渋谷のイメージが大きく変わる! 学生視点とデザイン思考の化学反応

2018/10/31 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 2018年8月、学生向けに新規事業創出の手法を学ぶイベントを開催!
  • 新規事業創出に欠かせない『デザイン思考』とは?
  • 学生が見出した、意外な渋谷の地域特性とは?
渋谷のイメージが大きく変わる! 学生視点とデザイン思考の化学反応

2030年、渋谷のスクランブル交差点。「ミュージックスクランブル」と呼ばれるようになった、この交差点では、多くの人々が楽しそうに踊っている。道路に埋められたセンサで足の動きを察知、さらにダンスの特色をAIが判断し、それに適した曲を流している。アップテンポな音楽の中、とどろく大きな音。振り向くと、ゴミのポイ捨てをした人がいる。大きな音はそれが原因だ。ポイ捨ての犯人は自身でゴミを拾い、人々は再び踊り出した。

 

2018年8月、朝日新聞社主催・東芝デザインセンター企画協力により、高校生・大学生向けに、新規事業を創造する手法を学ぶことを目的としたサマーワークショップが開催され、学生は2030年に向けた未来の渋谷にふさわしいサービスの考案を通して、その手法を体感した。

 

ここで生まれた学生のアイディアの一つが、この「ミュージックスクランブル」。アイディアとしてはまだまだ小さいが、この裏には、渋谷の街に関する学生ならではの鋭い視点が隠されている。私たち、大人では思いつかないようなフレッシュな発想だ。

ミュージックスクランブルのイメージ漫画

※本イベントは、「JSEC高校生科学技術チャレンジ」協力の一環として開催された。

『音の出る都市』を作りたい

「物が道路に落ちると音が出る仕組みにすれば、ポイ捨ては減少するのではないでしょうか。これは落とし物防止にもなります。私は渋谷を『音の出る都市』にしたいと思うのです

 

このように提案したのは一人の女子学生。

 

デザイン思考のプロセスを通じて、渋谷のゴミのポイ捨ては問題点の一つだと感じました。確かに渋谷は便利だとは思います。しかし私はあまり好きではありません」

学生と朝日新聞社・東芝従業員との議論の様子

学生と朝日新聞社・東芝従業員との議論の様子

デザイン思考とは、デザイナーがデザインを行う過程で用いる思考手法のこと。東芝では独自のデザイン思考の理論を構築しており、今回のイベントでは、学生は東芝版デザイン思考に従って新規事業創出とはどのようなものかを体験した。

東芝版デザイン思考

東芝版デザイン思考

まず渋谷の「いまの姿を探る」べく、SDGsを意識しつつ、ユーザー視点からフィールドワークを行った。SDGsを意識したのは、社会課題を17個の形で簡潔にまとまっているため。これを起点に考えると、渋谷の「いまの姿」を探り当てやすくなる。

渋谷でのフィールドワークの様子

普段意識しないSDGsの課題を探すために、渋谷でフィールドワークを行った

先ほど紹介した女子学生が指摘したゴミ問題もSDGsを起点にフィールドワークを通して見つけた課題の一つ。これは「目標11 住み続けられるまちづくりを」に相当する。

2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)

2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)

SDGsの17の目標を起点に今の渋谷の姿を探るところまでは順調に進んだものの、「あらたな姿を描く」段階で議論が硬直。というのも、一つのサービスとして確立するに足るアイディアを生み出すのは簡単ではないからだ。ここからどう肉付けするか――参加者の口数が減り始めたその時、東芝の魏彤舲(ギ・トウレイ)氏が新たな視点から議論に光を当てた。

学生に問いかける、東芝デザインセンター 魏彤舲氏

学生に問いかける、東芝デザインセンター 魏彤舲氏

「繁華街といえば、渋谷だけでなく、新宿も池袋もあるよね。これらのサービスを渋谷で行う意味って何?

 

他の繁華街にはない渋谷の地域特性を考えること。そこに打開の糸口があった。

渋谷はポップカルチャーの街?ハイカルチャーの街?

渋谷といえば、『若者の街』、『ポップカルチャーの街』というイメージを持つ読者も多いだろう。それもそのはず。渋谷には大学が多くあるため、若者が渋谷を利用することが多く、それに伴い様々なショッピングセンターなども集まっている。また、路上でのパフォーマンスも盛んだ。

 

だが、魏氏の問いかけとフィールドワークによりチームが気づいた“渋谷らしさ”はそうした一般的なイメージとは異なっていた――それは『ダンスの街』、『ハイカルチャーの街』だということ。

 

実際に2017年8月~2018年7月に行われた主なダンス・パフォーミングアーツの公演が行われた回数を地域別にまとめてみよう。すると、渋谷の地域特性は一目瞭然である。

(株)新書館発行の『ダンスマガジン』「DANCE CALENDAR」より集計・作成。収容人数が1,000人以上の劇場を使用した公演が濃い青、1,000人未満は薄い青で示している。図面の関係上、文京区、荒川区を割愛。文京区で公演が行われた回数は22回、荒川区は13回。

(株)新書館発行の『ダンスマガジン』「DANCE CALENDAR」より集計・作成。収容人数が1,000人以上の劇場を使用した公演が濃い青、1,000人未満は薄い青で示している。図面の関係上、文京区、荒川区を割愛。
文京区で公演が行われた回数は22回、荒川区は13回。

公演回数が3桁台の区・市は渋谷区と千代田区のみ。そして、1位の渋谷区の公演数は2位の千代田区の約2.2倍だ。

 

渋谷はBunkamuraオーチャードホールや東急シアターオーブの集客数が多く、バレエやコンテンポラリーダンス、ミュージカルなども上演。世界有数のカンパニーの来日公演も多数開催されている。

 

加えて、渋谷区の初台駅近くに位置する新国立劇場も広い意味での渋谷と捉えれば、渋谷の『ダンス都市』という特性はますます明瞭になってくる。ここでは日本で唯一の舞台芸術のための国立劇場として、バレエなどダンス・パフォーミングアーツの公演を行っているからだ。

 

ポップカルチャーというイメージの大きい渋谷では、実はバレエなどに代表されるハイカルチャー芸術も形成されている。ハイカルチャーとポップカルチャーの併存――それは、渋谷ならではの地域特性といえよう。それを象徴するのが渋谷のダンス文化なのだ。

 

さらに、一人の男子学生が若者ならではの視点から発言した。

 

「今、ダンスは必修科目となっています。現在、ダンスは小説や絵画ほど身近ではないかもしれませんが、国語や美術と同じように学校で学ぶことで、将来、ダンスは人々にとって親しみの持てるものになるはずです。『音の出る都市』と結び付け、路上でダンスをすると音楽が流れる仕組みにできないでしょうか」

「あらたな姿を描く」べく議論を重ねる学生と社会人

「あらたな姿を描く」べく議論を重ねる学生と社会人

学生の問いに東芝デザインセンターの衣斐秀聽(イビ ヒデキ)氏が次のように即答。

 

センサを使うと可能だと思う。この道路で取得した人々の足の動きに関する膨大なデータがあれば、重心の掛け方などを分析することで、靴やスポーツ用品、医療ビジネスなどのイノベーションにつなげることもできるね」(衣斐氏)

 

「渋谷の名物、スクランブル交差点を活用した『ミュージックスクランブル』。このアイディアはどう思う?」(魏氏)

 

こうしてこのイベントは、デザイン思考プロセスの最後のステップを迎えた。「あるべき姿を創る」。学生はスキット(寸劇)で『ミュージックスクランブル』のアイディアを発表した。スキットはデザイン思考を活用する企業が、よりユーザー視点であるべき姿を創れるよう、新規事業を創出する際に良く使用しているものだ。

寸劇形式の発表により『ミュージックスクランブル』の有用性などを検証した

寸劇形式の発表により『ミュージックスクランブル』の有用性などを検証した

もちろん、これは今後のブラッシュアップが必要な小さなアイディア。しかし、ここには学生ならではのフレッシュな視点が詰め込まれている。2030年、世の中がワクワクであふれる楽しい社会を実現するために――未来の社会人の豊かな発想力が大きな創造へとつながろうとしている。

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