オープンイノベーション最前線(前編) 健全な呉越同舟とは?

2021/05/28 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • IoT時代に向けた高機能データベースGridDBの機能とは?
  • 新進気鋭のスタートアップが、東芝との共創を望んだ理由
  • 東芝がスタートアップとのコラボレーションに求めたものとは?
オープンイノベーション最前線(前編) 健全な呉越同舟とは?

優れた技術や知見を持つスタートアップと、東芝が持つアセットを組み合わせ、新しい事業の創出を目指す「Toshiba OPEN INNOVATION PROGRAM」(以下、TOIP)。その1回目となった2020年は、18社のアイデアが採択され、現在もそれぞれ事業化、商用化に向けて取り組んでいる。

東芝は、エネルギーや社会インフラ、デジタルソリューションなど様々な領域で社会を支える技術を磨き、社会に貢献してきた。社会課題が複雑化・深刻化するなか、社会へ持続的に価値を提供するためには、異なる視点・文脈から東芝の技術を生かすことも重要だ。果たして、社外の新たな力との共創が、社会にどんな価値を生み出すことになるのだろうか?

東芝の、ビッグデータ・IoT向けデータベース「GridDB」とは?

まず、今回の取り組みの意義について、プログラム事務局の相澤氏(株式会社東芝 CPS×デザイン部)は次のように語る。

「TOIPは、東芝とスタートアップが共に成長できる枠組みの中で、コラボレーションしようという取り組みです。こうしたプログラムは従来、スタートアップが持つアイデアを、大企業が取り入れて具体化するフローが中心だったと思います。TOIPの場合は逆に、東芝のアセットをうまく活用して、市場を切り拓けるスタートアップを募るのが特徴です。昨年、1回目を終えて、すでに複数の組み合わせがソリューション化に向けて動いており、非常に幅広い可能性を秘めた取り組みであると実感しています」

株式会社東芝 CPS×デザイン部 CPS戦略室 参事 相澤 宏行氏

株式会社東芝 CPS×デザイン部 CPS戦略室 参事 相澤 宏行氏

つまり、東芝としてはアセットの有効活用につながり、一方、ポテンシャルを秘めたスタートアップにとっては、東芝のスケールメリットを生かした事業展開に通じるのが、TOIPの特徴である。2回目のTOIP開催を迎え、相澤氏の口調からは十分な手応えがうかがえる。

そんなTOIPによって生まれたマッチングの中から、今回注目したのは東芝デジタルソリューションズ株式会社が保有するビッグデータ・IoT※1向けデータベース「GridDB」と株式会社DATAFLUCTの組み合わせだ。

※1 Internet of Things: 様々なモノがインターネットに接続され、データ交換することで相互制御する仕組み

TOIPによってマッチングされ、「ビッグデータのリアルタイム分析で、新たな価値創出」に挑戦している両社。DATAFLUCTは、「データサイエンスの力で社会課題を解決する」を理念に掲げる2019年創業のスタートアップで、東芝との共創でより大きな社会貢献につながるソリューションを開発している。

「GridDBを一言で表現すると、IoT向けに作られたデータベースソフトウェアです。IoTには、環境ごとに特有のデータの振る舞いがあります。たとえば、工場にある各所のセンサーから大量のデータが一気に上がってきた場合、それをリアルタイムに分析し、生産ラインにフィードバックするには、従来型のRDB(Relational Data Base)では対応が困難です。これからAIの導入が進めば、データは蓄えるほど価値が上がります。そうした時代に対応できるデータベースソフトウェアの開発が急務でした。そうして生まれ、活用されているのがGridDBです」

そう語るのは、東芝デジタルソリューションズの望月氏だ。IoTが生み出す膨大な時系列データを高速処理できるGridDBは、その処理能力もさることながら、サーバ台数を増やすほど高性能化する拡張性から、産業の活性化や社会課題の解決に大きく貢献することが期待されている。望月氏の新規事業開発チームがTOIPに求めたのは、このGridDBの高機能を有効に活用し、ソリューション開発に繋げられるパートナーというわけだ。

東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部 新規事業開発部 シニアエキスパート 望月 進一郎氏

東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部
新規事業開発部 シニアエキスパート 望月 進一郎氏

GridDBの特徴

GridDBの特徴

ビッグデータの活用で、社会課題の解決を加速する

GridDBとのマッチングを実現したDATAFLUCTは、データを活用した事業開発を通じて社会課題の解決に挑むスタートアップだ。代表取締役の久米村氏はTOIPへの応募を決めた経緯を、次のように振り返る。

「DATAFLUCTは、店舗のPOS※2データや気象・人流データを活用したフードロス削減への取り組みや、衛星データを使った環境モニタリングサービスなど、様々な事業を展開しています。とりわけ力を入れたいAutoML※3ツール・DATAFLUCT cloud terminal.をどう展開すべきか社内で検討していたところ、GridDBとの連携が叶えば領域が大きく広がり、社会課題の解決が加速するだろうとの結論に至りました」

株式会社DATAFLUCT 代表取締役 久米村 隼人氏

株式会社DATAFLUCT 代表取締役 久米村 隼人氏
※2 Point of Sales、販売時点情報管理。商品の販売・支払に際し、関連情報を収集・記録し、売上や在庫管理に生かす
※3 人工知能の機械学習モデル構築を自動化するツール

さらに、社会インフラに強い東芝との連携には同社にとって大きな意味がある。

「UX※4の設計に長け、ユーザー接点に強い私たちが、高い技術力を持つ東芝と組むことは、これから多くの社会課題の解決にチャレンジしていく上で、理想的な組み合わせだと確信しました。その意味でTOIPを通じて両社の連携体制が進めば、今回のGridDBに限らず、幅広い領域で互いの強みが生かせるのではないかと考えたんです」(久米村氏)

※4 ユーザー・エクスペリエンス。製品、システム、サービスなどの利用を通じて、利用者が得る経験

久米村氏はこれを「下心」と表現して笑うが、これがTOIPへの応募を後押しした大きな理由であったのは間違いない。自社が持つAutoMLのソリューションに、社会インフラを支える東芝の技術が組み合わされば、社会を根底からアップデートできる可能性がある、というわけだ。

リアルタイム処理に強く、性能や容量の拡張性に長けたGridDBは、今後の事業拡大、社会貢献の鍵を握ると直感したというDATAFLUCTの面々。TOIPとの出会いは渡りに船だったわけだが、GridDBへの期待は事業面だけにとどまらない。DATAFLUCT CTO(Chief Technology Officer)の原田氏は次のように語る。

「いざGridDBを触ってみると、データの収集、加工、編集などパフォーマンスが高すぎてちょっとやそっとではその機能を使い切れるものではないことがわかりました。だから、そのスケーラビリティは我々にとって非常に魅力的に感じられたのです」

株式会社DATAFLUCT CTO 原田 一樹氏

株式会社DATAFLUCT CTO 原田 一樹氏

東芝がスタートアップに求めたものとは?

興味深いのは、GridDBの新規事業開発チームが、DATAFLUCTと協業する目的を、むしろ久米村氏の思いとは真逆の部分に見出していた点である。

「GridDBは、今日までに電力やスマートシティなど、様々な社会インフラ関連事業で活用されています。こうした社会インフラ案件は一つひとつが大規模であるため、数を増やすことが容易ではありません。GridDB活用の機会をもっと増やしていきたい我々からすると、社会の様々なシーンにAIを通じたデータ活用を届けたいと考えるDATAFLUCTは、まさしく求めていた相手なんです」(望月氏)

社会インフラ以外でもGridDB活用の機会を探る東芝と、社会インフラを始めとする大規模事業に関心を寄せるDATAFLUCT。これらは異なる立場のようでいて、互いにメリットを享受し合えるWin-Winの関係と言っていい。実際、両社は共創の初手としてスモールスタートで幅広いGridDBの活用を進め、その後に社会インフラで連携を深める構想を抱いているという。

そんな両社のマッチングについて、TOIP事務局の視点から相澤氏はこう語る。

「技術力の高さ、そしてスタートアップならではのスピード感に定評のあるDATAFLUCTの存在は、GridDBの可能性を広げるのにうってつけでした。両社の現実を見据えた意気込みは強く、東芝のトップを前にした発表会の場で、“3年で60億円の事業を目指す”という具体的な数字で目標を掲げました。これは市場に評価される価値を生む、ひとつの決意表明として運営側の胸に強く響きました」(相澤氏)

3年で60億円。あくまで目標値ではあるが、根拠を伴う数値、具体的なビジョンと自信を伴った決意だ。この背景として、東芝とDATAFLUCTがお互いに大きな刺激を与えていたことは想像に難くない。伝統ある大企業とスタートアップが共創する意味は、早くもこの時点で具体化していたのかもしれない。続く中編では、この共創を通じた東芝の自己変革を追う。

※本取材・撮影は、感染対策を実施の上で、緊急事態宣言の期間外に実施しました。

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