オゾンの力でおいしい水を 高度浄水処理設備の水面下の革新

2017/10/18 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 一昔前の浄水処理では気になる臭いの完全除去は難しかった!?
  • より水をきれいにするオゾンの原理を解説!
  • オゾンを効率よく発生させるための驚きの工夫とは…?
オゾンの力でおいしい水を 高度浄水処理設備の水面下の革新

蛇口をひねればいつでもきれいな飲み水が得られ、世界でもトップクラスの品質を誇る日本の水道。しかし、これがどのようなプロセスを経て我々の元に届いているのか、そしてそこにはどのような技術が用いられているのか、浄化処理の詳細な仕組みはあまり知られていない。

 

通常、浄水処理には水中の有機物を薬品で凝集、沈殿させる急速ろ過方式(※)が主に用いられている。だが、実は、この処理だけでかび臭や異臭などを完全に除去するのは困難であったという。

 

※急速ろ過方式
もともとは19世紀末にアメリカで生まれた浄水システムで、凝集剤によって不純物の細かな粒子を凝集させ、ろ過する方式のこと。

浄水処理の仕組み(急速ろ過)

浄水処理の仕組み(急速ろ過)

そこで、1970年代から利用され始め、水道水のさらなる品質向上に一役買ってきたのが、オゾン処理と生物活性炭処理を組み合わせた高度浄水処理システム。今回、この2つの処理フローのうち、オゾン処理にフォーカスし、その最前線を追ってみよう。

発がん性物質やカルキ臭も問題視された従来の浄化処理

「従来の方式で課題とされていたのは水から発せられるカビ臭、異臭だけではありません。20年ほど前までは、水源となる河川の水質悪化のため、消毒用に大量の塩素を投入する必要があり、これによって発がん性物質として知られるトリハロメタンが生成されることも、大きな問題となっていました。そこで大都市を中心に、各地の処理施設で、オゾンを用いて有機物を分解し、その分解された有機物を生物処理すると同時に、活性炭に吸着させるという高度浄水処理が行なわれるようになったんです」

 

そう語るのは、東芝インフラシステムズ株式会社・水・環境システム事業部の久保貴恵氏だ。久保氏によれば、東芝が高度浄水処理に用いられるオゾン発生装置を導入し始めたのは、およそ25年前のこと。

オゾン処理と生物活性炭処理を組み合わせた高度浄水処理システム

オゾン処理と生物活性炭処理を組み合わせた高度浄水処理システム

「また、水道水の問題点としてよく挙げられるカルキ臭も、塩素によって発生するものです。塩素はきれいな水に入れてもあまり臭いを発しませんが、アンモニア等の有機物を含む水に混ぜると、反応して臭いを生じる性質があります」(久保氏)

東芝インフラシステムズ株式会社 水・環境システム事業部 久保貴恵氏

東芝インフラシステムズ株式会社 水・環境システム事業部 久保貴恵氏

確かにひと頃、水道水の味や臭いに対する不満が頻出し、飲み水として敬遠される傾向があった。その結果、各家庭では浄水器を設置したり、ミネラルウォーターを常備したり、自力で「おいしい水」を確保する習慣が浸透したわけだが、その裏では水道水自体の品質を改善するための技術革新もしっかり進められていたのだ。

 

これまで国内100か所以上の浄水場などにオゾン発生装置を納入してきた東芝。これほどの高い実績を誇る理由の一つには、東芝のオゾン発生装置「TGOGSTM(Toshiba Green Ozone Generators)」におけるたゆまぬ技術改良がある。このTGOGSTMに近年採用された新たな技術については、後述するとして、まずはそもそもなぜオゾンで水がきれいになるのかというところから考えてみよう。

東芝のオゾン発生装置TGOGSTM

東芝のオゾン発生装置TGOGSTM

なぜ、オゾンで水がきれいになるのか?

より良質な水道水を作り出すオゾン。その仕組みを同じく水・環境システム事業部の牧瀬竜太郎氏に解説してもらった。

 

オゾン(O3)は強い酸化力を持ち、水中のさまざまな有機物を酸化分解し、脱色、脱臭、消毒する働きがあります。オゾンを使用した高度浄水処理によって水質が飛躍的に上がり、最終的に投入する塩素の量を大きく削減することができ、トリハロメタンの発生なども抑えることができるのです」

東芝インフラシステムズ株式会社 水・環境システム事業部 牧瀬竜太郎氏

東芝インフラシステムズ株式会社 水・環境システム事業部 牧瀬竜太郎氏

オゾン発生装置は、蜂の巣のように放電管(※)をいくつも集積した構造となっている。ここに高電圧をかけ、放電によって酸素分子(O2)から酸素原子(O)を解離させ、さらに他の酸素分子(O2)と結合させることでオゾン(O3)がつくられるのだ。TGOGSTMには東芝の技術の粋が結集されているが、その中でもひときわ注目されるのがステンレススパッタリング技術だ。

 

※放電管
陽極と陰極との間で放電を起す管のこと。

オゾンが発生する仕組み

オゾンが発生する仕組み

「『TGOGSTM』で採用している放電管は、ガラス管の中にステンレスの薄い膜を設けたもので、この薄膜を作る技術がステンレススパッタリング技術です。従来、ガラス管の口径を小さくしつつ、このステンレスの薄膜を作り出すのは至難の業でした。ステンレス膜を形成する際には、ターゲット棒と呼ばれるステンレスでできた棒に電圧を加え、そこからステンレスの粒子をガラス面に飛ばします。しかし、均一にステンレス膜を作ろうと思うと、ターゲット棒とガラス管の内部に一定の距離が必要となり、そのためにガラス管の口径を大きくせざるをえませんでした」(久保氏)

ステンレス薄膜を形成するステンレススパッタリング技術の仕組み

ステンレス薄膜を形成するステンレススパッタリング技術の仕組み

そこで、東芝はターゲット棒を細くし、ガラス管との適切な距離を探ることで、ガラス管の小口径化を模索。従来比約60%の口径となる放電管を作ることに成功した。口径を小さくすることで、オゾン発生装置そのものの小型化が可能となっただけではなく、より多くの放電管を集積し、さらに製造精度を上げることで、高効率でオゾンを発生できるようになった。

放電電力とオゾン発生量の比較―TGOGSTMは従来型より放電電力を約20%低減できた

放電電力とオゾン発生量の比較―TGOGSTMは従来型より放電電力を約20%低減できた

放電管にはステンレス以外の材質を用いたオゾン発生装置もある中で、あえてステンレスにこだわった理由は、ステンレスが放電管そのものの耐久性に寄与するからだという。

 

「オゾンは酸化力が強く、また、オゾン生成の過程では硝酸も生まれます。これらに耐えられる材質であり、さらに軽量であることから組み立て時やメンテナンスの際の効率化にもつながるため、ステンレスの薄膜がベストだと私たちは判断しました」(牧瀬氏)

 

こうした水面下の技術革新により、すでに、東京の利根川水系、大阪の淀川水系に関しては100%、高度浄水処理の導入が完了しているという。こうなると当然、見据える先は世界の市場だ。

 

「新興国では高度浄水処理はほとんど行われていない状況です。そうした国々でも高度浄水処理が導入されるためには、例えば気温の高い国では現地の気温でも耐えうる素材を使用したり、メンテナンスの簡素化を試みたり、用品の現地調達を考えたりするなど、その国々の事情に合わせてTGOGSTMに改良を加え、使いやすいものを提供していかなければなりません」(久保氏)

 

TGOGSTMは日本が誇る安全でおいしい水を生み出す技術の一つとして、世界のさまざまな水問題の解決につながる、大きな可能性を秘めているのだ。

久保貴恵氏 牧瀬竜太郎氏

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