新しい未来を始動させるAI技術者たち(1) ~価値につながるAIは、使う人の声から生まれる(後編)~

2020/11/18 Toshiba Corporation

この記事の要点は...

  • データ量限定というAI技術開発の壁を、「製品またぎ処理」で乗り越える
  • インフラサービスによる社会貢献を加速する、AI人材チームとその成長
  • 現場の肌感覚、変革への情熱がAI技術を伸ばし、次の価値創造につながる
新しい未来を始動させるAI技術者たち(1) ~価値につながるAIは、使う人の声から生まれる(後編)~

人工知能(Artificial Intelligence:AI)に関して、東芝は50年以上の研究と、特許出願件数で世界3位、日本1位という実績※1を誇る。その実績を支える技術者たちは、宇宙物理学、数学など多様な専攻を背景に、入社後にAI技術・知識を身に付け、社会に貢献する価値を生んでいる。このシリーズでは、そんなAI技術者たちのキャリア、研究、考え方などを紹介する。

 

新しい未来を始動させるAI技術者たち(1) ~価値につながるAIは、使う人の声から生まれる(前編)~」では、東芝の研究開発センターで、アナリティクスAIラボラトリーの上席研究員を務める中田氏が、地球物理惑星科学からAIへとフィールドを移し、どのように活躍しているかを紹介した。後編では、少量多品種ゆえに多岐にわたり、データ量が少ない半導体の不良箇所に対して、それらを発見するAIを生み出した発想、取り組みについて紹介する。

※1 世界知的所有権機関(WIPO)発行「WIPOテクノロジートレンド2019」

匠の技を支え、加速するAIを生み出せ

多様な不良箇所を高精度かつ早期に発見するためにも、大量のデータが不可欠となる。しかし、1品ずつの生産量が少ない半導体でまれに発生する不良箇所データは少量になるため、AIによる学習・発見の精度を上げきれない。生産性改善のときと比べて、AI分析に使用できるデータは実に1/100程度しか得られない。

 

「匠と呼ばれるレベルの技術者のリソースが限られる中で、半導体の不良をAIで早期に発見できればさらなる生産性の向上が期待できることに意義を感じました。また、この課題に取り組むとき、経験の無いことに直面した匠の技術者はどう対応するだろうかを考えました」

株式会社東芝 研究開発センター アナリティクスAIラボラトリー 上席研究員 中田康太氏(1)

株式会社東芝 研究開発センター アナリティクスAIラボラトリー 上席研究員 中田康太氏

そして、半導体ウェハ上の製品チップ数が異なる品質データの特徴量を、共通のデータとして扱う「製品またぎ処理」にたどりつく。これにより、複数種類のデータを統合的な一つのデータとして扱い、データ量を補うことに中田氏のチームは成功する。公開データを用いた実験では、44製品の品質データを製品またぎ処理により共通に扱うことで、大規模な統合品質データとしての分類を可能とした。

少量多品種の品質データに対して、複数種の製品をまたいだ自動分類処理を行うことで、データ量が増加し、分類精度が向上

少量多品種の品質データに対して、複数種の製品をまたいだ自動分類処理を行うことで、データ量が増加し、分類精度が向上

関連サイト:少量多品種の半導体製造で発生する不良を早期に発見するAI技術を開発

https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/20/2006-05.html

 

「たとえば、陶芸品はそれぞれ1品ものですが、花瓶などのグループでくくることができます。それと同じ考え方を、今回のAI技術開発に活かしました。これには、工場で出会った多くのベテラン技術者の方々の話が参考になりました。この新しいAIも彼らを支援し、次の世代へ彼らの新しい技術を伝えるときの道具にもなってくれると考えています」

 

異なる強みが組み合わさり、成長するAI人材チーム

半導体などのデバイス製造社会インフラの構築、保守などのインフラサービス、そこで生まれるデータの分析により価値を生むデータサービス。これら4つの機能の相乗効果により、インフラサービスカンパニーとしての社会貢献を東芝は目指している。そのとき、長年にわたって知見を蓄積してきたAI技術の活用は必須であり、次のような4タイプの技術者が必要だと考えている。これは、社内の異なる強みを有機的に結合することを意図している。

 

(1)AIコンサルタント:顧客の課題を整理して、AI活用の提案を行う。

(2)AIアナリスト:顧客課題をAIで解決する方法を考える。

(3)AIエンジニア:データ収集・加工、分析環境の準備、プログラミングなどを行う。

(4)AIリサーチャー:新しいアルゴリズムなどの要素技術、新技術の研究と開発を行う。

 

「私のチームにも、多様な背景、強みを持つ仲間がいます。それぞれのメンバーが得意な領域で最新技術を常に収集しており、現場の課題についてチームで議論する中で知識が建設的に組み合わさり、ベストな技術適用が定まります。価値をともに生み出すことで、現場の技術課題の把握から具体的提案まで約3ヶ月単位で持っていけるのは、私たちの長所だと思います」

 

課題の把握について、中田氏は、入社後すぐに手がけたアンケートのデータ分析の、結果説明の場での出来事を例に語った。

 

「AIの分類成果として、『80%の分類を可能としました』と発表したところ、『20%も見逃しているのでは…』と言われてしまいました」

 

80%の成功というのが、数字として好意的にとらえられる分野もある。しかし、20%を見逃していてはまったく通用しない場合もあるのだ。そこで、AIを開発する側は、成功率80%の背景や意味を説明し、課題解決の方向性を現場と議論する必要があるという。

 

「20%の見逃しの理由を正しく理解していただくことで、必要としている現場の人が、20%を大きいと感じる意味がわかります。それにより80%の成功を根本から見直して、納得のいく、使える成功率へとAIを高めることができるのです」

 

現場の肌感覚、変革への情熱がAI技術を伸ばす

AIの開発自体も重要ではあるが、まずは信頼関係を構築したうえで現場の肌感覚を理解するというプロセスこそが、技術者に求められているのだと、中田氏は強調する。そして、AI技術を継承する若手たちに、「変革への情熱を抱く」という東芝の価値観をしっかり持ってほしいと願っている。

 

「他人には意味の無いように見える数字の羅列から、役立つ情報を掘り起こすのと同様に、無理かも知れないと思われるようなことでも、必ず道はあるということを若い技術者には知ってほしいですね」

 

中田氏は、匠の技をAIで実現することも、情熱が無ければできないことだったかも知れないと続けた。

 

「若手のチームメンバーには、どの研究でも社会実装を意識し、自分の得意分野を広げてほしいと思います。そのために私がやらなければならないのは、AI技術を追い求める若手の興味や得意分野を伸ばせるように、指導していくことだと思っています。幸い、東芝には材料情報学や電力流通など、様々なAI技術者がおり、同僚との交流を通じていわばAI留学のようなことができます。物理学など専攻していた学問は関係ありません。様々な知識を身に付け、強みを養い、そういう多様な人材が集うチームが、意味のある価値を生むのです」

株式会社東芝 研究開発センター アナリティクスAIラボラトリー 上席研究員 中田康太氏(2)

さらに中田氏は、後進の育成だけでなく、自分自身も技術者としてまだまだ伸びていきたいという。

 

「東芝は、様々な分野の技術を手掛けています。これからそれらの多くにAIが浸透していくでしょう。そうした様々な分野の東芝技術者との交流を、自分自身の技術者としての成長にもつなげていきます。そして、AIの開発・活用を通じた効率性の改善や、人が人にしかできない創造性を発揮することによって、『人と、地球の、明日のために。』意味のある価値を生み出していくことに貢献していきます」

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