日本とドイツの文化をつなぎ、サステナブルな機関車開発を目指す~理念ストーリー We are Toshiba~
2022/07/15 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 複数拠点にわたるビジネスが成功するには、スムーズなコミュニケーションが欠かせない
- 日本で長く暮らしたAnne Milke-Takeuchi氏は、企業革新とコミュニケーションの推進者として、ハイブリッド機関車事業に貢献している
- コミュニケーションにおいて、彼女が大切にしているのは「ともに生み出す」という価値観
東芝が本当に大切にしている価値観とは? その本質に迫るため、このシリーズでは1人の従業員にスポットライトを当て、彼らが仕事をする中で何を大切にしているのかを探っていく。今回は、ドイツのキールで働くAnne Milke-Takeuchi氏に話を聞いた。
東芝鉄道システム欧州社(TRG)は、持続可能な社会を目指し、ハイブリッド機関車を開発している。この機関車は、ディーゼルエンジン発電機とリチウムイオン電池の両方を搭載することで、省エネと排出ガスの低減を同時に実現している。
2018年に設立されたTRGには、ドイツ国内の2拠点に約80名の従業員が在籍している。電気エンジニアリングチームはデュッセルドルフに、機械エンジニアリングチームは約500km離れたキールに拠点を置いている。ハイブリッド機関車の開発を成功させるためには、これら拠点間のスムーズなコミュニケーションが欠かせない。そこで、拠点間の密なコミュニケーションを築いたのが、企業変革&コミュニケーションを推進するAnne Milke-Takeuchi氏だ。
彼女は、日本で約13年生活したのちドイツに戻り、2018年10月に設立されたばかりのTRGに入社した。大学で日本学を専攻していたので、卒業後は母国ドイツを離れて日本で働くことを望んでいたという。しかし、そんな彼女がドイツ帰国を決めたのには、いくつかの理由があった。
「まず、1から新しいことができるTRGのプロジェクトに、とても魅了されました。最初の仕事は、大好きな日本とドイツの文化を融合させるコミュニケーション推進者でした。
それに加えて、常に挑戦している企業で働きたいと思っていました。TRGが、ヨーロッパの鉄道業界において二酸化炭素排出の削減を目標とすることに心動かされました。東芝の鉄道事業で広く使われているバッテリー技術『SCiB™』を搭載したハイブリッド機関車は、まさにそのけん引役となっています」
東芝鉄道システム欧州社 企業変革&コミュニケーション担当 リード・プログラム・マネージャー Anne Milke-Takeuchi氏
入社したAnne Milke-Takeuchi氏はすぐに、チームのパフォーマンスに大きな影響を与えている要因に気づく。それは、TRGがドイツと日本という2ヵ国の出身者で運営され、2つの仕事文化が混在し、微妙な摩擦が起きていることだった。どうにかしてこのコミュニケーション課題を解決できないか? そう考えていた彼女は、自然と現在の役割である企業変革&コミュニケーション担当 リード・プログラム・マネージャーを任されるようになった。
「イノベーションとコミュニケーションは、あらゆるビジネスの活力源であり、特にTRGのように歴史が浅く、同時に先駆的なソリューションの提供を目指す企業にとってはとても重要です。モジュール方式で機関車を設計する場合、もちろんキールとデュッセルドルフの間の物理的な距離は、克服しなければならない障壁です。
さらに、TRG内の様々な文化に対する誤解や、透明性の欠如からオフィス間のコミュニケーションが制限されていたことが状況を悪化させていました。これらのことが、組織全体のチームワークの低下、パフォーマンスの低下、課題に対する対応速度の低下につながっていたのです」
東芝の価値観に根ざしたソリューション
こうした課題を解決するカギとなったのが、「どこで働いているか」から「どう働いているか」への転換であり、その中心的な役割をAnne Milke-Takeuchi氏が担った。
「ここ数年の取り組みを振り返ると、東芝グループ理念体系にある『私たちの価値観』の中で、『ともに生み出す』という言葉がぴったりはまると思います。TRGは、2つの拠点の連携が不可欠であるため、『ともに生み出す』ことが欠かせません。しかし、これは自然にできるものではなく、様々な取り組みや工夫を通じて、実現されているのです」
「私たちが『ともに生み出す』ことを成功させるためには、主要拠点はもちろん、東京本社やヨーロッパ中のパートナーやお客様と仕事をする際にも、私たちが直面している課題を率直に伝え、確実に前進するために変化を受け入れていく必要があります」
最初に取り組んだのは、TRGにおける社内コミュニケーションの確立だった。様々なワークショップを通じて従業員の声を集め、懸念点を改善策に落とし込んでいった。さらに、社内プロセスを継続的かつ持続的に最適化するために、新たに「カイゼン」プログラムが生まれ、施策としてまとめられていった。このようにして、従業員が自分の考えを伝えることができはじめ、彼らのフィードバックが、変革の必要性を浮き彫りにしたのだった。Anne Milke-Takeuchi氏は、次のように説明する。
「懸念すべき点は、透明性の欠如や、2つの拠点間における人と人の距離感であることは、すぐにわかりました。この課題認識があったから、私たちはカイゼンプログラムを実施することができました。そして、このプログラムを通じて、これらの課題を解決するための一連の取り組みを行っています」
現在では、毎月のチーム会議で、プロジェクトの最新情報を共有するとともに、経営判断に関しての透明性と理解を深めている。コロナ禍でリモートワークが主流となったことで、この取り組みの重要性はより高まった。さらにAnne Milke-Takeuchi氏は、この取り組みが重要な事として根づいていくために、チームのコミュニケーションについてのワークショップを実施した。なお、このワークショップで集められた従業員の声から、会議の多さが意思決定や創造性の妨げになりうることが明らかになったので、組織全体で日々の会議数を減らすことも進めている。
最も注目すべきは、彼女が「Every Bit Counts」キャンペーンを立ち上げ、様々な重要目標を達成したことだ。どういうことか、教えてもらおう。
「Every Bit Counts キャンペーンはもともと、新しいファイル保存システムを導入するIT部門をサポートしようと始めたものでした。しかしこのキャンペーンは、それだけではなくTRG全体のコミュニケーション活性化にもつながると気づいたのです。『従業員が新しいシステムの導入目標を達成すると、自然保護団体に寄付をする』という活動を展開し、オランウータンや熱帯雨林の保護に取り組む団体と提携しました。
このキャンペーンでは、数千ユーロの寄付金が集まり、サステナビリティに貢献する素晴らしい活動になっただけでなく、TRG全体で社会課題に対する意識が醸成されたことも誇らしいですね。これは東芝らしい取り組みで、従業員が賛同し、協力し合うことで、大きなうねりが生まれました」
ビジネスを通じて、社会との関わりを生み出す
「私たちの『ともに生み出す』という価値観は、より社会的で一体感のある文化を通じて、TRG全体の結束を高めることにもつながっています。これは、従業員の組織への定着だけでなく、モチベーションや生産性の向上にも不可欠な要素です。そして、お客様や社会全体にとって、より持続可能な未来を創るというゴールを達成することにもつながります」
Anne Milke-Takeuchi氏の施策が功を奏し、今では従業員が自ら社会とのつながりを深める活動を行うまでになったという。たとえば最近では、TRGのエンジニアたちが、新しい機関車をプロモーションするTシャツを着て、キールのハーフマラソンに参加したという。走る距離は20kmでも5kmでも、あるいは同僚を応援するだけでも、チームワークが深まり、お互いを支援することになるのだ。
機関車のプロモーションTシャツを着て、キールのハーフマラソンに参加した同僚たち。前列左がAnne Milke-Takeuchi氏。
大きく進歩したTRGだが、Anne Milke-Takeuchi氏の仕事はまだ終わっていない。TRGのコミュニケーションや風土をこれからも進歩させ、東芝の新しい未来を始動させてゆく。
「ハイブリッド機関車の革新的な技術には誇りを持っていますが、健全な文化やプロセスがなければ、良いタイミングでお客様にお届けすることはできません。気候変動という課題は、ゆったりと私たちをまってくれるほど悠長なものではありません。究極的には、私たちの取り組み1つひとつが、生産性と効率性を上げることにつながり、TRGがヨーロッパ全域で持続可能で信頼性の高い鉄道網を作り上げることに貢献するのです」