【講演レポート】2019 Japan IT Week 「東芝が考える、日本のDX」

2019/06/05 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 人類の繁栄を加速するスケールエフェクトの三つの重要な柱とは?
  • データとデータが直接つながる世界になるために必要なのは「概念」
  • 東芝が考える「リファレンスアーキテクチャー」を解説
【講演レポート】2019 Japan IT Week 「東芝が考える、日本のDX」

今春開催された「2019 Japan IT Week 春 -前期-」で、「東芝が考える、日本のデジタルトランスフォーメーション」をテーマに東芝の最高デジタル責任者の島田太郎・執行役常務が講演を行いました。今回のToshiba Clipでは、「講演レポート」として当日の講演内容を一部編集してご紹介します。

人類の繁栄を加速するスケールエフェクト

皆さんの中で『サピエンス全史』という本を読んだ方はいらっしゃいますでしょうか。この中で、人間とサルを分けるのは、人間がDNAの限界を超えたことだと書かれています。DNAが一切変わっていないのに、人間だけは進化することができた。その理由は共通概念だと言っています。共通概念とは何か。例えば神様、文字、お金、民主主義、そして国というようなものまでが概念として存在していて、それに対して人間はものすごい力を発揮するのです。

株式会社東芝 執行役常務 島田太郎氏

株式会社東芝 執行役常務 島田太郎氏

全体を見回すと、人類の繁栄を加速するスケールエフェクトの三つの重要な柱があります。一つ目が処理をする能力。二つ目がデータ。そして三つ目が先ほど申し上げました概念です。

 

「処理する能力」とは何か。これは実は人口のことを言っています。人類の歴史は人間の数を増やす、プロセッサー数の増加の歴史であると捉えているわけです。そして、もう一つがデータコネクションです。グーテンベルクの活版印刷機に加え、電信、電話と発展してきました。また、データの移動も以前は船と機関車でしたが、いまや航空機で爆発的に人の移動ができるようになってきました。

 

さて、これらをまとめてもう一回考えてみると、今の時代、処理とプロセッシングが人間をAIに置き換えると言われると少し嫌な感じがしますが、実際に様々な作業がAIでできるようになってきています。また、ロボットや自動化によって、以前はすべて人の手でやっていたものが、様々な形で処理ができるようになってきています。

 

そして、それらをうまく動かすためにはデータがどうしても必要で、IoTの技術や、Social Graph(※1)と言われる技術、SQL None SQL(※2)といった様々なデータベースのプラットフォームやフォーマットが開発されました。しかし、これらを結びつけるために一番重要なものは「概念」です。新しい標準であったり、法律やレギュレーション、アーキテクチャー、場合によっては社会的なアクセプタンスです。この国でこれをやってもいいけれども、あの国ではこれは駄目とか、単なる概念でしかないわけです。

 

※1:Social Graph
インターネット上での複数のユーザーの結びつきや相関関係をいい、ソーシャルメディアの相互運用を促す概念。
※2:SQL
関係データベース管理システムにおいて、データの操作や定義を行うためのプログラミング言語。

こうやって考えてみると、日本はこの三つの中で処理やデータを大変得意としています。しかし、概念ということになると、どうもわれわれは深く考えていくことが足りていないのではないかと時々感じることがあります。ここでは、まずこの概念と、今後東芝がこの概念について、どういうものを打ち出していこうと考えているかということに関してもご説明したいと思います。

データとデータが直接つながる世界をつくる

概念というとドイツということで、Industrie4.0の基礎は、リファレンスアーキテクチャーモデルという概念を打ち立てたことだと私は思っています。手前側にプロセス、奥側にハードウエア、そして縦側にソフトウエアという三次元構造によることで、製造業が行うすべての作業をこの三次元の中で表現できるようにしています。

Industrie4.0の基礎 RAMI4.0

一方、3.0時代は階層構造だったと言えます。この階層構造をぶち破ってモノとモノが直接つながる世界をつくる。そのために必要なのは、ドイツ語でVerwaltungsschale、英語でadministrative shell、日本語では管理シェルと言われているものです。いろいろな機器の上にソケットをはめ付けて、データとデータが直接つながるような世界をつくろうという概念を打ち立てたわけです。

 

東芝では昨年11月「東芝Nextプラン」というものを発表しました。その中で、この5年間は基礎的な成長を高める。しかしながら、その先としてはサイバー・フィジカル・システム・テクノロジー(CPS)カンパニーへと変貌を遂げていくと発表しました。これも一つの概念になります。

 

私はCPSとはデジタルビジネスモデルであると申し上げています。サイバー企業が高い利益をあげています。彼らのビジネスのやり方は、日本企業がやっていた旧来のビジネスのやり方と根本的に違います。これをサイバーだけではなくフィジカルも丸ごとやることによって、世界初のサイバーフィジカル企業になろうというのがわれわれの目標です。

 

例えばバリューチェーン。このバリューチェーンをデジタル化するとどういうことが起こるのかというと、バリューチェーンが縮小します。これは効率化していますから当たり前です。縮小するということは売上げが小さくなるということです。もちろんマーケットシェアを伸ばせば売上は増えるのですが、単体では今までの流れよりも小さくなるのです。ここに何とも言えない苦しさがあり、頑張ってデジタル化をやればやるほど売り上げが小さくなる。しかし、われわれはやらないわけにいかない。敵がやってきますから。

Digital Evolution DE と Digital Transformation DX

それに対して、Layer Stack EcoSystemと言われるような、サイバー企業がやっているやり方は全然違います。競合他社のものもまるで自分のサービスのように取りまとめて提供するというものです。これをサービス化するというような言葉でくるんでいるわけですが、そういう方法を彼らは取ってきているわけです。

 

では、そういう世界でどうやってカニバリゼーション(共食い)を避けるのか。

 

一つの方法は、プラットフォーム化するという方法です。Googleのモデルを例に挙げると、お金を取らない顧客とお金を取る顧客を分ける。サブサイドとマネーサイドです。例えば、AndroidやGoogle MAPといったものをただで配っている。そして、広告で利益を得る。すなわち、自分たちが目の前の「この人はお客様だ」と思っている人を、引き続きお客さまなのですが、「あなたはただでいいです」と。そこから得られる力を使って、ほかで利益を得る。これは2006年のハーバード・ビジネス・レビューに書いてありますから、もうかなり古いビジネスモデルです。

カニバリゼーションをどうやって避けるか?

先ほどバリューチェーンは縮小すると言いました。縮小するときに、自分が同じ幅のバリューチェーンしか見ていないと縮小するだけです。自分の範囲を広げると。そして、あえて人が入ってこられないようにするということも考えなければいけません。典型的なのがプリンターとインクカートリッジの例です。このプリンターにはこのインクカートリッジしか使えないようにするといった方法になります。

 

さて、こういった新たなビジネスモデルを開拓してやっていく上で、イノベーションをどんどん加速していくためのプロセスというものを、私は東芝内で提起しました。「Vプロセス」というシステムエンジニアリングの基礎のような話です。Requirement、Function、Logical、Physicalに分け、これを順番にやっていきます。これを、ビジネスをつくるサイクルにそのまま当てはめた方法になります。

RFLPプロセス

IoTリファレンスアーキテクチャーは「弁当箱」?

ここで、東芝が昨年発表した「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー」(下図参照)について紹介します。

 

これはアメリカのNIST(National Institute of Standards and Technology)やIIC(Industrial Internet Consortium)に準拠しており、Industrie4.0から出てきた様々な要件を盛り込んだ形で社内に認知させています。それぞれの部門が別々に作ったものをブロックのようにくっつければ、そのままサービスとして展開できます。

 

社内ではこれを弁当箱と呼んでいますが、この弁当箱におかずを詰めるとソリューションが完成し、フィジカルアーキテクチャーが完成するという仕組みになっているわけです。ここで大切なのはビジネスモデルから順番にこれをきっちりとやることです。

Toshiba IoT Reference Architecture

次に処理についてお話しします。

 

東芝はAIで大変評価されています。AIというのは、単にAIのディープラーニングや強化学習や教師なし学習など、テクニカルな問題だけではなく、そもそも何の問題を解かないといけないのか、何を最適化しないといけないかという長年の知識が非常に重要になります。その両方が合わさって初めて本当の意味が出せます。

 

例えば教師なし学習による製品不良解析。この技術で「2016年度 人工知能学会 現場イノベーション賞」の金賞を受賞しています。

 

さらに、電力予想。これも100社を超える電力予想コンテスト(※3)で1位になりました。画像セグメンテーションも世界ナンバー1です。さらに複数カメラの人物対応付けに関しても、世界ナンバー1の評価を得ています。

 

※3:東京電力ホールディングス(株)開催の電力需要予測値の正確さを競う「第1回電力需要予測コンテスト」
競争力の源泉となるAI技術

こういったものを活用し、ダイカスト(金型に溶融した金属を圧入する鋳造法式)にディープラーニングを適用し、金型のサーモグラフィー画像を見て、金型がそろそろ交換が必要ですねという時期が判断できるようなものを製品化しています。

 

他の例では、倉庫のピッキング作業のような行動分析があります。これに深層学習を適用して作業効率を15%改善し、「2017年度日本ロジスティクスシステム協会ロジスティクス大賞」を受けています。

 

ここで、ロボットのことについて少し話ししたいと思います。

 

現在のロボットというのは非常に低知能であり不器用です。ロボットを動かすためにティーチングをしないといけません。予測できないことがあったときに、それに対応できる工業用ロボットはまだうまく出来ていない状況です。また、非定形のようなものをピッキングすることが非常に下手です。フィードバック制御が基本的にないので、ロボットというのは意外と大したことができません。

 

但し、決められたことをずっとやるのは得意です。

 

ということは、ロボットを知能化しないといけない。知能化するためには、センサーや目などが必要になります。東芝では車載向け画像認識プロセッサーを長年開発しています。今はディープラーニングの技術も取り入れて、非常に高速かつ低電力で動くような画像認識技術を保持しており、実際、多数の自動車メーカーに採用されています。

 

こういうものを活用しますと、例えばAGV(Automated guided vehicle:無人搬送車)を走らせるときに、マーカーなしに自分の位置の特定をする。もしくは、これは若干の教師データが必要なのですが、事前に三次元の形状のような教師データを与えることにより、普通の二次元の画面で、どういう位置状態にあるかを認識することができます。辞書のようなものを登録する感じです。これをやると位置補正が簡単にできて、難しい物がつかめるようになると。

 

実はこの間の2018年World Robot SummitのFuture Convenience Store Challengeで、東芝チームが総合優勝、経済大臣賞を受賞しました。

 

内容はコンビニでこれとこれを廃棄しなさいといったときに、取りに行き、それを廃棄する作業をやるものです。ティーチングはあまりやっていません。しかも、研究所の研究者たちが有志で取り組み、優勝しました。彼らはロボットのハードをどこかから買ってきて、ソフトウエアをプラットフォーム化することによって、わずか1カ月でこれを組み上げました。これは、ロボット自体よりも、いかに認識し、処理する能力が重要であるかということを示しています。こういった成果を得て、いま様々なピッキングロボットのようなものを開発しようとしています。

埋もれている94%のデータをビジネスに

次にデータです。いまIoTと言っていますが、実はデータには3種類あると言われています。

 

IoPとIoTとIoS。Pは人で、Sはシステムのデータです。システムのデータは以前からあるデータなので、モノのデータと人のデータを考えますと、残念ながらモノのデータはこれからビジネスモデルが立ち上がる感じになります。それに対して人のデータは、サイバー企業が既にビジネスモデルとして確立しているデータになります。

プラットフォームの世界

例えばECの世界では、個人を特定したターゲット広告が非常に盛んになっています。日本の広告費は6兆5300億円。アメリカはその数倍以上あります。しかし、よく考えてみると、このECとWebサイトで回っている情報は、日本のEC化率が現在5.7%。ということは、94%のデータが埋もれているわけです。

 

時々、私が「まだまだGAFAで終わったわけじゃない」とあちこちで言っているのは、ここにあります。実はこのフィジカルなところにそのデータが埋もれているのです。例えば、東芝が日本で50%以上のマーケットシェアを持っているPOS(Point of sale system:販売時点情報管理)というところには、こういったデータが埋もれていることになります。

 

これもなかなかセンシティブな話ですが、例えば人材情報は非常に価値のある情報です。ただ、私はこのことに関して一言だけ申し上げておきたいのは、あくまでもこういった情報は、企業のものでも店舗のものでもないということです。この情報はあくまでも個人のものです。これだけは考えを間違えてはいけない。例えば、どこかの店舗で何かを買いました。その情報を「店舗のデータです」と言われたら、あなたはどう思いますか。私なら「いや、ちょっと待って。それは僕の個人情報じゃないか。勝手に使わないでね」と、こういう話です。

 

最近ではジャック・マーが2014年に「データは現代の石油である」と言っておりますが、私はもはやお金だと思っています。お金ということは、経済の血液のようなものです。これが流通していないといけない。流通する際には、流通できるというのをコントロールするのは個人でなければならない。

 

繰り返して言います。日本のEC化率は5.79%です。ですから、サイバーフィジカル、もしくはサイバー企業とフィジカルから来た企業のサイバーフィジカルの戦いはまだ始まったばかりだということを、私は申し上げたいです。

講演をする島田氏

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