CO₂を資源に変えて地球を救え! ~時代は「カーボンリサイクル」に突入した

2022/06/08 Toshiba Corporation

この記事の要点は...

  • 時代はカーボンリサイクルへ。「CO₂電解技術」でCO₂を資源に!
  • 航空業界を悩ますCO₂排出削減問題の救世主が登場!?
  • 持続可能な航空燃料(SAF)による商用フライト1号機テイクオフを目指して!
CO₂を資源に変えて地球を救え! ~時代は「カーボンリサイクル」に突入した

ここ数年頻発するスーパー台風や、記録的な豪雨など、日本でも「気候変動」についてのニュースが続く。世界でも洪水、熱波、寒波といった異常気象が増加しており、CO₂や脱炭素、地球温暖化といった言葉を毎日のように目にする。何が問題なのか?

 

気候変動に関する専門家で構成されるIPCC*によると、下のグラフのようにCO₂と地球の気温は「ほぼ正比例」している。そして気温が上がり過ぎると、前述のような気候変動による悪影響が起こる。すなわち、CO₂→地球温暖化→気候変動」の流れを抑えるには、大元のCO₂を何とかしないといけないわけだ。これに対して東芝は、CO₂を「悪者」とはせず「資源に変換」しリサイクルすることで、多様な企業が参加可能なビジネスを創ろうとしている。一体どのような試みなのだろうか。プロジェクトを構想し、奔走するメンバーに話を聞いた。

*気候変動に関する政府間パネル:専門家で構成され、気候変動に関する科学的な研究を収集、整理する国際機関

 

CO₂排出が増えるたびに地球温暖化が進行

CO₂排出が増えるたびに地球温暖化が進行

未来のエネルギーの一翼を担うCO₂電解装置を開発

東芝は、「カーボンリサイクル(炭素循環型)社会」の実現に向けて、研究と事業を開発している。なかでも前述のCO₂を資源に変える「P2C(Power to Chemicals)」に取組んでおり、高スループットでコンパクトな「CO₂電解装置」の実用化に向けた研究開発を進めている。この装置は、再生可能エネルギー(再エネ)を使ってCO₂を電気分解し、CO(一酸化炭素)を生産するものだ。このCOは水素と合成すると、合成燃料やプラスチックなどを生み出すことができる。すなわち、CO₂を資源化するP2Cサイクルの肝になるのが、再エネでCOを製造するCO₂電解装置ということだ。

 

CO₂から製造するジェット燃料など新時代のエネルギー事業を模索する複数のパートナー企業とともに、東芝はP2C技術の事業化を加速している。CO₂を資源化するP2Cの事業化に道筋をつけたのが、CO₂電解装置であることには触れた。この装置の開発に、東芝が培ってきた燃料電池の開発技術とノウハウが大きく貢献しているという。どういうことだろうか?ここで東芝エネルギーシステムズの大田氏に登場いただき、少し詳しく教えてもらおう。

 

東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーアグリゲーション事業部 水素エネルギー技術部 エキスパート 大田 裕之氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーアグリゲーション事業部 水素エネルギー技術部 エキスパート 大田 裕之氏

「当時、東芝の研究開発部門は、実験室(数千グラム)レベルでは世界屈指のCO₂変換効率をもつCO₂電解装置を開発していましたが、実用(トン)レベルには到達していませんでした。また、CO₂の処理能力を高めるには多くの電流が必要なため、実用レベルを目指すと装置が大型化してしまいます。

 

このとき、『東芝エネルギーシステムズが持つ水素燃料電池の積層化技術や製造技術が活用できるのでは』と確信めいたものがありました。具体的には、CO₂を電解するセルを大面積化して、何層にも積み重ねて処理能力を向上させればよい。これは燃料電池のセル構成と同じで、もしも水素燃料電池の製造技術や製造ラインが使えれば、早期に実用化でき製造コストも低減できるはず、というのが狙いでした。

 

結果は見事なもので、水素燃料電池の製造技術を使うことで研究開発部門が造ったセル面積の25倍のセルの製作に成功しました。これが実用化すれば、バスケットコート程度の装置面積で年間10万トン程度のCO₂を処理できる計算です」(大田氏)

 

CO₂電解装置の外観

CO₂電解セルと、それを積層化した装置の外観

CO₂を資源に変えるために、再エネを上手に活用

事業側の大田氏と研究開発が連携し、CO₂電解装置は処理能力を飛躍的に上げた。また、CO₂電解装置の構造は、東芝が商品化している燃料電池の積層構造と類似しているため、その生産ラインを活用できる。事業化を確信した大田氏は、下図のようなP2C事業によるカーボンリサイクルの構想図を練りあげた。この計画で課題となったのは、CO₂電解装置を使って世の中の役に立つどのような製品を作るのか、そして、そのサプライチェーンをCO₂電解の技術開発と同時に創っていくことだった。市場動向の調査から最も期待される将来市場として航空燃料があがった。しかし、サプライチェーンを東芝グループの力のみで創るのは難しい。そこで社外を巻き込むために、大田氏は共創パートナーとなり得る企業へのプレゼン資料や事業シナリオの作成に着手する。

 

カーボンリサイクルの図

カーボンリサイクルの図

「事業化の検討を進めていたものの社内稟議が通らず予算が無いなか、サポートしてくれる有志を募ったら、東芝エネルギーシステムズに加えて、東芝 研究開発センター、東芝インフラシステムズから本社スタッフまで、グループの各社・各部署からコンセプトに共感した仲間が手弁当で参加してくれました。

 

未だ先が見えない計画にもかかわらず、『人と、地球の、明日のために。』という理念を実現するために、成し遂げなければならない事業という熱い思いを共有してくれました。その士気の高さに感激しました」(大田氏)

 

多くの同志を得て、プロジェクトは一気に加速する。3ヵ月余りでプレゼン資料をまとめ、エネルギー、プラントエンジニアリング、化学工業からユーザー企業まで、信頼できる有力企業に対して非公式ながら1社ごとに共創の打診をしてまわる。泥くさい地道な活動だが、多くの企業からとても前向きな反応が得られた。これを追い風に、周到な準備と努力が功を奏した結果、正式に稟議が通りP2C事業化プロジェクトはスタートした。2020年のことだ。

航空業界の喫緊の課題、「持続可能な航空燃料」をみんなでつくる!

事業構想で最も議論が起きたのは、COから何を造るか──。市場調査を重ね、最初のターゲットは「SAF」(持続可能な航空燃料:Sustainable Aviation Fuel)に決まった。その理由は、ICAO(国際民間航空機関)が策定した「国際航空のためのカーボンオフセット及び削減スキーム」だ。このスキームでは、①2050年まで年平均2%の燃費効率改善、②2020年以降、温室効果ガスの排出を増加させないことが目標とされ、代替燃料の活用などを求めている。これもあって、航空会社はSAFの安定供給を早急に求めていた。現在、東芝と手を組んでいる全日本空輸(ANA)の吉川浩平氏は、SAFユーザーの視点で次のように語る。

 

航空分野の脱炭素化に向け、燃料をSAFにシフトしていくことは有力な解決策の一つだ

航空分野の脱炭素化に向け、燃料をSAFにシフトしていくことは有力な解決策の一つだ

「航空業界においても、脱炭素対応が世界的に喫緊の課題です。ANAグループも、2050年までに航空機からのCO₂排出を実質ゼロ化することを目指しています。排出量の削減には様々な手法がありますが、その中でもSAFの利用拡大が対策の柱となります。既に海外ではバイオマス由来のSAF製造は開始されていますが、現状では供給量が圧倒的に不足しており、将来的にはSAF原材料が供給頭打ちとなる懸念もあります。当社としては、原料供給の制約が少なく、環境付加価値の高い東芝のCO₂資源化技術に大いに期待しており、共創パートナーとして一緒に取組んでいます」(吉川氏)

 

東芝がSAFで連携する企業は他にもある。SAF合成技術を保有する東洋エンジニアリング、ジェット燃料市場で多大な実績をもつ出光興産や、CO₂の分離回収に実績を持つ日本CCS調査など、頼もしいパートナー企業群に支えられ、サプライチェーンのピースはぴたりとはまる。そして2021年8月には、この連携体制と技術が評価され、環境省の「二酸化炭素の資源化を通じた炭素循環社会モデル構築促進事業」に採択された。手弁当で有志が育ててきた小さな種が、国家プロジェクトとして大きく花開いた瞬間だった。

 

P2C実証事業における参加企業の主な役割

P2C実証事業における参加企業の主な役割

そして、この国家プロジェクトを指揮するのは、大田氏の同僚で東芝エネルギーシステムズの尾平弘道氏だ。このプロジェクトへの意気込みを、次のように語る。

 

「研究開発と事業開発が同時進行し、業種を超え共創する企業が多くてわくわくしますね。プロジェクトメンバーの間では『最強の布陣』と呼ばれていますが、事業部、工場、研究所など東芝グループだけでも裾野の広いところに、業種の全く異なる6社が加わった共同実施体制の大プロジェクトです。そのため、当初は関係者の意見集約に苦労すると覚悟をしていました。

 

しかし、実際は全員が『カーボンリサイクル』という同じ目標を共有しているので、関係者の多さに対して意思決定はスムーズです。単なる実証事業で終わらせず、未来のエネルギーをデザインし、今後の標準となるビジネスモデルを創造する。こうした意欲にみなさん、満ち溢れています」(尾平氏)

 

東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーアグリゲーション事業部 水素エネルギー技術部 マネジャー 尾平 弘道氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーアグリゲーション事業部 水素エネルギー技術部 マネジャー 尾平 弘道氏

SAF商用フライト1号機のテイクオフを目指して!

東芝グループでは、この6社連携による国家プロジェクトの先にある、P2C事業の社会実装シナリオを描いている。それは、2030年以降に本格化するカーボンリサイクル社会を見据え、コア技術となるCO₂電解装置の研究開発と、カーボンリサイクルの商用化に向けたサプライチェーン構築だ。尾平氏に見通しを聞こう。

 

「私たちは、CO₂電解装置のさらなる大型化、処理能力向上を目指し、電解セルの積層化を進めています。これまでの研究により、積層化した電解セルを装置としてパッケージする技術や、大型化の技術も実証されてきました。計画は、順調に進んでいます。

 

2023年度には実用規模のCO₂電解装置のプロトタイプを完成させ、2026年に商品化することを目指しています。その過程では、電解セルを100枚単位で積層化することになり、予期せぬ技術課題が生じるかもしれません。しかし、東芝グループの総合力、燃料電池で培った実績や知見があれば、克服できると確信しています」(尾平氏)

 

そして、一番気になるのがCO₂由来のSAFの実用化の時期である。私たちは、CO₂から造られた燃料で飛ぶ飛行機にいつ乗れるのだろうか?その他にも、P2Cはどのような世界を実現してくれるのか?お二人に質問して、この記事を締めくくる。

 

航空業界の現状を考えると、一刻も早く実現したい。2020年代にはCO₂から造ったジェット燃料で商業フライトの1号機を飛ばす。これが、共同実施6社が描いている構想です。本格導入までには10年先をも見すえた息が長く、幅も広いプロジェクト。私のライフワークとして関わっていく覚悟です」(尾平氏)

 

「P2CによるCO₂の資源化構想はSAFだけでなく、他の燃料や化成品の製造にも適用できます。CO₂からアルコール燃料、プラスチック、化学繊維など、製造品目が多様化すればより広い業種・業態のパートナーの参画が期待できます。

 

『エネルギーをデザインする』東芝の技術をコアに、国境、企業、業種などの枠組みを超えた、『P2Cによるカーボンリサイクル』を展開していければと思います。厄介者のCO₂が、エネルギーの救世主として活躍するようなパラダイムシフトを起こしたいですね」(大田氏)

大田氏、尾平氏と共に、P2Cでエネルギーをデザインする東芝のチーム

大田氏、尾平氏と共に、P2Cでエネルギーをデザインする東芝のチーム

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