1980年代にスマート工場の発想が! 産業用コントローラで時代を先取り

2018/06/06 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • これからの産業の発展を支える産業用コントローラって何?
  • 産業用コントローラがIoTの源流!
  • 産業用コントローラに携わるからこそ予見できるIoTの課題とは?
1980年代にスマート工場の発想が! 産業用コントローラで時代を先取り

今日のIoTやスマート工場に通じる概念が1980年代にはすでに存在していたと聞けば、多くの人が驚くのではないだろうか。

 

身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながるIoT。工場内の機器や設備をネットワークで接続、集積したデータを分析し、高度な自動化を実現するスマート工場。これらは2000年頃からのインターネットの普及で、大きく注目を浴びることになった概念だ。

 

だが、今から約30年前、これらの概念を先取りしていたのが「産業用コントローラ」。テクノロジーの発展とともに進化を遂げてきた、これからの産業発展を根底で支える重要なコンポーネントである。

1980年代にIoTに通じる概念が存在していた!

「産業用コントローラの役割を端的に表現すれば、『工場を自動化させるための装置』です」

 

そう解説するのは、東芝インフラシステムズ株式会社の岡庭文彦氏だ。

東芝インフラシステムズ株式会社 産業システム統括部 岡庭文彦氏

東芝インフラシステムズ株式会社 産業システム統括部 岡庭文彦氏

「たとえば、工場でかつて人間が行っていた溶接や組み立てといった工程は、現在はロボットによって一部自動化されています。そのロボットの動きを制御しているのが産業用コントローラです」(岡庭氏)

 

IoTやスマート工場に通じる概念が1980年代から存在していたとはどういうことなのだろうか。

 

「産業用コントローラの歴史は古く、開発のスタートは1970年代にまでさかのぼります。私が入社した1989年には『CIE統合(※)』という概念が提唱され始めていました。これは産業用コントローラとコンピュータの統合により、コントローラから収集されたデータをコンピュータに接続して分析を行わせようとするものです」(岡庭氏)

 

※Computer(コンピュータ)、Instrumentation(計装制御)、Electric Control(電気制御)。計装制御と電気制御は産業用コントローラの種類のうちの二つ。

CIE統合を目指して1989年に製造された産業用コントローラCIEMAC

CIE統合を目指して1989年に製造された産業用コントローラCIEMAC

IoTの本質は、すべてのものをインターネットにつなげて、様々なデータを収集、コンピュータに接続し、その情報を分析して現場にフィードバックすることにある。インターネットを使用しない点を除けばCIE統合の目的とほぼ同じだ。

 

「産業界の大目標は人を介在させない工場の高度な自動化といっても過言ではないでしょう。CIE統合や機器をネットワークで繋げることもその手段の一つ。今のスマート工場の目指す姿に通じます。それが当時、産業用コントローラに携わっていた私たちの『夢』。しかし、ネットワークの高速化やコンピュータの汎用化でデータが収集しやすくなり、実現可能な『目標』となりました。時代がようやく追いついてきたと感じています」(岡庭氏)

 

しかし、それらがもたらしたのは嬉しいことばかりではなかった。2009年から2010年にかけて、ある事件が産業用コントローラ界に大きな衝撃を与えた。それは、イランの核燃料施設におけるウラン濃縮用遠心分離機の破壊である。

IoTを予見した分野からの未来への提言

「この破壊は、核燃料施設で使われていた業界最大手の産業用コントローラがウィルスに感染したことが原因だと言われています。物理的に人が工場に侵入しない限り、制御システムは安全だ、という神話が崩れた瞬間でした。

 

2000年初頭から工場でもコントローラのOSやネットワークの汎用化が進んでおり、私自身はセキュリティについて問題視していましたが、それが現実のものとなり、とてもショックだったことを覚えています」(岡庭氏)

 

現在、堅牢なセキュリティは産業用コントローラに欠かせない要素の一つ。岡庭氏が手掛ける「type2」という東芝の産業用コントローラは、国際的に認められた第三者認証機関であるCSSC(※)認証ラボラトリーによる審査にも合格している。

 

※CSSC(Control System Security Center):技術研究組合制御システムセキュリティセンター

nvシリーズ「type2」

nvシリーズ「type2」

また、工場では高いセキュリティの他、常に求められるのがリアルタイム性だ。

 

「皆さんが普段使っているパソコンはソフトの起動に少し時間がかかったり、同時に多くの処理を課すと動作が遅くなったりしますが、ロボットやベルトコンベアなどの設備を動かすコントローラでそうした遅延が起こると、工程全体が滞り、大きな問題となります」(岡庭氏)

 

IoTではインターネットを介しクラウド上にデータを蓄積して分析を行う。しかし、膨大な量のデータがクラウド上に集まるため、データ処理に時間がかかり、リアルタイム性が損なわれる、といった課題も指摘されてきた。

 

ここで重要となるのが、データが生成される場所の近くでデータを処理し、処理時間の遅延の最小化を図るエッジコンピューティング。昨年リリースした「typeFR」は1台の産業用コントローラでコンピュータの機能も果たし、クラウド上にデータを上げることなく、コントローラ内でのデータ分析を可能にしている。

エッジコンピューティング

エッジコンピューティング

産業用コントローラとコンピュータを統合する――この発想に聞き覚えはないだろうか。まさに岡庭氏が入社時から目指していたCIE統合だ。1980年代から東芝が目指していたCIE統合は、インターネットの時代に入り大きく飛躍、IoTやスマート工場につながっている。その中で産業用コントローラはキーコンポーネントとして大きな役割を果たしているといえよう。

 

一方、岡庭氏は産業用コントローラで実現されようとする自動化の問題も指摘する。

 

「人が介在しなくなることで、これまで現場から吸い上げられていたニーズが収集しにくくなる事態が起こりえます。そうなると、現場の改善やさらに次の時代の技術革新を滞らせる懸念があります。我々としては、人のいない産業の現場から、いかに課題を見つけていくかを考えながら、開発を進めていく必要があるでしょう」(岡庭氏)

ユニファイドコントローラnv-packシリーズ「typeFR」

ユニファイドコントローラnv-packシリーズ 「typeFR」

これは過去にIoTを予見した先進的なジャンルだからこそ見える未来の課題である。

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