指先がデバイスになる!? “革新”のオープンネイル

2017/03/27 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • チップの技術基盤は「立体画像認識」と「3次元プリント」
  • 市場を一変させる潜在力を秘めている
  • ネイルは新時代のプラットフォームになる
指先がデバイスになる!? “革新”のオープンネイル

指先を彩るネイルチップ。ICTとは縁遠かったファッションアイテムだが、「立体画像認識」「3次元プリント」というテクノロジーを乗せることで、新たな市場展開、そして次世代のビジネスモデルが見え始めた。

 

「電機メーカーが手掛けるネイルチップ」。この異色のマッチングはどんな着想で生まれ、どのように商用化に向かって進められているのか。企画・開発を手掛けてきた中心メンバー、そしてパートナー、営業スタッフが集まり、新ビジネス「オープンネイル」の過去・現在・未来を語る。

「オープンネイル」プロジェクトメンバー。

「オープンネイル」プロジェクトメンバー。
左から、東芝 中村氏、株式会社ミチ 中崎氏、東芝 千木良氏、同 寺岡氏。

画像認識、ディープラーニング――高精細技術を爪の先に投入した背景

――ネイルチップ、いわゆる「つけ爪」をつくる「オープンネイル」というプロジェクトを手掛ける皆さんにお集まりいただきました。「オープンネイル」とは、その人の爪の形状に合ったネイルチップを顧客ごとにカスタムフィットさせる仕組みです。

 

東芝 技術企画室 千木良康子氏(以下 千木良) 東芝独自のソフトウェアで爪の形や輪郭を画像認識で読み取って、その人の爪にぴったり合うデータを自動で作り出します。フィット感、付け心地を向上させるため、当社の画像認識技術や製造技術を生かした「精度良く爪を検出する技術」と「正確にネイルチップを造形する技術」により、弊社ならではの差異化したサービスができると考えています。将来的には蓄積されたデータを元に「深層学習技術」も適用し、より高精度で効率的なサービスに発展させたいと思います。

東芝 技術統括部 技術企画室 主務 千木良康子氏

東芝 技術統括部 技術企画室 主務 千木良康子氏

東芝 デザインセンター 寺岡佳子氏(以下 寺岡) 東芝のクラウドで生成したネイルチップデータを3Dプリンターで出力し、ミチさんのネイリストが装飾を施して完成、というフローですね。

 

このプロジェクトにおいて私はデザイナーとしてプロトタイプ段階から主にUI(ユーザーインターフェース)のデザインを手掛けてきました。同じ初期からのメンバーにはプロダクトデザインの担当もいます。営業の中村さん、ネイルチップの製造販売を手掛けていらっしゃる株式会社ミチの中崎さんと一体になって進めてきました。

 

株式会社ミチ 代表取締役社長 中崎瞬氏(以下 中崎) 千木良さんが解説してくれた東芝の精緻な技術がなぜ必要なのか? 僕がネイルまわりの状況を整理してみましょう。

 

爪の装飾に用いられるのはネイルチップ以外にもマニキュア、ジェル、ネイルシールなどですが、それぞれ一長一短があります。爪に直接描くジェル、マニキュアはサロンでのサービスが一般的で、時間と手間が掛かるのがネックになります。

「オ-プンネイル」プロジェクトで個々人の爪の形に合わせて作られたネイルチップ。

「オ-プンネイル」プロジェクトで個々人の爪の形に合わせて作られたネイルチップ。

一方、ジェルやマニキュアに比べて簡単に取り入れやすいのがシール、チップです。時間、付ける手間はそれほどかかりません。

 

ただ、シールは汎用性を高めたサイズや型になっていて、誰にでもフィットするわけじゃない。そして、よれやすく、はがすのが困難といったデメリットがあります。

 

そして、専用のりを使って自分で装着するのがネイルチップです。きれいなデザインが揃い、同じく装着も簡単です。ただ、こちらもその人に合わない場合付け心地に難点がある。付け外しが簡単な分、紛失しやすいのがウィークポイントです。

 

だけど、これが爪にぴたっとフィットしたらなくしにくくなりますよね。ジャストフィットするネイルチップが望まれていたわけです。

 

東芝 インダストリアルICTソリューション社 中村恭子氏(以下 中村) ネイルまわりの悩み、すごくよく分かります。私も週末だけネイルチップを使用していた時期がありますが、現在はジェルネイルユーザーです。ネイルチップは値段が安くて付けたいときだけ付けられるのは便利でいいけど、自分で削って付けるのが面倒で……。チップならではの便利さ、一方での歯がゆさはよく分かります。

 

実際に付けてみると分かりますが、このネイルチップのすごさはフィット感にあります。これは体験しないと分からないもの。まだ実証実験前の段階ですが、早く世の中に届けたいですね。

 

千木良 中崎さん、中村さんが言ってくれたように、私たちが目指すべきなのは爪にジャストフィットするネイルチップです。ぴったり合わせるには、爪の画像データを正確に認識し、0.数ミリ単位で補正しなければなりせん。高度な画像認識、検出技術が要求されるのは、こういった事情があるからなんです。

女性の「爪あるある」から生まれたオープンネイル

――さまざまな爪の形に合うオーダーメイドのチップがユーザーにとって魅力的であることが分かりました。

 

ネイルといえば女性のものという先入観があります。開発陣は女性が中心ですが、やはり日頃のニーズにヒントがあったのでしょうか。

 

千木良 おっしゃる通り、これは女性メンバーと身近な問題を話していて浮かんできたアイデアです。私は入社当初プロダクトデザインを担当していたので、プロダクトの形状を試作するためによく業務用の3Dプリンターを使っていました。そういう経験もあって最近の3Dプリンターの進化と、モノづくりの市場を変えていく可能性には特に注目していたんです。一方で生活者の一人としては、女性の多くが関心をもちながらも忙しい人ほど諦めざるを得ないネイルという分野に不満の渦を感じていて、寺岡さんたちとよく話をしていたんです。

 

寺岡 そうでしたね。100均ショップでもネイルシールが売られていますし、ネイルに興味を持っている女性はすごく多いんです。

 

ただ、中崎さんが説明してくれた通り、ネイルサロンは施術に数時間かかり忙しい女性にとってはなかなか通い続けるのが大変です。爪は伸びるので、きれいな状態を維持するには月々5千円~1万円程度の費用が継続的に発生します。

 

中村 ストレスと違和感がネイルまわりにはあるんですよね。私は営業として途中から参加していますが、このプロジェクトの話を聞いた時、すぐに「やらせてください!」と手を挙げました。千木良さん、寺岡さんが着目した問題と、熱意に強く共感したからかもしれません。

 

千木良 現在の部署で新規事業のインキュベーション、支援に携わっていて一番大事だと思ったのが、「ユーザーがお金で解決したいのに、解決できない問題」にフォーカスすることです。まさにそういった問題を抱えているネイルと3Dプリンターを掛け合わせて――生まれたのが「オープンネイル」のアイデアです。

 

寺岡 最初に千木良さんから聞いた時を思い出しますね! 聞いてみてシンプルで分かりやすいアイデアだな、と感じました。シンプルだから面白い。私の部署はBtoBの社会インフラ系の業務が多く、アイデアもスケールアップしがち。なかなかイメージしにくい時もあります。その点、このモデルは身近な課題を具体的に解決してくれそうな、そんな期待がありました。

 

中崎 実は、ネイルの装飾を楽しんでいるのは、女性の約30%に過ぎません。70%の方は、「時間がかかる」「職場で禁止されている」「費用が高い」といった理由でネイルを断念している

株式会社ミチ 代表取締役社長 中崎瞬氏

株式会社ミチ 代表取締役社長 中崎瞬氏

そんな女性にお勧めしたいのが、付け外しが容易なネイルチップです。これなら「アフター5だけ」「休日だけ」限定して楽しむのも簡単。ネイルをしたくてもできない。そんな悩みを解消できる可能性があります。3Dプリンターを巧みに合致させ、ビジネスアイデアとして完成させた千木良さんが、弊社に声を掛けてくれた。僕も3Dプリンターの活用は近々の課題として考えていたので、乗らないわけにはいきません。

 

千木良 最初はデザインセンターの寺岡さんたちと一緒にこの企画書を書いて社内のベンチャー支援制度「Toshiba Startup」に応募しました。無事採択されて、喜ぶ一方で、自分の爪にぴったり合うチップができて“本当に”うれしいの? ――自分だけの思い込みなのかも? という不安もありました。

 

寺岡 そこで、まずはその不安、疑問を解消すべく、3Dプリンターで実際に一点もののチップを作ってもらい、デザインセンターのメンバー5人で装着してみました。

東芝 デザインセンター デザイン第一部 社会インフラ担当 寺岡佳子氏

東芝 デザインセンター デザイン第一部 社会インフラ担当 寺岡佳子氏

千木良 それがすごく満足度が高かったんです!これってコンセプトとしていけるんじゃない? チームみんなの確信がつかめました。私の思い込みだけじゃなく、たしかにニーズもありそうで。

 

中崎さんがおっしゃったように、ネイルユーザーは女性の約3割に過ぎませんが、その3割が国内では2,000億円の市場をつくっています。メンバーでつかんだ「ユーザーとしての確信」と市場の伸びしろを考えると、進める価値は十分にありそうだと思いました。

 

寺岡 そこでさっそく、コンセプトムービーをメンバーで手づくりしました。

 

この動画は2017年1月29日に公開されたものです。

IoT時代、爪の先がコンテンツを届けるプラットフォームになる

――2017年度中の事業化を目指してプロジェクトは進んでいます。今後の展開にどのような期待を持っていますか。

 

中崎 2,000億円のネイル市場ですが、そこには絶対的な勝者の企業がいません。僕は、この「オープンネイル」が市場の構造を変えるキラー商品になり得ると思います。この仕組みって、実は相当なイノベーションですよ。日本のネイリストの技術は海外でも高い評価を得ていますから、海外市場に飛躍するというロードマップも描けます。

 

千木良 そうですね。大きく業界を変える可能性を感じます。ネイル市場は北米が5,800億円ですし、中国が予測ベースで6,000億円。日本のカルチャー、ファッションと親和性の高いアジア圏を含めたら、さらにポテンシャルはあるでしょう。ミチさんの海外での知見もあるので、インバウンドにも十分対応すると見込んでいます。ただ、広がるのは海外市場だけじゃありません。オープンネイルなら男性にも使いやすいはずなんです。

 

中崎 来ますよね、男性にも。やっぱりマニキュアやジェルは「ハケで塗る」という所作が女性っぽく思えてしまいますけど、はめる、装着するというムーブがネイルチップの特徴。ICチップを入れ込むなど、IoTデバイスとして男性にも十分訴求できると思いますよ。

 

寺岡 ティーンエージャーも。私たちが高校生の頃は放課後にソックスを履き替えて街に出ましたが、放課後だけネイルを付けるのもありなのでは。あと、看護師の方など、職業的に普段はネイルを楽しめない人も多いでしょう。ぜひ、オフの時間に楽しんでもらえたらいいなと思いますね。

 

中村 それ、すごく思います。女性のファッションは髪型やアクセサリー、洋服、メイクなどさまざまな要素があるんですけど、鏡を見なくても目に入るのはネイルだけ。私はキレイに整えたネイルを見て「今日もがんばろう!」とテンションが上がります。

 

がんばっている女性を元気にできる、そんな期待もオープンネイルにはあります。私と千木良さんは同期ですし、寺岡さんとも同世代。こうやって話していると、いつも止まらなくなってしまいますね。

東芝 寺岡氏(左)、中村氏(中央)、千木良氏(右)

東芝 寺岡氏(左)、中村氏(中央)、千木良氏(右)

千木良 本当ですね。働く女性、そして育児に励む女性はネイルをする余裕がありません。今、社会は「女性活躍」を推していますが、活躍が期待される女性たちにこそ、小さな満足を諦めさせてはいけないと思う。オープンネイルが働く女性、そしてママたちに笑顔を届けるプロダクトになってほしいですね。

 

あと、中村さんが言ってくれたように、爪って人の目に触れやすいパーツじゃないですか。現代は、スマホに代表されるように、人間のアテンションをいかに奪うかのビジネスです。ネイルチップの表面が液晶になるというアイデアは既に登場してきています。ファッションとしてのネイルチップはもちろん、コンテンツ、情報を届けるプラットフォームとしてもネイルチップを考えていきたいですね。

 

中崎 健康志向の世の中、体調が顕著に現れる爪のコンディションを感知するなど、センシングとの連動も考えられそうです。

 

寺岡 ネイルにICチップを埋め込んだらIoTにもつながるでしょう。電機メーカーとしての私たちのポテンシャルを活かせるフィールドがありますね。

 

――話し合っているうちに、どんどんアイデアが創発されていくさまが分かります。「オープンネイル」の着眼点のユニークさも、こうした話し合いから生まれたのでしょう。続いて後編では、「オープンネイル」をフックにしたビジネスモデルの広がり、可能性について語っていただきましょう。

 

【後編へ続く】

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

https://jp.michimall.com/

https://jp.michimall.com/

Related Contents