サステナブルな食卓に貢献する【後編】 ~対話型のトレーニングが、高い品質を実現!

2022/12/08 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 高品質を支える統計的視点と、対話型トレーニングとは?
  • 問題には必ず原因がある。上下関係なく同じ立場で議論!
  • 「今日も働きたい!」と思えることも、高品質につながる
サステナブルな食卓に貢献する【後編】 ~対話型のトレーニングが、高い品質を実現!

コロナ禍により自宅での食事が増えたこともあり、世界的に需要が増加している電子レンジ。前編では、電子レンジの心臓部であるマグネトロン製造について、東芝がどのような役割を担い、サステナブルな食卓を支えているかを紹介した。そこには、モノづくりのDNAが日本とタイの間で連鎖している姿があった。

 

後編では、日本とタイをつなぐモノづくりのDNAが、具体的にどう進化し、浸透しているのかを解説する。私たちの食卓を豊かにしてくれる機器の裏側に、どのような努力があるのか。今回も登場するのは、二人のキーマン、Satit氏(マグネトロン製造・技術・品質の担当役員)とSarawut氏(プロセス・エンジニア)だ。

「原因」と「結果」を基本に東芝の活動理念を追求する

東芝ホクト電子タイ社(THDT)は、電子レンジの心臓部と呼ばれるマグネトロンを古くから製造しており、高品質と高効率を追求し続けてきた。高品質のマグネトロンを安定的に製造できる1つの要因として、東芝の人材育成がグローバルで徹底されていることが挙げられる。つまり、業務品質向上や生産性改善に真摯に取り組む文化が、国や地域を超えて根づいているわけだ。

 

その根幹となっているのは、かつて東芝グループが1999年から2000年代に全社で実施していたMI(Management Innovation:経営変革)活動だ。日本の製造業では、品質の維持・向上のために現場の従業員たちが意見を出し合い、改善を繰り返していく独自の文化が定着している。東芝は、人間の「勘」や「経験」に頼るのではなく、統計的手法を用いることでより精度の高い品質改善を目指す6 シグマ*を取り入れた。具体的には、①課題を定量化した上で、②システムの構成要素から重要因子を抽出し、③統計手法なども活用してシステムを最適化する、というものだ。この考え方は今でも東芝グループで広く浸透している。

*ミスや欠陥品の発生確率を、3.4/100万分のレベルにすること目標とした継続的な品質改革。シグマは標準偏差を表す。

科学的・統計的なアプローチで、品質を維持・向上する

科学的・統計的なアプローチで、品質を維持・向上する

Satit氏は、品質管理において個人として優れたスキルを有するだけでなく、MIグローバル教育の講師を担当するなど、人材育成に長年携わってきた。人材を育てるエキスパートでもある。そこでは、知識を一方的に押しつけるのではなく、対話を重ねながら一人ひとりの主体的な学びを引き出すことを大切にしていたという。現在も考え方は変わらず、THDTでも同様に人材を育てている。

 

私たちの業務において、基本となっているのは統計学的な視点です。エンジニアリングにおいて、すべての事象には必ず原因と結果があります。技術者として、論理的、定量的な検証を重ねて主原因を突き詰めていく姿勢が不可欠。人材育成においては、その根本的な部分を、日々の仕事を通じてしっかり教えています。

 

そのためにも、日ごろから私が気づいた原因と結果の関係を従業員にすぐに伝えたり、また若手であっても自分の思ったことを率直に発言したり、そういう対話型の職場環境をつくることを心がけています。

 

そして、この関係性は、北海道旭川市でマグネトロンの研究開発を担っている、東芝ホクト電子に対しても同じです。私たちの現場で見つかった課題を共有することで、その解決に向けて研究開発が発展し、マグネトロンの品質が底上げされます」(Satit氏)

 

東芝ホクト電子タイ社 Director Satit Wongchompoo氏

東芝ホクト電子タイ社 Director Satit Wongchompoo氏

真面目な国民性だからできること

THDTでは、“小集団活動”と呼ばれる、自主的な活動を通じて品質改善などにつなげる取り組みも当たり前のこととして定着しているとSatit氏は話す。真面目な国民性もあって、この活動は自然に身に付いていったようだ。

 

「小集団活動を上手く機能させるには、マネジメント層が積極的に参加することが重要です。現場では、マネジメント層も含めて誰でも制限なくこの活動に参加するよう促しています。一般の従業員たちが自由に提案、議論できるようにしていますし、マネジメント層がそれをサポートすることも従業員に伝えています。

 

とはいえ、みんなを参加させるために何か特別な方法を意識しているわけではありません。THDTでは小集団活動をずっと昔からやってきましたし、今も自然に続いています。もはや企業文化として根づいていると言っていいでしょう」(Satit氏)

 

中堅世代のSarawut氏もSatit氏の指導の下、品質管理に関する高度な知見を学んできた一人だ。プロセス・エンジニアである同氏は、東芝のかつてのMI活動においてQE(Quality Expert)というリーダーとしての資格を取得。品質の専門家として、THDTのマグネトロンの製造チームで改善活動を牽引している。

 

私も、何の原因もなく問題が起こることはないと思っています。私の仕事は、その問題をエンジニアリングと統計的な方法を用いて解決すること。定量的に課題を特定し、解決策を導くディマイク手法*を実践する機会に恵まれています。私自身、統計的な手法で問題を解決するのが好きなので、自分の強みが磨かれると考えています。

 

Satitさんのトレーニングは一方的に教えるものではないので、私たちからもどんどん質問を投げ掛けています。みんながトレーニングを楽しんでいるのがわかりますね。それぞれの従業員が独自の経験を積んでいるので、対話の中で実践的な知識を学ぶことができます」(Sarawut氏)

*DMAIC:Define(定義)→Measure(測定)→Analyze(分析)→Improve(改善)→Control(定着)の手順で、課題と解決策を定量的に導く。

 

東芝ホクト電子タイ社 Magnetron Manufacturing Engineering Group  Group Manager Sarawut krueganok氏

東芝ホクト電子タイ社 Magnetron Manufacturing Engineering Group  Group Manager Sarawut krueganok氏

「今日も働きたい!」と思える職場を目指して

THDTの改善活動への積極的な取り組みは、東芝グループの中でも注目度や評価が高まっている。活動が着実に成果を出しはじめ、製造効率が向上しているからだ。2021年には、親会社である東芝デバイス&ストレージが製造事業所の取り組みを表彰する大会において、ベスト・プラクティスに選出された。

 

マグネトロン製造の主力拠点であり、また改善活動に先進的に取り組むTHDTをより発展させていくため、今後どのような活動を目指したいのか。最後に二人に聞いた。

 

「タイでは、55歳で仕事のキャリアが一旦終了します。私は54歳ですので、あと1年です。その中で自分は何になりたいか?すでに実践し始めていますが、まずは次世代育成のためにトレーナーやコーチになりたいと考えています。教える内容は、エンジニアリングだけにとどまらず、どう人生を送るか、いかに楽しく働くかといったことについても、彼らを後押ししたいですね。楽しく働くことは大切ですが、実践するのは決して簡単ではありません。例えば毎朝起きたとき、『今日も働きたい!』と思えるかどうか。これも楽しく働くこと、そして製品の品質につながるでしょう。

 

ですから、すべての従業員たちと協調性をもって共に働くことを目指したい。協調性とは、言い争いにならずしっかり話し合えるということ。相手の根拠を認めることです。誰であっても問題の原因について正当な意見を伝えたなら、それを認める。根拠をもって議論するのは生産的です。そんな職場を醸成し、従業員みんなが楽しく働くことを後押ししたいと考えています」(Satit氏)

 

「THDTの未来に向けて、私自身は、IoTのスキルを高めることが重要だと考えています。人々のより快適な暮らしを実現するために、データの力が必要で、そこにIoTは貢献をすると思うからです。

 

具体的には、IoTを現場に活用することで、製造現場のあらゆるデータを自動収集しモニタリングすることができます。問題と原因を分析し、解決するスピードが大幅にアップできるはず。これまでより、さらに良いものを社会に届けたい。これからも東芝の製品の品質を磨くことが、人々の幸せにつながると私は信じています」(Sarawut氏)

 

THDTでは今後、家庭用電子レンジ向けだけでなく、工業用途のマグネトロンの生産を手がけることが検討されている。その技術力を支えているのは、Satit氏やSarawut氏をはじめとするタイの優秀な人材たちだ。すでにTHDTでは、彼らに続く優れた次世代人材が次々と育っている。今後も、東芝製品の確かな品質を支えていくことだろう。

 

東芝ホクト電子タイ社の面々

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