スカイツリーより高い!? 落差714メートルの揚水発電所

2017/04/12 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 地下500mに存在する揚水発電所
  • 高低差で生まれるエネルギーで発電する
  • 他のクリーンエネルギーの調整役として有効
スカイツリーより高い!? 落差714メートルの揚水発電所

山梨県の山中、地下500メートルの場所に、クリーンエネルギーの発電所が存在する。といっても、太陽光でも風力でもなく、地形的な高低差を生かした揚水発電所である。

葛野川発電所

 

水力発電は、高いところから低いところへ水を落とし、その位置エネルギーを電気エネルギーに変換する発電システムである。その中でも揚水発電は、上下に貯水池を設け、電気の使用量が比較的少ない時間帯に下池から上池に水をくみ上げ、電気の使用量が多い時間帯に上池から下池に水を落とすことによって発電する。

 

とりわけ山梨県の「葛野川発電所」では、有効落差714メートルを使って1台で400MWを発電できる、世界最大級の巨大揚水式水力発電システムを備えている。水源豊富で山岳地帯の多い日本にとって、揚水発電は新たなクリーンエネルギーの有力候補になり得るのだろうか――?

電気を水の位置エネルギーとして蓄える揚水発電システムのメリット

「揚水発電では、ポンプ水車を水車として水の力で回し、直結している発電電動機で発電します。そして水をくみ上げる際には、この発電電動機を電動機として電気で動かし、ポンプ水車をポンプとして使って揚水しています。電気というのは使用量と発電量をそろえなければ、品質が悪くなってしまうもの。そのため電力会社は、電気の需要変動に合わせて、常に発電量を調整しています。揚水発電システムはこうした調整に、非常に長けた発電方式といえるでしょう

東芝・水力プラント技術部の森淳二氏

東芝・水力プラント技術部の森淳二氏

そう語るのは、東芝・水力プラント技術部の森淳二氏だ。
揚水発電所は、電気を水の位置エネルギーとして蓄えることのできるシステムであり、いわば「水を使った巨大な蓄電池」と森氏は表現する。

 

同社が葛野川発電所に納入した4号機は、水を持ち上げる高さを指す「揚程」が785メートルと世界最高値を誇るだけでなく、可変速揚水発電システムとしても世界最大容量機であるという。

葛野川発電所 4号機可変速発電電動機

葛野川発電所 4号機可変速発電電動機

「例えば原子力発電所や大容量の火力発電所は、常に一定の出力で運転したほうが効率的であるため、夜間には余剰電力が生まれてしまいがちです。しかし、運転速度を任意に制御できる可変速揚水発電システムでは、時間帯に合わせて揚水量、つまり電気の使用量をコントロールできるため、調整用に無駄な発電をする必要がありません。」

 

現在、水力発電所は日本全国に2,000カ所以上あるが、そのうち揚水発電所は約40カ所と少ない。それにもかかわらず、設備容量では水力発電の半分以上を揚水発電が占めている現実があるという。今、あらためて揚水発電に着目し、有効活用する価値は十分あるといえるだろう。

今後ますますニーズを高める揚水発電の調整力

東芝が葛野川発電所の3号機、4号機の検討を開始したのは、1990年代初めのこと。バブル景気は終焉(えん)を迎えたころながら、電力需要はまだまだ伸びると予測され、原子力発電所だけでなく揚水発電所の建設も多々計画された時代である。

 

ところが、電力需要の伸びの鈍化によって計画は頓挫。葛野川発電所の建設は2002年にポンプ水車を据え付けたところで中断されることになってしまう。工事が再開されたのは、2011年の東日本大震災以降、電力の供給がひっ迫する事態に陥ったためだった。

東芝・水力プラント技術部の森淳二氏

「これまでは昼夜の需要差を埋める手段として用いられてきた揚水発電ですが、最近では太陽光発電や風力発電など、天候によって出力が変動する発電方式が増えてきたことを受け、特に可変速揚水発電システムが、その“調整力”として再び注目されるようになりました。今後、いっそう活用が進むことが期待されます。それにあたり、システム面での今後の課題としては、より低出力での運転を可能とすることや、揚水運転から発電運転への切り替え時間を短縮すること、複数の揚水発電システムを協調運転することなど、より俊敏で大きな調整力を提供できるようにすることですね」

 

可変速揚水発電システムの拡大は、クリーンエネルギーの有効活用にもつながる。今後の動向にぜひご注目いただきたい。

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