時空を超えた英傑が「人事の参謀」に!マルチAIエージェントを活用した人的資本経営の新境地

2026/03/17 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 歴史上の英傑や有識者の思考を再現した「AIエージェント」を、人財戦略立案のパートナーとして活用できるサービスを開始した
  • AIエージェント同士の多角的な議論プロセスを可視化することで、人事担当者に新たな気づきを与える
  • AIエージェントと議論することで、経営戦略を深く読み解き、リソース不足の現場でも具体的な人財戦略を確実に導き出す
時空を超えた英傑が「人事の参謀」に!マルチAIエージェントを活用した人的資本経営の新境地

企業経営の核心が「人」へと回帰している。人財を「資源」ではなく、投資によって価値が高まる「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上を目指す「人的資本経営」。その重要性は、もはや議論の余地がないほどに高まっている。しかし、いざ実践フェーズに目を向けると、理想と現実のギャップに苦しむ企業は少なくない。

最大の課題は、経営戦略と人財戦略をいかに高い解像度で連動させるかという点だ。多くの人事担当者が、経営層の掲げるビジョンを、具体的な採用・育成・配置の施策へと落とし込む「翻訳」のプロセスに頭を抱えている。特に人手不足が深刻な現場では、戦略立案に割けるリソースも専門知識も限られており、人事担当者が孤軍奮闘しているケースも珍しくない。

こうした課題に対し、東芝デジタルソリューションズはテクノロジーの力でユニークかつ強力な解決策を提示した。歴史上の英傑や有識者の思考プロセスを再現した「AIエージェント」を、人財戦略立案のパートナーとして活用する斬新なサービスだ。最大の特徴は、AIが単に答えを出すのではなく、複数のAIエージェント同士が「議論」をすることで、人事担当者のリソースやスキルが限られていても、経営戦略と連動した人財戦略策定を可能にする点にある。

なぜ東芝デジタルソリューションズは「議論」という形にこだわったのか。経営層の意図をくみ取り、現場の施策へとつなぐために、どのようなサービスを開始したのか。このプロジェクトのキーパーソン2人に、その舞台裏を聞いた。

歴史上の英傑たちが現代の戦略アドバイザーだったら…

「多くの企業が人的資本経営に取り組んでいますが、その多くがKPIの開示やデータの収集にとどまっています。本来、最も重要なのは『経営戦略を達成するために、どのような人財が、いつ、何人必要なのか』という具体的な戦略の策定です」
そう語るのは、東芝デジタルソリューションズでHRM(人財管理)ソリューションを担当する黒田海都氏だ。黒田氏は新卒2年目という若さながら、今回のプロジェクトのリーダーに抜擢された

東芝デジタルソリューションズ株式会社 デジタルエンジニアリングセンター HRMソリューション部 ソリューションパッケージ担当 黒田海都氏
東芝デジタルソリューションズ株式会社 デジタルエンジニアリングセンター HRMソリューション部 ソリューションパッケージ担当 黒田海都氏

同社は、人財管理ソリューション「Generalist®」を提供し、長年人事の現場をデジタル側面から支えてきた。2025年8月、このGeneralist®のオプションとして「AIエージェントを活用した人財戦略支援サービス」の提供を開始した背景には、現場が抱える深刻なリソース不足への危惧があったという。

「高度な人財戦略を立てるには、経営層と対等に議論し、抽象的なビジョンを具体的な施策に落とし込む高度な知見が必要です。しかし、人事担当者が少人数の場合、日々の業務に追われる中で、そこまで手が回らないのが現実です。ならば、その『思考のパートナー』をAIで提供できないか。担当者が少なくても、経営戦略と連動した一貫性のある戦略を練り上げられるようにしたい。それが出発点でした」と黒田氏は振り返る。

本サービスの最大の特徴は、単一のAIと対話するだけでなく、複数のAIエージェント同士も「議論」する点にある。さらにユニークなのは、そのエージェントとして歴史上の英傑を選択できる点だ。 画面上では、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康といった英傑に加え、人事コンサルの知見を持つエージェントたちが、ユーザーが入力した経営戦略に対してそれぞれの視点から意見を出し合う。

歴史上の英傑や人事・組織の専門家など、約15人のAIエージェントから議論したいAIエージェントを最大5人まで選ぶことができる
歴史上の英傑や人事・組織の専門家など、約15人のAIエージェントから議論したいAIエージェントを最大5人まで選ぶことができる
ユーザーが入力した経営戦略に基づき、複数のAIエージェントと人財戦略を議論することができる
ユーザーが入力した経営戦略に基づき、複数のAIエージェントと人財戦略を議論することができる

AIエージェント同士の「議論」から生まれる、前例を超えた一手

前述の通り、本サービスでは複数のAIエージェントとの議論を通じて人財戦略を策定していく。特筆すべきは、人間がAIに相談するだけでなく、AIエージェント同士も議論を行える点だ。

東芝の総合研究所でAI技術の研究開発に携わる小林優佳氏は、通常のAI回答との違いを次のように解説する。
「通常のAIは、問いに対して回答を出して終わりです。しかし、本サービスはAIエージェント同士の議論から始まります。ユーザーはその議論の過程をモニタリングし、思考のプロセスそのものに参加できるのです」

株式会社東芝 総合研究所 AIデジタルR&Dセンター コラボレイティブAI研究部 小林優佳氏
株式会社東芝 総合研究所 AIデジタルR&Dセンター コラボレイティブAI研究部 小林優佳氏

こうした仕組みは「マルチエージェントシステム(MAS)」と呼ばれる。個性の異なるエージェント同士が対話することで、単一のAIでは到達できない多角的な解を導き出す試みだ。

「かつて囲碁AI同士を対戦させた際、人間では思いつかないような奇手が次々と生まれました。人間はどうしても前例や常識に束縛されがちですが、AIにとってはそれらもデータの一部に過ぎません。AI同士の議論に人間が介在することで、誰も思いつかなかったような『人財の妙手』が生み出されることを期待しています」(小林氏)

信長が「革新的なインフラ構築」を説けば、秀吉が「人心掌握と調和」の観点から反論する。このダイナミックなプロセスが、ユーザーの視点を広げ、議論を洗練させていく。

歴史上の英傑をアドバイザーに据えるという着想は、単なる演出ではない。その裏側には、東芝が独自に構築した「ペルソナDB(データベース)」の存在がある。ここには、各人物の思想、行動哲学、意思決定の癖が定義されているのだ。

「信長であれば徹底した合理主義や革新性を重視し、家康であれば忍耐や持続性を重んじる。こうした個性をプロンプトエンジニアリング(AIへの指示出し技術)によってAIの思考回路に組み込むことで、一貫性のある、血の通った議論を可能にしました」と小林氏は語る。

異なるペルソナを持ったAIエージェント同士が議論することで、議論を洗練させていく
異なるペルソナを持ったAIエージェント同士が議論することで、議論を洗練させていく

さらに、AIエージェントの可能性は歴史上の人物にとどまらない。ユーザーが独自のエージェントを作成することも可能だという。例えば、自社の象徴的な経営者や、卓越した成果を残した先人の思考を学習させ、「社内専用アドバイザー」としてよみがえらせることも想定されている。これは、定年退職などで失われがちなスペシャリストの知見や「企業のDNA」を社内に蓄積し、次世代へ継承していくための強力な手段となるはずだ。

経営と現場を「読み解き、つなげる」触媒としてのAI

実際の利用シーンでは、人事担当者が経営計画書や経営者メッセージなどの文章を入力することから始まる。ここで重要になるのが、文章の表面的な言葉だけでなく、その背景にある「経営の意図」をAIがくみ取るプロセスだ。

「例えば、『地域密着型のインフラ企業を目指す』という経営戦略が入力されたとします。するとAIエージェントたちは、『ならば地域コミュニティーに詳しい人財を毎年〇名採用すべきだ』『自治体との協働プロジェクトを評価指標に加えるべきだ』といった、具体的な現場レベルの施策を提案し始めます」と黒田氏は説明する。

これまで乖離しがちだった「経営層のビジョン」と「現場の人財戦略」が、AIという触媒を通じて、1本のストーリーとしてつながっていく。専門のリサーチ部門や膨大なリソースを持たない企業であっても、このAIという「参謀」がいれば、経営と直結した戦略を自信を持って打ち出せるようになる。これこそが、東芝デジタルソリューションズがテクノロジーで実現しようとしている人的資本経営の姿である。

黒田氏

現在、本サービスは「Generalist®」のオプションとして提供されているが、彼らはさらにその先を見据えている。

「今後は、Web検索を通じて最新の労働市場動向を議論に反映させる機能や、シミュレーションによる精度の高い予測機能の実装も検討しています。AIは決して人間の仕事を奪うものではありません。人間の創造性を拡張し、より本質的な価値判断に集中するための『パートナー』なのです」と小林氏は展望を語る。

小林氏

最後に黒田氏は、日々悩みながら進む人事担当者へのメッセージを、こう締めくくった。

「人的資本経営に、唯一無二の正解はありません。だからこそ、迷ったときに『ちょっと信長に聞いてみようか』と、フランクに頼れる軍師のような存在をすべての会社に届けたい。東芝グループのAI技術が、日本企業の可能性を『人』の側面から解き放つ一助になればと願っています」

前述の通り、プロジェクトの舵を取った黒田氏は新卒2年目。一方でAI技術者として支えた小林氏は20年以上のキャリアを持つベテランだ。10年前であれば異例とも言えるこのチーム編成も、人的資本を最大化し、適材適所の陣を敷くという戦略に立てば、これ以上ない「正解」の一つなのだろう。そんな彼らの挑戦を、あの信長なら「当然である」と不敵に笑って認めるのかもしれない。

小林氏と黒田氏
マルチAIエージェント最前線

関連サイト

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人財管理ソリューション「Generalist」 | Generalist | 東芝デジタルソリューションズ

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