エネルギーとして本格導入!? 2030年、水素社会がやってくる

2017/05/17 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 電気を水素に変えるエネルギー活用が注目
  • 2030年には水素エネルギーが本格導入
  • 欧州ではPower to Gasとして研究が進む
エネルギーとして本格導入!? 2030年、水素社会がやってくる

「水素エネルギー元年」といわれたのは2015年。燃料電池自動車(FCV)や家庭・業務用のコージェネレーションシステムとして、水素の活用が現実味を帯びてきた。そして、水素活用の次なるフェーズは、エネルギーをためる・運ぶ「エネルギーストレージ」。特に、再生可能エネルギーを運ぶグリーン電力ストレージとしての役割に期待が集まっており、2030年頃には本格的に導入されるであろうといわれている。この水素活用・研究の現状から、来るべき2030年の水素社会を見通してみよう。

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2030年に向け、国策として水素エネルギーの開発が進む

経済産業省が定めた「水素・燃料電池戦略ロードマップ」によると、現在は「水素利用の飛躍的拡大」というフェーズ1に位置している。燃料電池がさまざまな分野で市民権を獲得しているステップにあたるだろう。そして、2020年台後半には「水素発電の本格導入/大規模な水素供給システムの確立」というフェーズ2が視野に入る。従来の電気、熱というエネルギーに第三極の水素が加わり、水素社会の実現が近づいてくるのだ。

図表6 水素社会実現に向けた3つのフェーズにおける取組の方向性

出典:水素・燃料電池戦略ロードマップ(経済産業省)

 

エネルギーとしての水素を考えると、再生可能エネルギーとの親和性の高さがポイントになる。同じく経済産業省が定めた「長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)」を見ると、再生可能エネルギーの活用拡大が大きなテーマ。ただ、太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギーの安定した活用には依然として課題が残る。太陽光や風力の供給は気象条件や時間帯に左右されるからだ。揚水式の水力発電、バッテリーなどで電力を貯蔵するというアプローチもあるが、もともと電力の大容量貯蔵には限界がある。そこで期待されるのが、水素の活用なのだ。

 

余剰電力を水素に変換してためれば、必要な時に必要な分だけ電力に再変換できる。エネルギーをストックする「エネルギーストレージ」としての水素だ。仕組みとしては、「水を電気分解すると酸素と水素が発生する」という化学反応を生かして、水素を大量に作って貯蔵。必要になった時には逆の化学反応で水素と空気中の酸素を結び付け、電気にする。これを可能にするのが燃料電池技術だ。実用化に向けては効率性、信頼性で課題があるが、日本は燃料電池分野での特許出願数が世界第1位。2位以下とは5倍以上の差がある。この高度な技術力が水素社会のブレークスルーになることは間違いないだろう。

世界ではPower to Gasとして研究・開発が進む

水素を活用したエネルギーストレージの試みは世界各国で始まっている。再生可能エネルギーの研究・活用が盛んな欧米のキーワードは「Power to Gas」。これは水を電気分解して水素やメタンといった気体燃料に変換し、貯蔵・利用する技術。ドイツなど欧州各国は天然ガスのパイプラインが国内に張り巡らされているため、再生可能エネルギーの余剰電力をガス化することで既存のインフラに水素エネルギーをスムーズに組み込めるのだ。電気は送電線によって運ばれることから、長距離になるほど送電はロスが大きくなってしまうのがデメリット。効率化という面でも理にかなった戦略といえるだろう。

 

では、日本ではどうか。経済産業省では、水素・燃料電池戦略ロードマップにおいては、最終的に目指すべき姿として、CO2の排出が少ない水素供給構造を実現していくこととしている。固定価格買取制度開始以降の再生可能エネルギーの急速な導入拡大に伴い、導入が集中しがちな地方における系統の空き容量不足や、火力電源等の調整力不足といった課題が顕在化しているなか、目下の社会課題への対処にPower-to-gasなどの新たな水素関連技術を応用しつつ、将来のCO2フリー水素の利活用拡大に向けた足がかりとしていきたい考えだ。
その一環として、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「水素社会構築技術開発事業/水素エネルギーシステム技術開発」というプロジェクトにおいて、福島県内を実証エリアとして、世界最大規模の水素製造装置を備えた貯蔵・輸送、利活用までを含む水素エネルギーシステムの構成と仕様を検討するとともに、事業可能性を調査しており、2017年9月までに結果をまとめる予定だ。

国内の水素事業は2020年以降に急増

出典:東芝が目指す水素社会

 

水素が次世代のエネルギーストレージとして注目を集めるのは、枯渇する資源問題、そして温暖化が進む環境問題を同時に解決する切り札になるからだ。水素は地球上に無尽蔵に存在し、燃焼しても水素に戻るだけでCO2の排出はゼロ。石油に変わるエネルギーとして大きな期待が集まるのは言うまでもない。水素が本格的に存在感を発揮する2030年――「安心・安全・クリーン」なエネルギーが私たちの生活を支えているだろう。

 

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