異常気象への新たな打ち手!「防災DX」が目指すこと

2024/09/26 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 30分先のゲリラ豪雨を高精度に予測する東芝の気象データ解析
  • このデータ解析を可能にしたのは、東芝の長年のレーダシステム開発の知見
  • 他社との連携ですすめる、水害対策に向けた「防災DX」
異常気象への新たな打ち手!「防災DX」が目指すこと

近年、異常気象とともに急激に増えているゲリラ豪雨。突然の大雨で急いで洗濯物を取り込む回数が増えているのではないだろうか。交通機関や停電などの影響があるだけではなく、時に人命に関わる重大な事故につながるリスクをはらんでいる。これらの被害は、予測が難しいだけに事前の対策が取りにくく、突発的に大きな影響を与えることが多いとされる。ただこの現象が常態化している以上、個人が被害を未然に防ぐ方法が必要になっている。

私たちはこの被害から、どのように身を守ればいいのだろうか。東芝は、ゲリラ豪雨などの兆候をより迅速かつ高精度に捉えることを可能にし、それをデータとして抽出することで社会の防災・減災において重要な一歩を踏み出した。今回は、降雨による防災から私たちの生活を守る東芝の気象データサービスや、私たちの暮らしを守る防災システムをご紹介する。 

30分先のゲリラ豪雨を高精度に予測!

都市部での浸水被害や河川の急激な増水、土砂災害や交通事故・停電など被害をもたらすシーンは非常に幅広い。近年看過できない大きな被害も相次いでいる。気象災害の発生回数と経済損失額はこの40年間でいずれも5倍に増えたというデータもある※1

※1:出典「WMO ATLAS OF MORTALITY AND ECONOMIC LOSSES FROM WEATHER, CLIMATE AND WATER EXTREMES (1970-2019) (WMO-No. 1267)」

特にゲリラ豪雨は突発的に発生するため正確な予測が難しい。洪水や内水氾濫、道路の冠水、建物への浸水など、想定される水害への対応準備にあたる自治体職員にとっては、極めて短時間のうちに被害を想定し、対策の判断や関係者への指示、住民の避難行動を促す情報伝達を行わなければならず、大きな負担となっている。

急に豪雨が発生すると、あっという間にアンダーパスが冠水し自動車が抜け出せなくなる。(画像はイメージ)
急に豪雨が発生すると、あっという間にアンダーパスが冠水し自動車が抜け出せなくなる。(画像はイメージ)

そこで東芝は、気象レーダにより観測された生のデータを東芝の技術で解析して、30分先までのゲリラ豪雨や降雹を高精度に予測するサービスを開発した。防災や減災はもちろん、公共交通機関や農業、イベントなど、あらゆるシーンで天気の急変による人々の危険を軽減したいと考える、東芝の新しい試みだ。

東芝のレーダ解析では、20分前の降雨予測が可能

なぜ東芝は高精度な予測を可能にしたのだろうか。そのカギはこれまで培ってきたレーダシステムにあった。

気象予測データサービスが生まれた背景にある、気象レーダシステムでの実績

東芝はこれまで、パラボラ型気象レーダを、雨量や突風、発雷などを正確に解析するシステムと合わせて販売し、河川やダム、鉄道、電力系統など社会インフラの管理を行う行政や事業者を支えてきた。気象データサービスは、より幅広い層のユーザーニーズに合わせ、東芝が開発を手掛けてきた気象レーダシステムから解析システムのみを抽出してサービス化したものだ。

全国には、国土交通省が設置している65台の気象レーダ(パラボラアンテナ)がある(2024年6月時点)。東芝は、それらの気象レーダで観測した生のデータをクラウド上に取り込み、成形・加工し、雨や雹が降ることを予測する気象データサービスを実現した。クラウド上でデータを成形・加工する技術には、東芝独自のノウハウが生かされており、高精度に雨が降ることを予測したり、粒子を解析することで地上に雨や雪、あられ、雹のどれが降るのかを判別したり、風の渦を検出して突風を探知することができる。

粒子を解析することで地上に雨や雪、あられ、雹のどれが降るのかを判別できる

データの抽出元は、東芝がかねてより開発してきた雨量を高精度で計測できるマルチパラメータ(MP:二重偏波)気象レーダだ。東芝の気象レーダ開発の強みは、その歴史と革新的な技術力が物語る。1950年代から雨の有無を判断する反射型レーダの開発が始まり、雨量を観測するレーダ、風速を推定できるドップラーレーダを開発し、我が国の気象レーダ技術の発展に寄与してきた。こうして2000年代になって、降水粒子を識別できる二重偏波機能を搭載したMP気象レーダの実用化に至った。加えて固体化送信技術を用いることによって、さらなる高精度化や長寿命、低運用コスト、小型化に成功した。今では我が国の大半の気象レーダが固体化タイプとなっている。

そして近年、世界初※2マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP-PAWR)を開発。内閣府のSIP※3「レジリエントな防災・減災機能の強化」の施策として、30秒から1分で雨雲の高速三次元観測が可能なフェーズドアレイ気象レーダ(PAWR)と雨量を高精度で計測できるMP気象レーダが持つ特長を組み合わせたものだ。これにより、『迅速な雨雲把握』※4と『正確な雨量観測』という2つの目的を1つのレーダで実現させることができるようになった。2024年度現在、研究用機材として関東と関西の計3か所に整備され、観測データを用いたデータ解析の開発を実施しており、今後は運用機材としての配備が期待されている。

※2:世界初 
水平偏波と垂直偏波を同時に送受信する二重偏波機能を有し、10方向以上を同時に観測可能なDBF(デジタル・ビーム・フォーミング)のリアルタイム処理機能を搭載した気象観測専用のフェーズドアレイレーダとして

※3:SIP 
戦略的イノベーション創造プログラム。科学技術分野におけるイノベーションを実現するために、内閣府/総合科学技術・イノベーション会議が2014年に創設した施策。

※4:迅速な雨雲把握 
雨雲の観測時間が、これまでの5分の1になった。

マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダの外観イメージ。現在、埼玉大学と国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)電磁波研究所の未来ICT研究所、大阪大学に納められ稼働している。
マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダの外観イメージ。現在、埼玉大学と国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の未来ICT研究所、大阪大学に設置され稼働している。

防災・減災のために東芝ができること

突然のゲリラ豪雨に対して、東芝はどんなことができるのだろうか。

2022年、東芝は他社とともにリアルタイムな降雨・浸水予測データを活用し、自治体職員の災害対応業務の有効性に関する実証実験を行った。東芝は気象レーダシステムを用いて局地的豪雨の兆候と雨量を発生30分前に高精度に予測。さらに他社による浸水シミュレーション技術に基づくリアルタイム浸水予測情報や動的ハザードマップの提供により、全国の水害対策において「防災のDX」を目指している。

①気象レーダシステムによる降雨を予測し、②リアルタイム浸水予測をシミュレーションしたのちに、③動的ハザードマップを配信するなど他社とともに実証実験を実施

さらに東芝は住民の安全を守るため、ダム管理、河川監視、放流警報システムにも携わっている。ゲリラ豪雨で雨量が激増した場合も、水位状況をリアルタイムに把握してデータ処理した情報を管理者・住民へ提供し、ダムから放流する際は住民にサイレンやスピーカなどで警報。さらに土砂崩れ、地すべり等の土砂災害から人命・財産を守るために、観測した雨量データから土砂災害の予兆を捉え、自治体職員や地域住民へ情報提供を行っている。

ダム管理、テレメータ、放流警報など様々なシステムを通じて防災に貢献

突発的な雨による被害が増える一方で、その対策の質の向上はますます重要になってくる。これまで培ってきたハードの技術をベースに、そこから収集できるデータを最大限に活用し、生活者や利用者にとって必要なタイミングで使える情報として提供できるようになったことの価値は大きい。気象データの取得と活用がより一般化すれば、インフラ管理業者だけでなく農園や車両などの資産を保持する人々を含めた市民が未来を予測した行動をすることが容易になり、より効果的に、私たちの日常における安心・安全を確保することができるだろう。

参考記事

「高度な気象レーダ解析技術が生み出す「空の見える化」で防災・減災に貢献」 
https://www.global.toshiba/jp/company/digitalsolution/articles/tsoul/solution/s016.html

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

東芝の気象データサービスとは

フェーズドアレイ気象レーダ

ダム管理システム/テレメータシステム/放流警報システム

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