IoTで変わる!未来エレベーター 柔軟な発想がビジネスのヒントに

2017/02/13 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 上下移動だけの箱にとどまらない進化
  • エレベーターの新しいサービス・使われ方の提案
  • IoTで建築やエレベーターの概念も変わる
IoTで変わる!未来エレベーター 柔軟な発想がビジネスのヒントに

2006年――今から10年前を振り返ってみると、それはまだスマートフォンやSNSが私たちの日常に広がっていく前のこと。当時からしたら、「歩きスマホ」「SNS疲れ」といった概念はまったく理解できなかっただろう。では、翻って10年先にはどんな光景が私たちの前に広がっているだろうか? まだ見ぬ10年後の日常に想像力を働かせる試みの一つが、東芝エレベータ株式会社が主催した「未来エレベーターコンテスト」だ。

 

2016年に行われた第10回では、「IoTが変える! IoTで変わる! 10年後の建築とエレベーター」をテーマに、2026年のエレベーターのありようを広く募った。身の回りのあらゆるものをインターネットにつなげる「IoT(Internet of Things)」が浸透していく中、暮らしやビジネスはどう変容しているのか。若者世代が未来のエレベーターを見通した先、そのアプローチにはビジネス企画創発のさまざまなヒントがあった。

京都の歴史と観光の架け橋となる和のモビリティが高く評価

最優秀賞:ひすとりっぷ ~あなたと歴史をつなぐモビリティ~
村松佑紀さんら8名(和歌山大学大学院・和歌山大学)

ひすとりっぷ ~あなたと歴史をつなぐモビリティ~

5名の審査員が最優秀賞に推したのは、京都の街を巡る観光型エレベーター「ひすとりっぷ」。乗り込むユニットは歴史的な意匠の手まりをモチーフにしており、上下に移動する箱型エレベーターのイメージを覆すルックスに目を引かれる。

 

球体に仕上げたのは京都で移動する際、街並みをしっかりと見渡せるため。京都を初めて訪れる人にも魅力的な観光体験をもたらすことが最大の特徴で、歩いて観光するだけでは気づかない史跡、名所をIoTで感知し、往時の風景、人物、建築などをARで表示してくれる観光サポート機能

京都の町中に位置情報を持つRFIDタグやfree WiFi機能のついた街灯や石碑、自動販売機などが点在し、「ひすとりっぷ」が近づくと位置情報がCloudに送られる

京都の町中に位置情報を持つRFIDタグやfree WiFi機能のついた街灯や石碑、自動販売機などが点在し、「ひすとりっぷ」が近づくと位置情報がCloudに送られる。観光地の混雑状況から把握した最適な観光ルートや、史跡のAR解説を「ひすとりっぷ」に送る。

 

モビリティとしては、「目的地に自律的に進む」エレベーターの特性と、自動車の「自由に好きなところに行ける」機能がスマートにドッキング。隠れた歴史、観光名所をガイドなしで教えてくれるだけではなく、スムーズに自律移動することで人気観光地ならではのストレスを軽減してくれそうだ。

京都駅にはユニットの大本の拠点となるセントラルステーションを設置

京都駅にはユニットの大本の拠点となるセントラルステーションを設置。ユニットはCloudと通信しながら自身の充電が少なくなると、各地に設置されているステーションへ帰還し充電をする。

 

「8人で作りこんだだけあり、エネルギーがこめられた作品になっていました。特に私が評価したのは、京都駅に設置を想定したエレベーターユニット専用のステーションです。セントラルステーションでの手まりが縦に並んだようなデザインは京都らしさを感じさせつつ、エレベーターならではの縦の空間づくりも意識されていました」(審査員・筑波大学システム情報系社会工学域教授 谷口守氏)

 

和歌山大学・大学院のメンバーは、人気観光地の世界ランキング1位から6位に転落した京都をいかにして復権させるかという問題意識から本作品を着想した。
世界的な観光都市・京都の課題は「大勢の観光客による交通渋滞、駐車場不足の解消」だ。

 

「京都の観光をスムーズに」というソリューション的な発想を持ちよって、未来の観光エレベーターを作りこんだ作品といえるだろう。

解体と再構築――「エレベーター」とは何かを、あらためて考える

優秀賞:電梯(エレベーター)の解体
吉川 学志さん(首都大学東京大学院)

電梯(エレベーター)の解体

エレベーターの周囲を人の動きによって伸縮する風船のような空気膜で囲う。さらに空気膜をエレベーター外部にも拡張し、建物の壁のように使うことで、壁の中を通る形でどこからでもエレベーターに乗れるようになる。エレベーターは単なる建物の付属品ではなく、建物の空間を構成する重要な要素に。

 

審査員の一人である東芝エレベータ株式会社 常務 藤田善昭氏に「10年間のコンテストを通して見ても、最もエレベーターらしいエレベーター。よく研究している」と言わしめた作品がこちら。

 

10年後、高度にIoT化が進んだ社会では、エレベーターは箱型にとらわれず、自由に進化していく余地があるのではないか――本作品は野心的なアプローチによって、エレベーターのありようにメスを入れる。

 

箱型エレベーターをIoTによって解体したのが本作品。入口は一つに限らない。センサーを内包した空気膜で囲むことで、どこからでも出入りできる仕様が構想された。

 

「画一的な横トビラではなく、壁のどこでも出入り口になる自由なインターフェイス」「四角形の箱型に限らない形」に行きついたのが、本作品だ。

 

エレベーターをインターネット化することで、まるで呼吸するかのようなエレベーターが、どこでもドアのようなエレベーターが立ち現れる。受賞した首都大学東京大学院・吉川さんは「エレベーターは建物の付属品ではなく、建物を侵略していく存在になるかもしれない」とコメント。

呼吸するインターフェイス

①呼吸するインターフェイス
現在のエレベーターは横トビラで出入り口は1つか2つ。しかし空気膜で囲われた本エレベーターは人が近づくと天井にある感知センサーが働き、空気膜の空気量が調整されることで入り口が出現する。

どこでもドア化するエレベーター

②どこでもドア化するエレベーター

要素を徹底的に解体することで、エレベーターという定義がガラリと覆されていく小気味よさを秘めたのが本作品。

 

IoTという最新ワードにこだわったわけではない。対象を解体し、再構築することでも新たなアイデアは生まれ得るのだ。

地方の緩やかなつながりを都市部でも

審査員賞:もの縁マンション ~モノから生まれるヒトの縁~
川崎 光克さん(東京大学大学院)

もの縁マンション ~モノから生まれるヒトの縁~

地方では物々交換やモノの貸し借りで生活の一部をまかなうことができる。それは顔の見えるコミュニティで成立する緩い関係性、温かいつながりだ。地縁血縁がない大都市でも、そんなモノの貸し借りができないだろうか――受賞者の素朴な思いつきが結実したのが、こちら「もの縁マンション」。

 

受賞者である東京大学大学院・川崎さんは、実家の家族が周辺の知人と物々交換によって生活の一部をまかない、緩いながらも安定したコミュニケーションを築いていることに着目。人間関係が希薄な都市生活でも、モノを情報化し、エレベーターを活用することで現代流の「シェア」が導入できないかと考えた。

もの縁マンション ~モノから生まれるヒトの縁~

マンション単位であれば「食」さえもがシェアできるようになる。シェアしたいモノを情報化(銘柄、定価、残量)しアプリを通じて住人同士のシェアが生まれる。モノの情報化をすることで新しいシェアのかたちを生み出している。

 

本作品では、マンションの住人、その入居者たちが持っているさまざまなモノをIoTによって情報化。上下左右に移動するエレベーターをマンション内に設置することで、都市においても「貸し借り・おすそ分け・物々交換」を柔軟に実現する。昨今のトレンドワードの一つであるシェアリングエコノミーとも統合し、新たなシェアの形を考えた。

 

審査員のKIKIさんは、「マンション内のシステム提案はセキュリティ面で課題もあると思うが」と留保を付けつつ、モノから始まる新たな「縁」に思いを馳せる。
「モノの行き来から生まれる縁。新たなエレベーター像が昔懐かしい日本の風景を再現してくれる。そんな可能性にワクワクしました。限定された空間建築、大学や会社の寮だったら、十分に発展できるのではないでしょうか」(KIKIさん)

「エレベーター」が見せてくれる、ちょっと素敵な未来

業界のバズワードだった「Internet of Things」が一般にも浸透し、「IoT元年」といわれた2016年。東芝が昇降機事業を開始してからちょうど50周年、未来エレベーターコンテストは10回目というメモリアルイヤーでもあった。

 

インターネットとリンクさせたら、どのような機能・サービスが視野に入るのか? 若い発想がきらめく「未来エレベーター」の独創的なかたちからは、新たな可能性を存分に感じることができた。受賞作品群を見てもわかるように、それらは決して斬新な機能に着目しただけではない。初めて乗った時の感動、驚きを味わわせてくれる――未来エレベーターコンテストからは、そんな作品が次々に着想され続けている。

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