東芝の若き技術者たち ~照明が新しい世界を創る~
2021/02/03 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 新型コロナウイルス対策に希望の光。紫外線でウイルスを抑制
- 天井に広がるフロンティアを開拓する、東芝ライテックのアイデア
- 光が秘めた未知なる可能性を探り、社会課題の解決を目指す
電気による灯りが、夜を明るく照らすようになってから100年以上が経つ。それ以前の人々は日の出とともに目覚め、日没とともに訪れる闇によって眠りに誘われていた。だが、スイッチ一つでいつでも必要なだけの明るさを得られる現代社会においても、降り注ぐ日差しが健康の源であることを、我々は肌で感じることができる。そして、その太陽の光の力を科学技術により再現することで、大きな社会課題に挑戦しようとしている技術者がいる。
新型コロナウイルス対策の決め手となるか!有人環境でも照射できるウイルス抑制・除菌用紫外線照射器「UVee(ユービー)」
紫外線には、ウイルスの活動を抑制したり除菌したりできる効果があることが古くから知られている。晴れた日に天日干しされた布団が心地よいのは、日差しによる除菌効果を実感しているからかも知れない。
「紫外線の照射によって、新型コロナウイルスの活動を抑制することが期待されています。ただし、どんな紫外線でもいいわけではありません」
そう語るのは、東芝ライテック株式会社の井手渚紗氏だ。東芝ライテックでは、ウシオ電機株式会社との共同開発による、有人環境下で使用できるウイルス抑制・除菌用紫外線照射器「UVee(ユービー)」を2021年1月に発売した。これは、ウイルス抑制および除菌ができる紫外線の波長域のうち、人体への影響が少ない200nm~230nmのみの紫外線を照射することができるウシオ電機製の光源モジュールCare222®と、これを効果的な位置から照射するための東芝ライテックが持つ照明の設計とその制御技術が組み合わされた製品である。
東芝ライテック株式会社 CPS推進部 井手渚紗氏
「Care222®が最も効率よくウイルス抑制できる設置環境を提供するよう、東芝ライテックの照明器具分野での知見が生かされた製品となっています」
紫外線による除菌というと、これまでは専用の装置に除菌したいものを入れて、紫外線を照射するというタイプのものや天井近くに設置して空気を除菌する空気殺菌灯が一般的であった。だが、Care222®のように人体への影響が少ない光源モジュールの登場により、人間のいる場所でも使用することが可能となった。新型コロナウイルスの対策という面から考えれば、「人間のいる場所だからこそ使いたい」という要望にかなった機能であると言えるだろう。
「私の仕事は、お客様が必要とされている製品をご提案することです。そのためには、お客様が何を望まれているのか、正しく把握しなければなりません」
井手氏は、この業務に携わる際に上司に言われた言葉を大切にしているという。それは「お客様目線で考えること」と「お客様のご要望は必ずしも私たちとって分かりやすい言葉になっていない」の二つだ。常に顧客にとって今何が必要なのかしっかりと聞き取り、それを実現できる提案を行うことを目指しているという。
「『お客様が除菌したいのはどこか?』といった検討を重ね、それを形にしたのが、狙った場所を除菌できる天井設置型で首振り可能なユニバーサルダウンライトタイプの製品です。紫外線やその効果は目に見えるわけではないので、光源からの距離による除菌効果の差などのシミュレーション結果に基づいて、どれくらいの時間でどの程度の効果があるのか、他の方法と比べてどうなのかといったことを、お客様に分かりやすく説明することを心掛けています」
井手氏は、東芝ライテックの強みは天井にあるという。天井には照明、空調設備、防災関連設備など様々なものが埋め込まれている。しかし、まだまだ活用されていない、これからのフロンティアだと語る。
「これまでのネットワークの進化から少し取り残されていた天井ですが、ここには大きな可能性が広がっています。これまで照明を中心に天井を活用してきたライテックだからこそできる、天井の活用方法があります」
食堂の天井に設置されたViewLED
東芝ライテックでは、天井埋め込み型のLED照明にカメラをプラスした製品「ViewLED(ビューレッド)」を2019年に発売している。これは、近年増加している様々な用途での映像記録ニーズに応えるべく、設置場所などの複数の課題を、照明に組み込むことにより解決を目指した製品である。カメラ設置のために必要な広く室内空間を見渡せる位置や、電源の取得しやすさなど、天井設置には多くのメリットがあると井手氏は語る。
井手氏は現在、このViewLEDのように、照明分野でもCPS(Cyber Physical Systems)を事業化していくプロジェクトに取り組んでいる。
「照明が設置される天井周りを中心に、お客様の困りごとを解決する商品やサービスを開発したり、それを可能にしたりするためのネットワーク環境の構築などの技術開発を行っています」
民間企業で見つけた、世界で活躍する研究者に憧れて
井手氏の大学時代の専攻は建築だったという。中でも照明が人間に与える影響について研究をしていた。大学院時代の研究室は、光による生体リズムへの影響についての研究が行われているなど、建築よりも医学に近い内容だったという。
「どんな波長の光が、どう生物に影響を与えるか、実験用マウスに光を照射して脳細胞の状態を調べるといった、建築学科のイメージからは少し離れたテーマを扱っていました。こうしたテーマは、人のいる場所で紫外線を照射して除菌を行うという、Care222®搭載製品の開発にも役立てられたと思います。安心を得るための紫外線が、人の健康を脅かすことになっては、意味がありませんから」
そんな井手氏の東芝入社の決め手となったのは、大学4年時の参加した海外の学会だった。そこで、後に上司となる東芝の研究者と出会う。
「海外の学会にいらっしゃるのは、大学や政府系の機関に所属している研究者ばかりだと思っていましたので、そこで発表するような技術者がいる会社って、どんなところだろうって、単純に興味を持ちました」
井手氏は、その研究者に触れ、研究と、すぐに人の役に立つような技術の開発を両立させ、利益を上げている東芝にだんだんと惹かれていったという。さらに、その研究者が子供を持つ母親であるということも、自分が描く理想の将来とも重なったのだったという。
「その時に東芝グループに持ったイメージは間違っていなかったと思います。私自身、子供を持つ親になって、仕事と家族のどちらも大切にできる環境は、すばらしいと思います」
電球が誕生してから100年以上、人間は太陽の日差しのない夜でも、光の届かない建物の中でも、いつでもどこでも必要なだけの明るさを得られるようになった。そして、スマートフォンをはじめとする機器の普及により、照明としての光だけでなく、直接光を見つめる機会が増えてきた。こうした状況について井手氏は次のように語った。
窓から差し込む日差しの力が、照明のお手本だという
「光には、まだまだ知られていない力があります。それは体に害のあるものだけでなく、使い方によっては仕事の効率を上げるなど、様々な効果が期待できるものも多くあります。照明は、用途、場所、そして人に合わせて変化するべきなのです」
2020年、世界は新型コロナウイルスという大きな課題を抱えることになった。それに対し、製薬の分野では、様々なワクチンが開発されつつある。そして我々も、リモートワークをはじめとする、ウイルスに強い新しい社会の在り方を模索している。
「ウイルスの抑制や除菌という力だけで見ても、光には大きな可能性があります。私たちが新型コロナウイルスとの戦いに勝った後も、新しい脅威となるウイルスは生まれてくることでしょう。そこでも、光が大きな力を発揮できるように、照明の分野から社会に貢献し続けていきたいと思います」
関連サイト
※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。
UVライティング(紫外線除菌、ウィルス抑制) | 東芝ライテック(株)
有人環境下で使用できるウイルス不活化・殺菌技術「Care222R」を搭載した新製品2機種を1月から発売 | プレスリリース | 東芝ライテック(株)