フィリピンが支える超情報化社会
2021/09/08 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 新たなテクノロジーの登場により、データ量の増加率が飛躍的に上昇
- 東芝情報機器フィリピン社は、主にデータセンターで使用されるニアライン・ハードディスクドライブ(HDD)の主要製造拠点
- 東芝のエンジニアたちが舞台裏で活躍し、最新テクノロジーを生かした高品質なデータストレージソリューションを世界に提供
IoT(モノのインターネット)やAI、クラウドサービスなどの進展により、世界的にデータ量が爆発的に増加している。最近のIDC Global DataSphereレポートによると、作成・複製されるデータ量は2025年までに180ゼタバイト(ZB)に達する見込みだ*1。物理空間とサイバー空間の融合により、あらゆるウェブ対応機器が相互接続されたり、クラウド上で大量のデータを自由に出し入れしたり、人間の知能を再現して業務を学習・実行するAI技術が発展したりするなど、超情報化社会が現実のものとなってきている。
*1 IDC, Worldwide Global DataSphere Forecast, 2021–2025: The World Keeps Creating More Data — Now, What Do We Do with It All?, Doc # US46410421, March 2021
そうした超情報化社会を支える柱の1つが、現実世界からセンサーなどで集められた大量のデータを蓄え、クラウドを構成するデータセンターだ。このデータセンターの中核を担うのが、最も費用対効果に優れた性能を持つ記憶装置、すなわちニアラインHDDである。データを記憶する役割を果たすストレージは、アクセス頻度が少ないオフライン、アクセス頻度が多いオンライン、それらの中間のニアラインという大きく3つのカテゴリーに分類される。ニアラインストレージは、保管されているデータを高頻度かつ高速に使えるオンラインストレージとは異なり、使用頻度の少ないデータを安価に大量に保管できるのが特長だ。その特長から、クラウドを構成するデータセンターの中核として位置づけられている。
東芝は、企業、データセンター、セキュリティーカメラ、コンシューマー市場といった様々なニーズに応える幅広い製品ラインアップを持つストレージの分野におけるリーディングカンパニーである。東芝のエンタープライズHDDは、従来型の高機能が求められるサーバーや記憶装置システム向けの「Enterprise Performance HDD」、ビジネスに欠かせない業務を担うエントリーサーバーや記憶装置システム向けの「Enterprise Capacity HDD」、そして大規模データセンター向けの「Cloud-Scale Capacity HDD」の3つのカテゴリーに分類される。東芝は2021年第1四半期時点で、過去最多の211万台、25.6エクサバイト(EB)相当のニアラインHDDを新たに出荷しており、1台当たりの平均容量は現在の業界平均を上回る12.1TBであった*2。
*2 IDC, Worldwide 1Q21 HDD Shipment Results and Four-Quarter Forecast Update, Doc # US47667520, May 2021
フィリピンから世界へ
東芝情報機器フィリピン社(TIP)
実は、東芝の主力製造拠点はフィリピンにある。東芝情報機器フィリピン社(TIP)は、約1万2千人の従業員とともに、操業開始の1996年から20年以上にわたってデータストレージソリューションを世界に提供してきた。
HDDの生産は、極めてクリーンな環境で、かつ非常に精密な製造技術を用いて行われる。HDDは高速回転し、読み取り用ヘッドとディスクをごく近い位置に動作させる必要がある。そのため、非常に精緻な製造技術が必要となり、製造工程も大規模なものになる。HDDは、記憶ヘッド、記憶媒体メディア、電子装置、ファームウェア等で構成されているが、これらは慎重に組み立てられ、最終出荷時の品質確保のために、気圧や温度などを細かに設定した試験室で厳格なテストが行われる。
ニアラインHDDの需要が高まる中、東芝は顧客のニーズに応えるべく増産投資を行っているが、原料の廃棄量を最小化し、技術的資産を最大限に活用することで、全体としてのコスト効率とサステナブルな製造工程を両立させることを忘れないという。
*2020年初期に撮影
強みの源泉は「諦めない」エンジニア
製造ラインが稼働し続け、できるだけ長く事業を維持する上で、極めて重要な役割を果たしているのがエンジニアだ。 TIPの生産エンジニアリング部門で働くJohn Mark Guilaran氏は次のように話す。
「高まるニアラインHDDの需要に応えるために、私たちは複数の自動製造ラインを立ち上げるだけでなく、既存のラインの生産性や効率性も改善することで生産能力を拡大しました。横浜にある東芝デバイス&ストレージ株式会社のストレージプロダクツ事業部と、最新の技術について共有し、緊密にコラボレーションすることで、常にスキルの高い技術者を育てています。その結果として、日本からの支援は最低限に留めながら、月間20万台のニアラインHDD生産を可能にする自動製造ラインを2本設置しました。強い学習意欲と、『決して諦めない』姿勢が私たちの強みです。すべての困難を、逆に、創造、イノベーション、学習、成長の機会と捉えているのです」
東芝情報機器フィリピン社 生産エンジニアリング部門 エンジニア John Mark Guilaran氏
Guilaran氏に言葉を継いで、HDDデザインサポートセンターのエンジニア、Gerald Balingasa氏はこう付け加える。
「他の企業と同様に、私たちも新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けています。HDDの新モデルを評価する際に輸送面で制約が生じており、これに対処するには優先順位を明確に判断し、素早く処理する能力が重要です。困難に見舞われながらも、私たちは今回も『諦めない』姿勢で臨みました。
従業員、顧客、周辺地域の人々の健康を最優先に、健康を守るために必要なことを考え、新たな規則も速やかに導入しています。皆の安全を確保しながらHDD製造目標を達成すると強く決意したことが、感染拡大が続く中でも稼働を維持することにつながりました。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、仲間と協働することの価値を再認識させ、予測不可能な時期を乗り越え、その状況の中で最善を尽くすべきということ、つまり、『シンプル、スピード、柔軟性』という私たちのポリシーに常に忠実であれということを教えてくれました」
東芝情報機器フィリピン社 HDDデザインサポートセンター エンジニア Gerald Balingasa氏
次世代のデータストレージ技術
2021年2月、東芝初のマイクロ波アシスト磁気記録搭載HDDモデルが開発された。MG09シリーズは、ディスクを9枚搭載し、ヘリウム充填設計の東芝の第3世代機で、革新的な「磁束制御型マイクロ波アシスト磁気記録方式*3」を採用していることが特長だ。従来型磁気記録の記録密度をディスク1枚当たり2TBに向上させて、装置全体で18TBの大容量を実現している。 すでに、TIPのHDDデザインサポートセンターは、MG09シリーズの評価プロセスとデータ分析について、日本の東芝デバイス&ストレージと協力し、量産体制を整えている。TIP社長を務めた岡村博司氏*4は次のように述べる。
「フィリピンは、高速で大容量なストレージを求める世界市場に向けて、東芝のデータストレージソリューションを提供する主力製造拠点です。私たちは、多様な製品を手掛けており、ノートパソコンやカーナビ、ゲーム機向けのモバイルHDDから、サーバーシステム向けの大容量HDD、そしてデータセンター向けのニアラインHDDまで提供しています。私たちは、デジタルストレージのメーカーとしての幅広い能力を生かしつつ、それを支える優秀な人材を揃えています。これからも、顧客中心のソリューションとイノベーションを、世界中に提供していきます」
東芝情報機器フィリピン社 社長 岡村 博司氏
*3 HDDの高記録密度化を可能にする記録方式の一つ。高周波アシスト記録方式を採用し、記録磁極から流れる磁界をより媒体に向かわせ、媒体への記録能力を増強することで、HDDの高記録密度化を可能にする。
*4 2015年6月から2021年7月までTIPの社長として在任。以後は伊藤 淳氏が後継。
関連サイト
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Data Center / Enterprise | 東芝デバイス&ストレージ株式会社 | 日本
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