日本が停電に強いのはなぜ? 意外と知らない電力供給のカラクリ

2017/09/20 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 災害大国日本が、停電などのトラブルに強い訳とは?
  • 発電から送電、配電に至るまでの高い技術とノウハウがある。
  • 1つの電力会社が発電から配電までを手掛ける日本スタイルとは?
日本が停電に強いのはなぜ? 意外と知らない電力供給のカラクリ

台風もくれば地震もある。多くの災害に直面する日本列島では、時に生活インフラに直接的な影響を受けることが珍しくない。先の東日本大震災では、震源地から離れた首都圏においても多くの世帯が停電を経験したことは記憶に新しいだろう。

 

しかし、一昔前と比べれば、停電を起こす機会は格段に減っているように思えるし、停電したとしても迅速に復旧されるイメージが強い。ここには技術面の進化もさることながら、上流から下流まで、電気の流れの随所に日本独自の工夫が凝らされている。

発電所からスタートする電気の旅の流れ

電気が水力や火力などさまざまな手法で生み出されているのは周知の通りだが、発電された電気がどのようにして我々の手元に届いているのかを説明できる人はそう多くないだろう。

電気供給の流れ

各種の手法で発電された電気は、その時点ではまだ、20kV(キロボルト)以下程度の小さな電圧に過ぎない。発電による電力のロスを抑え、送電効率を上げるための工夫として、送電時に変圧器で275kV~500kVの超高電圧に昇圧し、その大きな電力は、変電所(変圧器)を経由して、適宜、電圧を下げていく。こうした流れを経て、初めて工場や家庭などで使えるようになるのだ。

 

最終的に電力は、工場などの大規模施設に届くものは66kV~154kV程度に、市街地に送られるものは6.6kVに変電される。さらに各家庭で消費される電気については、電柱に設置される柱上変圧器によって100V(または200V)に変圧され、引込線を通して室内のコンセントに送られているのだ。

 

こうした送電時の変圧の工夫ひとつを見ても、電力網がいかにテクニカルなものかがうかがい知れるだろう。

トラブル発生! 電力インフラの対応は?

では、震災などの災害発生時に停電が起こるのはなぜか。電力流通設備の開発を手掛ける東芝 エネルギーシステムソリューション社 電力流通システム事業部技監(所属・役職は2017年8月時点)の中村正氏に解説を願った。

 

「日本の電力網は、立地環境的にどうしても発電所から需要家までに距離が空いてしまい、長距離の送電が求められます。だからこそ、東日本大震災に代表される大地震はやはり脅威で、電源の大量脱落や電力流通設備の破損による電力系統の分断が起きると、復旧に時間を要することになります」

 

中村氏によれば、電力系統におけるトラブルの大半は、送電線の不具合に原因があり、震災以外にも落雷や氷雪、風雨、あるいは鳥や蛇のいたずらによって停電が引き起こされることもあるという。

東芝 エネルギーシステムソリューション社 電力流通システム事業部技監 中村正氏

東芝 エネルギーシステムソリューション社 電力流通システム事業部技監 中村正氏

「そこで電力会社では、設備ごとに設置された保護リレーと呼ばれる機器によって事故を素早く検知し、事故区間を電力系統から切り離す対策を行っています。これは非常に高速に行われる処理で、数10ミリ秒レベルで実行されます。ただ、たいていの系統事故はこれで対処されるものの、事故区間の切り離し後に2次的な事故が波及し、電気が不安定な状態に陥ることもあります。この場合は結果として大停電につながりがちで、海外で報じられる大停電事例のほとんどがこのケースに相当しています」

 

では、大規模な停電の少ない日本では、こうしたリスクをどのように抑えているのだろうか。

 

「ひとつには、設備や系統の運用に余裕をもたせ、送電線1回線の事故が次のトラブルに波及しないよう努めていることが挙げられます。また、めったに起こることではありませんが、たとえ2回線が同時に事故を起こした場合でも、日本では系統安定化システム(※1)を構築して運用しています。これは停電を一部に抑え、大規模停電への進展を防止するもので、海外にはあまりない日本の優れた技術です」

 

※1 系統安定化システム:事故発生時に大停電を未然に防止するためのシステム。日本では40年以上前からこのシステムを導入し、電力系統の拡大に応じてアップデートが進められてきた歴史がある。

保護リレー装置

さらに、局所的に発生する配電系統の事故では、事故区間を切り離し後、健全区間を自動復旧する配電自動化システムが日本では普及している。これが停電時間の大幅な短縮に寄与しているわけだ。

電力の“安心”を見守る鉄壁の体制とは?

そしてもうひとつ、日本の安定した電力供給を支えているのが、システムの中枢で常に稼働している監視・制御システムである。

 

「電力系統の監視制御は、大きく需給運用と系統運用に大別されます。需給運用は、刻々と変動する需要(負荷)に対して、発電機のバランスを制御することで安定した周波数を維持するもの。系統運用は、発電所で作り出した電力を需要地まで輸送するとともに、適正電圧を維持できるよう、電力流通設備を制御するものです」

発電から消費までの電気の流れ

ちなみに需給運用については各電力会社の中央給電指令所(※2)で、系統運用は地域や電圧階級ごとに電力会社内に設置される給電所、制御所で行われるという。東芝ではこうした中央給電指令所システム、給電・集中制御システムを多数納入しており、それを電力会社が24時間体制で運用しているというわけだ。

 

※2 中央給電指令所:刻々と変化し続ける電気の使用量を予測し、発電所の発電量を調整する指令を24時間体制で発信する施設。

中央給電指令所システム

再生可能エネルギーに注目が集まる昨今、不確実で出力変動が大きい太陽光発電などは、供給(発電)側に高精度な制御が求められる。太陽光発電の変動分は、火力発電などの電源出力を制御することで需要と供給のバランスを保つのだが、大量に太陽光発電が導入されると、その調整が難しくなり、今後、安定した電力の系統運用を妨げるという懸念も出てきている。

 

そこで、太陽光発電による余剰電力を揚水発電や大容量の畜電池に貯める、そもそもの出力を抑制するなどの対策がとられているが、まだまだ十分な環境ではないという。今後も電気の安心安全を守るためには、制度面を含めた改善が欠かせないのだ。

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