「東京都トップレベル事業所」に選出 東芝・府中事業所の5つの実験的取り組みとは!?
2018/11/28 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 2017年度「東京都トップレベル事業所」に選出された東芝の府中事業所を見学!
- 「PoC(概念実証)」で生み出された数々の取り組みのうち、5つの秘密に迫る!
- 広大かつ歴史ある事業所の設備変革が生み出す未来とは?

地球温暖化対策の推進が特に優れた事業所として東京都が認定する「東京都トップレベル事業所」。2017年度では、たった10の事業所しか選ばれなかった狭き門である。
その10の事業所のうちの一つが、東芝が有する東芝の府中事業所だ(※)。その先進性は様々な自治体や団体が見学に訪れるほど。
※府中事業所は、東京都トップレベル事業所(優良特定地域温暖化対策事業所)のうち、区分Ⅱ(工場など)において認定された。区分Ⅱにおいて認定された事業所は、府中事業所を含め2事業所のみ。なお正式な被認定者は「東芝インフラシステムズ(株) 府中事業所」。
府中事業所の竣工は1940年。敷地面積は、東京ドーム14個分の65.5万㎡である。このような大規模かつ歴史ある事業所がトップレベル事業所に認定されるのは非常に難しい。というのは、認定には一定数以上の新しい高効率設備の導入から最適な運用管理まで求められるからだ。古い事業所では、必然的に古い機器が多く、設備の数が膨大になるため、管理が難しい。
今回、事業所の設備管理の立場から受賞に関わった3人に、アイデアなどの実証を目的とした、試作開発の前段階における検証である「Proof of Concept=PoC」をキーワードに行っている、様々な実験的取り組みを特別にガイドしてもらおう。
取り組みその1.地域から愛されるヤギ・ひつじ
はじめに案内されたのは、事業所内にある緑地だ。緑地面積が約10万㎡となる事業所では、緑地管理での除草機によるCO2排出や多大なリソース投入が大きな問題となっている。そこで2014年からヤギを、翌年からひつじも事業所内で飼育し、雑草を食べさせて除草を行っている。年間で削減できるCO2は613.3kgにもおよぶ。
好奇心旺盛なヤギたちは、見慣れない旗に興味津々。
左から、東芝インフラシステムズ株式会社 府中事業所 村田禎(ただし)氏、
同・グループ長 松元康一郎氏、同・鎌田英昭氏。
夏場のみ専門業者から借りていたが、4年目となる2018年は、府中市内にある東京農工大学から子ヤギを預かり、冬も継続して作業にあたってもらっている。
「農工大では教育を目的として小中学校にヤギを貸し出していますが、夏休みなどの長期休暇は管理が難しいため、放牧する緑地が完備されている府中事業所で引き受けています。今年は2頭を冬に預かることとなりました」(鎌田氏)
ヤギ・ひつじを通じて近隣の大学や小中学校などとの地域交流も活発になっている。
「今年の1月、東京では積雪23 cmを記録するほどの大雪の日もあり、ヤギやひつじたちがどうなるか心配だったのですが、事業所内の工場で使用するコンプレッサ(※)の排熱で子ヤギの体を温めることで冬を乗り越えました。」(鎌田氏)
※工場の製造過程では、機械を動かす動力として、コンプレッサという機器によって空気を圧縮・供給する。
取り組みその2.電力使用量管理システム「デマンドEYE」
ヤギたちと別れ、普段彼らが執務する建屋に入ると、村田氏はパソコンの画面を開いた。
「これは、府中事業所の電力使用量を把握するシステム『デマンドEYE』です」(村田氏)
「デマンドEYE」は、府中事業所にある建屋を電力使用量ごとに信号機の色で示し(左図)、加えて、建屋のフロア、時間ごとの使用量をグラフで見える化(右図)
2011年の東日本大震災では、企業に対して15%の電力のピークカットが求められた。スマートメーターが普及していない当時、自作したのが「デマンドEYE」だった。通常のスマートメーターであれば30分程度の間隔で電力量を把握するのに対し、この「デマンドEYE」は1分単位で使用量を測定できる点が大きな特長だ。
また、「デマンドEYE」は事業所全体のみならず、建屋ごとに電力量も把握できるため、それぞれの業務に見合った電力のピークカットが可能となった。
「当時、ピークカットの要請から実施まで短期間で製作し、効果を検証して、改善につなげました。これはその後の取り組みのヒントとなります。短期間で見える化・情報共有することへの成功体験となりました」(松元氏)
議論ばかりで実際の運用フェーズにまでたどり着かないという職場も多いだろう。だが、ここでは事業所をモデルとして実験的な取り組みと検証が行われている。これが現在の改善につながっているのである。
取り組みその3.たった数千円のIoT設備!?
2016年。IoTという言葉が注目され始めてはいたものの、活用している職場は少なかった時代だ。そのような中、自分たちが執務するオフィスにおいて実験的に自作のIoT設備を設置し、仕事の効率向上を目指した。全設置にかかった費用はたった数千円。
「ガスメーターなど様々なものを設置しました。中でもよく話題になるのが、トイレの使用状況を把握するシステムです。『われわれの間では、IoTはInternet of Toiletsだよね』などと冗談も言っていました」(村田氏)
トイレの使用状況を把握するシステム。
モニタの右上のオレンジ色が未使用、右下の青色が使用中を示す
村田氏らの業務は設備管理だ。そのため外部の工事業者の出入りが頻繁で、トイレが混雑することも多かったという。増設も検討したが、東芝の従業員数に対するトイレの数は足りているため、むやみに増やすのもためらわれたという。
「このIoT設備ではドアの開閉によって、トイレが使用されているかどうかを把握します。しかしプライバシーの問題もありますから、職場の理解を得た上で設置しました。使用状況を見える化することで、トイレが混雑することが少なくなりました。現在ではオフィスのモニタで使用状況を確認してトイレを使用しています」(鎌田氏)
女子トイレの扉に付けたカウンターは事務所の稼働状況を分析する目的で取り付けている。また同じカウンターはトイレ以外のドアにも設置している(右)
その他、CO2濃度など職場環境を計測する設備も設置(左写真)。
計測結果は収集されるたびに定期的に通知される(右写真)
取り組みその4.IoT設備ふたたび
職場でのIoT化がほとんど注目されていない中で自作のIoT設備を設置し始めた2016年に対し、現在はIoTやAIによる働き方改革の波が押し寄せ、改めてIoT設備の設置が熱を帯びてきている。
「いきなり多額の設備投資によってIoTやAIを導入すると言うと、従業員にとって抵抗感が大きくなります。そこで私たちはあえて手作り感のある受け入れやすい設備設置から始めています」(村田氏)
2018年は10を超える設備を村田氏らの執務室などに設置したが、そのうちの一つが「一斉お知らせシステム」。これはホームページで文字を入力すると、音声合成で各IoT端末からお知らせが流せるシステムである。
「一斉お知らせシステム」。スピーカーから音声合成でお知らせが流れる
「この執務室には雷センサも実験設置しています。このセンサと『一斉お知らせシステム』を組み合わせ、雷雲が近づいたときに、自動でお知らせが伝わることを目指しています。停電など雷による設備障害を回避することが目的です」(松元氏)
今後、事業所内の各執務域の受付などでタブレット上の名前ボタンをタッチするだけで、「お客様が来訪されました」などとお知らせを流し、誰が誰を呼び出しているのか分かるようにしたいという。こうした取り組みは受付を担当する人々の負担を大きく軽減するに違いない。
取り組みその5.設備改革から生まれる未来を案内!
最後にこうしたPoCによって目指す未来について聞いてみよう。
「府中事業所の設備から“波動”を生み出したいと思います。ここでの取り組みを実証モデルとして、様々な事業所の改革に役立つことを目指し、日々取り組んでいます」(村田氏)
今、設置しているIoT設備も実験的取り組みの検証・改善に大きく貢献している。多くの場合、設備改革の効果の測定には定性アンケートを使用する。アンケートでも効果は把握できるものの、やはり定量的に測定したいという気持ちもあるだろう。そこで、様々なIoT設備を活用して動体検知などを行い、収集したデータをさらなる設備の改革へとつなげようとしている。
顔を画像認識で把握し、従業員の動きを捉える設備
「運用が何よりも大切です。PoCにより多くのものを生み出し、事業所のトップランナーとなりたいと考えています」(松元氏)
戦前に竣工された府中事業所は古く、そして広大な面積を有する事業所である。ここでは『都市開発』ならぬ『事業所開発』を推し進め、所属するメンバーが一丸となって、検証と改善を繰り返しながら理想に向けて走り続けている。