わせたマップ表示にしたい』など、導入店舗ごとの要望は多岐にわたります。あわせて、店舗の規模に応じて設置・設定作業をAIで自動化し、運用・保守の手間を軽減することも目指したい」と岩本氏は目標を掲げる。

技術面では、SATLYSが持つ複数のAIエンジンをさらに組み合わせ、利用者の店内での動きをより詳細に追跡したいと田辺氏は考えている。その先にあるのは、東芝テックが取り組む量販店向けソリューション「スマートストア」構想の一環として、防犯や省人化の切り口から新たなサービスを広げていくという考えだ。

人手不足という共通の課題に対し、店舗運営に近い東芝テックの知見と、映像解析という東芝の技術力を組み合わせたこの取り組みは、グループ内共創ならではの成果だ。「空きレジ案内システム」と「支払い漏れ検知システム」という小さな課題解決の先に、両社が描くのは、人手に頼らずとも安心して買い物ができる「スマートストア」の実現である。

田辺氏、西村氏、岩本氏の写真

※プロジェクト発足当時は東芝デジタルソリューションズ株式会社と東芝テック株式会社が連携していたが、2026年4月1日付で東芝デジタルソリューションズ株式会社は株式会社 東芝に統合され、東芝テックとの連携を続けている。

参考記事・サイト

※参考記事・サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

AI技術と共創による小売事業者向け防犯・省人化ソリューション展開開始
https://www.toshibatec.co.jp/news/release/20251205-01.html

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

SATLYS(サトリス)- 東芝のAI分析サービス・映像解析AI | 東芝アナリティクスAI SATLYS | 東芝

SATLYS(サトリス)- 東芝のAI分析サービス・映像解析AI | 東芝アナリティクスAI S