スタートアップと大企業が組んだ オープンネイルの“確信”

2017/03/28 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • ネイルチップをモノづくりとして考える
  • 大企業とスタートアップ企業がタッグを組む
  • 事業化を見据えた実証実験が間もなくスタート
スタートアップと大企業が組んだ オープンネイルの“確信”

爪にフィットする付け心地の良さをアピールポイントに、顧客ごとの爪の形状に合ったチップをカスタムフィットさせる仕組み。それが「オープンネイル」だ。開発から事業化までは、東芝の社内ベンチャー支援制度「Toshiba Startup」を利用して進められてきた。現在はスタートアップ企業の株式会社ミチをパートナーとして実証実験を控える。本格的な商用化に向けてゆっくりと、しかし着実に歩を進めている。大企業とスタートアップ企業が組み、フットワーク軽く進めていくことのメリットとは。

 

オープンネイルをめぐる対談の後編では、メンバーが現在進行形のプロジェクトを語り合い、指先のチップから始まるオープンイノベーションを活写する。(前編はこちら)

「オープンネイル」で作成したネイルチップ。

「オープンネイル」で作成したネイルチップ。

ものづくりの原点を確かめながらプロジェクトは進む

――前編では「オープンネイル」の革新性、可能性に話が広がりました。後編では事業面のトピックを語り合っていただきましょう。

 

そもそも、電機メーカーがなぜネイルチップを手掛けることになったのでしょうか。

 

東芝 千木良康子氏(以下 千木良) 私たちが考える「オープンネイル」はファッション的な装飾アイテムにとどまりません。新しい概念のプロダクトであり、それをユーザーに届ける仕組みです。

 

東芝 インダストリアルICTソリューション社 中村恭子氏(以下 中村) そうですね。社内でプロジェクトについて語っていると、製造業としての東芝の強みが生かせる切り口に出会うことが多いです。

 

オープンネイルの仕組みを考えるうえではチップの品質管理や原価のコントロール、3Dプリンターなどハード独特の知見が必要とされてくる。プロジェクトに参加していて、モノづくりだとあらためて感じます。

 

千木良さんはデザインセンター時代からこのアイデアを温めていたんですね。

 

千木良 たしかに、原点はそこかもしれませんね。私はデザインセンターでアイロンやオーディオプレーヤーなど、ハードのデザインを担当していました。

 

その後モノが売れない時代に突入し、仕事内容も新事業・新商品のアイデア出しなど、コンセプトワークに移っていきました。でもデザイナーという職種の枠にとどまったまま提案するだけでは、何度やっても商品にはならなかった。フラストレーションが限界に達し、世の中に新しいプロダクトを出すために、自分自身が一つのアイデアに最後まで寄り添おうという決意に行き着いたんです。

東芝 技術統括部 技術企画室 主務 千木良康子氏

東芝 技術統括部 技術企画室 主務 千木良康子氏

東芝 デザインセンター 寺岡佳子氏(以下 寺岡) 千木良さんがデザインセンターから現在の部署に移った後、このオープンネイルのアイデアを持ち掛けられました。

 

そこで、もう一人のデザイナーと3人でコンセプトを作り、役割を分担してやってきたという経緯があります。ミチ・中崎さんにもスパイのようにアプローチをかけて……。

 

株式会社ミチ 代表取締役社長 中崎瞬氏(以下 中崎) ああ、最初は僕が雑貨量販店でやっていたワークショップにこっそりいらしてたんですよね。その後、問い合わせ窓口に千木良さんからのメールが届いて、お会いすることになりましたっけ。

 

だけど……覚えてます? 僕が「稟議を通してくれるなら、頑張りますけど」と言ったこと。お声掛けをいただいて会議に参加しながら、僕は東芝がネイルチップに取り組むというのが、どうしても信じられなかったから。

 

そうしたら、時間はかかったけれど本当に稟議を通してくれた。千木良さんの本気を感じて、オープンネイルに本腰を入れていきました。

 

千木良 やっぱり最初は相当半信半疑だったんですね。・・それはそうですよね。

 

少し違う角度ですが似たような苦い経験があるんです。私が出張で海外のスタートアップ企業が集まるイベントに参加した時の話です。胸を張ってプレゼンテーションをするスタートアップの姿に触発されて、私も会場にいらしていた著名な方にオープンネイルのアイデアを話して意見を伺おうとしたんです。そしたら逆に怒られたことがあって。

 

中村 怒られた? どうしてですか。

 

千木良 ええ、「大手企業は自分たちからは何も出さないのに、一方的に情報を取りに来る」と言われました。思いつきレベルのアイデアだけじゃ価値がない、ということを感じましたね。

 

悔しくて早く行動しなきゃ、と思って。社内ベンチャー支援制度「Toshiba Startup」に応募したのは、その出張の帰国後です。ミチさんには、試作品を持ってアプローチしましたから信用していただけた感触はありましたね。

 

中崎 なるほど。僕が参加したのは千木良さんの「本気を感じたから」と言いましたが、確かにその時点で「オープンネイル」のプロトタイプはありました。アイデアだけじゃない、モノを作って走り出しているところに惹かれたのも事実です。

 

中村 私も、千木良さんから初めてプロジェクトの話を聞いた時、社内公募から事業化を目指す熱意に心を打たれました。同期の女性がこれだけ頑張っているんだから、営業としてぜひ参画したいと思ったんです。

東芝 インダストリアルICTソリューション社 商品統括部 パートナー営業部 営業第二担当 中村恭子氏

東芝 インダストリアルICTソリューション社 商品統括部 パートナー営業部 営業第二担当 中村恭子氏

事業化に向けた実証実験の先に見えるもの

――頼もしい仲間が続々と集まっている「オープンネイル」プロジェクト。次のステップは事業化に向けた実証実験です。

 

千木良 かなり初期の段階ですが、既に社内では小さな実証実験を済ませています。女性従業員9人の爪の形をスキャンしてネイルチップを生成し、3Dプリンターで出力。表面に加飾をして各々に配布し、1週間装着してもらうまでをテストしました。

 

寺岡 その結果、9人中7人のテスターが「口コミで人に勧めたい」「自分もリピートしたい」と回答してくれましたね。

 

中村 1週間付けてもらっての反応ですから、かなりリアルな声ですよね。実際「すぐにでもやりたいから、早く商品化してほしい!」と皆言ってくれましたね。

 

千木良 そう! うれしい反応でしたねぇ。全部のオペレーションが試せましたし、テスターがファンになってくれたことで手ごたえを感じました。

株式会社ミチ 代表取締役社長 中崎瞬氏

株式会社ミチ 代表取締役社長 中崎瞬氏

中崎 あえて言わせていただきますが、僕は、東芝さんの従業員のアンケートが世の中の声と同じだとは正直思っていません。無料のテスターと、実際にサービスにお金を払って出てくる本音、インサイトは違います。

 

「オープンネイル」はコンセプト先行の商材であって、世の中に出すまではどんな反応があるか、正直分かりません。いいものだったら売れるという単純な図式ではない。価格設定を含め、売り方も大切です。実証実験では、それらの課題を慎重に見極めていければ。

 

寺岡 そうですね。私もプロダクト担当のメンバーと一緒にネイルサービスを提供してみたことがあるのですが、中崎さんがおっしゃるとおり、実際にお金を払うユーザーの声ってすごく大事だと実感しました。

 

千木良 やってみないと見えてこない穴もいっぱいあるでしょう。たとえば、3Dプリンターは試作用途で開発されているものなので、「オープンネイル」のような量産ビジネスには対応していません。

 

冒頭に言ったように、このサービスはものづくり。量をこなし、スケールさせるにはそれなりの体制、仕組みづくりが必要になってくると思います。

本格的な商用化を目指して――今後のビジョン

――プロジェクトの企画開発・デザイン・販売・営業を担当される皆さんに縦横無尽に語っていただきました。本格的な商用化の推進に向けて、今後のパートナーシップ、そしてビジョンについてお聞かせください。

 

中崎 東芝と、僕の会社のミチ。大企業とスタートアップが一緒になって、新しい事業に取り組んでいるっていうのが、実は一番すごいことなんじゃないかと思うんですよ。

 

中村 確かにそうですよね。事例はあるかもしれませんが、うまく連携できているところは少ないと聞きますし。

 

中崎 だから、「オープンネイル」が成功したら、かなり面白いモデルケースになるのでは? どんどんチャレンジしていきましょうよ。
うちの場合、失敗はまったく怖くない。なぜなら、失敗しても代表の僕がすべて責任を取ればいいから。どこにも迷惑が掛からないので、まったく怖くない。

 

千木良 私、中崎さんのこのセリフを初めて聞いたときに、大げさではなく目から鱗が落ちたんです。 スタートアップ企業のスピード感とリスクの取り方は大企業のそれとは違うと聞いてはいたものの、実際一緒にプロジェクトを進めていくと一つ一つの意思決定のプロセスがとても新鮮で。毎回勉強させていただいています。さっき「言うだけじゃなく形にしながら進めていくこと」の意義をお話しましたが、形をつくるプランを立てて社内を説得する上では、ミチさんの存在とこのスピード感が欠かせない存在になっています。

 

寺岡 そう、新しいプロジェクトには注目してもらえる期限があると思うんです。サンプルを作りました、社内で実証実験をしました、で足踏みしているとどんどん鮮度が落ちてしまう。しかし、こうしてミチさんのような他企業と一緒に進めると、着実に次なるステップが開けてくる。そのありがたみを感じます。それも含めて千木良さんが次々といろいろな施策を打ち出してきてくれたのは心強かったですね。

 

あと、個人的には職場であるデザインセンターに感謝しています。新しいアイデアを広く受け止めてくれる風土があるから、こうして「オープンネイル」のプロジェクトメンバーとして事業化に向けた取り組みにも参加できています。今後の実証実験を進めていきしっかりとした結果を出せればと思いますね。

 

中村 はい、「結果を出す」ことにみんなの意識があります。私も事業化する以上は黒字をきちっと出して続けていきたいと思います。このメンバーが集まって、しっかりと成功できれば、社内外のモチベーションアップに直結するはずです。どうやって売っていくか、世の中の人に広めていくのかを考え、行動していくのが私の役割です。ぜひ成功させたいです。

 

中崎 お二人のおっしゃるとおりです。ミチと東芝がWin-Winになるためには、しっかり利益を出せなければ継続もない。そこのみを貪欲に追求してやっていきます。もちろん、成功の定義、数字の感覚も大企業とスタートアップ企業では違うので、意識を合わせつつ進められたら。

 

千木良 そうですね。私たちは、ユーザーに喜んでいただけるものを世の中に出したい、という思いでいます。

 

「オープンネイル」を通して一人でも多くの人がハッピーに感じられるよう、今後も着実に進めていきたいですね。

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

https://jp.michimall.com/

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