組織を超えた繋がりが生む ボトムアップのイノベーション

2016/02/04 Toshiba Corporation

組織を超えた繋がりが生む ボトムアップのイノベーション

イノベーションを通じ、人々の生活と世の中を変える――。そんな高い志を持ってスタートアップを立ち上げる起業家が増えている。

一方、企業の中でも「イノベーションを通じ社会を変えていきたい」という想いを持っている社員の活動が活発になってきている。しかし大企業になるほど、多様な人材がいるにもかかわらず、普段の業務は細分化されており、部署が違えば出会うことも少なく、新しい何かを積極的に相談できる場も限られている。想いをもって何かを前向きに始めたいと考える人たちを部署やグループを超えて繋げる場が必要だ。

そこで東芝では組織を超えて、「何かを始めたい」人たちが集える場作りを有志で始めた。前のめりな人たちが集い、新たなネットワークを形成していくため有志で社内コミュニティを立ち上げた。

「0→1」を生みたい人をつなぐ

社内コミュニティの生みの親である千木良氏(左)と金子氏(右)
社内コミュニティの生みの親である千木良氏(左)と金子氏(右)

「この活動はコンセプチュアルにいうと、未来の花を咲かせるための根っこをそだてることを目的としています。ロゴには人と人とがつながり、明日の根になるという意味が込められています」

そう語るのは、千木良康子氏だ。千木良氏は金子祐紀氏とともにこの社内コミュニティを立ち上げた。

コミュニティでは、主体的に考え創造できる人を対象にした東芝グループ内のネットワーキング活動として、社内の多様な部門から新価値創造に関心が高い人材を集め、イノベーション感度の高い有識者の講演会やワークショップなどを支援している。“0→1を生みたい人をつなぐ”をキャッチコピーに、17時以降や休日などの業務時間外を使って、集まりたい人が集まるというシステムだ。

参加者には若者が多いと思いきや、管理職クラスの「もっと新しいことをやらねば!」と危機感を持っている人たちの参加も多いという。年齢だけでなく、性別、職種などもバラバラで、参加者に多様性があるのも大きな特徴のひとつだ。

社内コミュニティのロゴ。「人」が重なり、「根」を形成している様子を表現している
社内コミュニティのロゴ。「人」が重なり、「根」を形成している様子を表現している

大企業で自分のアイディアを実現させるには

多くの人たちの交流の場となっているこのコミュニティだが、その誕生の経緯はどのようなものだったのだろうか。金子氏は以前から抱いていた想いをこう振り返る。

金子祐紀氏

「自分はテレビのエンジニアをしていたのですが、今思うとその頃は周りにいる同じ部門の数十人としか話をしていませんでした。本社のことや別のカンパニーの人がどんなことをしているかはわからないままです。そんな中、本社の商品企画に異動になり、これまでとは違う、色々な部門の方と話をしているうちに、新しい視点でものを見ることができるようになってきました」

印象的だったのは「現場」という言葉の使い方も部門によって変わってくるというエピソードだ。例えば、商品企画は競合他社がこれからどういう機能を出してくるかなど、トレンドを読みそこに合わせて企画をしていくが、時にはかなり厳しいスケジュールで開発部に依頼をすることがある。それに対し開発部から、それは無茶だと返答があった場合に、商品企画の人間は、開発部は「現場」をわかってないという。

一方、エンジニアからすれば、言うのは簡単だが実装するのは我々だ、商品企画は「現場」をわかっていないとなる。さらに営業からすれば、すでに量販店の棚の枠を抑えていたりするため、開発が遅れるというのはまるで「現場」をわかっていないというようになっていく。

“現場”というのは非常に主体性のある言葉でもあるのですが、よくない面としては、皆それぞれが自分のところだけを現場ということです。それは結局のところ、社内の横のネットワークがないことが原因なんです。他の仕事を知る機会がないために、自分たち中心で物事を考えてしまうわけです。そういった経験から、普段の業務をスムーズに進行させるためにも、横のつながりは大事だなという想いがありました。それがネットワークをつくるコミュニティの必要性を強く感じるきっかけになったと思います」

千木良康子氏

一方の千木良氏は、大企業で自分のアイディアを実現していくことの難しさを感じていたという。

「元々はプロダクトデザイナーとして入社し、音楽プレーヤーやアイロンなどのデザインをしていました。企画から踏み込んで関わることにやりがいを感じていたため、3.11があったときに被災地に対し何か貢献できることはないかと、特設提案チームにアサインされたんです。被災地の声を聴いて、一年がかりで案を練って提案をしたのですが、いざ実行しようというフェーズでビジネスサイドにぶつけても動かせなかった。一度ミーティングをやったきりになってしまい、全くの力不足でショックを受けました。そのときに学んだのが、社会の役に立とうとして外の人といろいろ約束をしても、社内にも人脈がなければ現実には何も動かすことができないんだということでした。社内の人脈は、アイディアをブラッシュアップさせるのにも有効です。頑張ってつくった提案でも自分たちの狭い世界だけで考えたアイディアは、ちょっと外の風にあたると全然ダメということもあります。違う部署や違う立場からの視点が入ることで、よりよい提案ができるようにもなります。大きな組織で何か新しいことをやるには社内のネットワークが不可欠ですね

社外の豪華講師陣との交流も刺激に

富士通 あしたのコミュニティーラボ代表 柴崎氏
外部ゲスト 富士通 あしたのコミュニティーラボ 代表 柴崎氏

活動をする上では、インプットとアウトプットのバランスを大切にしている。そのため、社内のネットワークだけでなく、社外からの刺激を得ることにも力を入れている。

東芝は非常に人数が多い企業ですが、文化としては偏っている部分もあります。外に出た時も自分たちの常識が通じるかというとそうではなく、そういった部分を直接社外の講師の方にお話しいただいています。多様な考え方に触れることで自分のキャパを拡げることができます。講演のあとにはもちろん懇親会も設けており、いつもとても盛り上がります。外部の方と直接話す場、繋がる場はやはり非常に貴重ですね」

活動に共感し、講師として参加する社外からのゲストは実に豪華だ。パナソニック富士通リコーNTT東日本など大企業の他、トーマツベンチャーサポートラーニングアントレプレナーズラボJellyWareなど世の中をリードする実行者たちを呼んでいる。社内外問わず、高い志を持つ人たちが交流を深めることができる活気のある場だ。

自分を表現するゼロピッチ

ネットワークが重要といっても、志は人によってベクトルが違う。自分のベクトルにあった人は、自分が発信をすることではじめて見つけることができる。そういった思いからコミュニティでは、アウトプットにおいても様々な工夫を行っている。その一つがゼロピッチだ。

ゼロピッチ

「懇親会では話したい人がいたら誰でもマイクを持って話せる”ゼロピッチ”という時間があります。持ち時間は一人2分間、内容がゼロでもいいからゼロピッチです。社内にいると個人的なことをアウトプットする場がなかなかありません。しかも、前向きに聞いてもらえる機会は、さらに少ないですよね。しかし、主体的に仕事をつくっていくというのは、人から言われたことではなく、内発的な話であり、個人的な主張をしながらそれを磨いていく必要あります。でもはじめからハードルを高くしすぎるとそこへの準備ができない。だからなんでもいいから話そうよ、と始めた試みです。こんな新商品のアイディアがあるから一緒にやってくれる仲間募集とか、休日に参加したボランティア活動の報告など、毎回様々なゼロピッチが行われています」

熱意のある人がいて、生の声が聞け、その存在を知ることができる。この人はこんなに面白いことをやっていたのかと新しい一面を発見することもあれば、想いの熱さに単純に熱をもらうということもある。個人の想いの火は、沢山あればあるほど強い。実際にゼロピッチの時は会場も熱気に包まれる。新しい出会いを見つけるには絶好の場だ。

Win-winを目指しさらに価値のある活動へ

ハッカソンの様子

さらに今後コミュニティの価値をあげていくため、様々な試みをスタートさせていく。金子氏は今後の課題について次のように語る。

「現状では有志の課外活動とはいえ、会社にもある程度価値を認められているような活動である方が参加しやすくなるはず。また、業務外でできることには限界もあります。これからの課題としては、会社とどうつきあっていくか。経営幹部との交流会を開催するなど、会社とのつながり方を模索していきたいです。ただ、会社寄りに行き過ぎるとつまらなくなってしまうので、この活動は”根っこ”であるというコンセプトを忘れず、ボトムアップからのイノベーションを目指し、地に足をつけてやっていきます。まずは、こうやって集まったみんなのアイディアソンがきっかけで新規事業がスタートしたとか、会社にもメリットがある成功事例をつくることが大事かなと思っています」

ハッカソンの様子

また、今後も人と人をつなげる場をどんどん作っていきたいという千木良氏は、社内はもちろん社外とのコミュニュケーションもさらに活発化していければと語る。

このコミュニティでの活動は普段の業務を1とすると、それにさらにプラス0.2歩踏み出すようなものです。0.2歩踏み出すとなると、時間的な負担はもちろん不安やストレスも伴うと思います。ですが、その0.2歩の積み重ねがきっと1年後の新しい視点や世界へとつながり、仕事の幅を広げるための環境づくりになるはず。実際に私も新しい仲間に出会ったことで、そのネットワークを活用して業務を能動的に意志を持って進められるようになりました。東芝にはもっともっと多様な人がいるはずなので、まだ出会えていないような専門的な人にも来てほしいですね。新しい組み合わせや相互の刺激によって東芝を革新できるかが勝負だと思いますから。またこの活動では、主体的に仕事をしたい人と出会える場なので、社外の人でもどんどん声をかけてほしいと思います。東芝と仕事をしたいと思っても、なかなか入り口がわからなかったりすることも多いと聞きます。そんなときに私たちが架け橋となっていきたいと思っています」

イノベーションを起こすのはスタートアップと呼ばれる小さな企業だけではない。大企業だからこそできるイノベーションを目指し、彼らはこれからも”手作りの活動”を続けていく。有志たちの挑戦はまだ始まったばかりだ。

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