在宅勤務でも現場にいる!?働き方改革から生まれた「在宅×現場コミュニケーションロボット」とは ~理念ストーリー We are Toshiba~
2021/12/08 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- コロナ禍で感じていた、コミュニケーションの課題とは?
- 様々なユーザーからの要望に応え、進化を続ける「在宅×現場コミュニケーションロボット」
- ロボットの未来を思い描く、開発メンバーの「変革への情熱」
昨年10月から12月にかけて東芝で催された「働き方改革Award2020」。こちらの施策については『従業員が提案!東芝の「働き方改革Award」とは?』で紹介した通りだ。今回は、本アワードを受賞した「在宅×現場コミュニケーションロボット」について取り上げる。これは、コロナ禍におけるコミュニケーションの課題を解決するため、東芝エネルギーシステムズ株式会社の技術者が、原子力発電所などで使用する遠隔操作ロボットの技術を応用して開発した在宅勤務アシスタントロボットだ。アワードの評価軸は『柔軟な働き方』、『業務改革』、『働きがい向上』、『テクノロジー』という4つの指標が定められているが、このコミュニケーションロボットは、『テクノロジー』によりリモートワークの弱点を克服するという発想、そしてそれを実現した技術力が、働き方改革に相応しいと評価され、 アワード受賞に至った。
東芝ブランドを現場で育む仲間たちの想いや大切にしている価値観を紹介する理念ストーリー。蓄積してきた技術を駆使して開発したロボットは、現場にどんな変化をもたらすのか。ロボットの可能性と、「変革への情熱を抱く」メンバーによる開発秘話に迫った。
ロボットで、コミュニケーションの課題を解決?
コロナ禍によって、近年多様な働き方が認められるようになった。しかし、選択肢が増えたことによりひずみが生まれている職場もある。それが出社しての作業が必要な現場だ。急激に在宅勤務が増えたことで、現場では様々な課題が生じていた。東芝エネルギーシステムズの川端俊一氏は次のように語る。
「我々にとってその最たるものがコミュニケーションでした。オンラインツールの活用は浸透しているものの、たとえば製作現場の様子や開発中の製品を細部まで確認するには、会議室やデスクに設置されたパソコン端末を介するのでは不十分です。そこで、自宅にいながらオフィスや現場を自由に動きまわれるアバターのようなロボットがあればと考え、生まれたのがこの『在宅×現場コミュニケーションロボット』でした」(川端氏)
東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーシステム技術開発センター 機械技術開発部 機構技術グループ スペシャリスト 川端 俊一氏
オンラインビデオ会議では、発話者以外の参加者はミュートにしがちで一体感を感じにくい。だが、ロボットを使用することによって、現場にいる人と一体となって議論する感覚が得られる。また、現場で仕事をしている人の隣に行って様子を見ながら直接話をすることも可能だ。現場を第一に考えてきたからこそ見えてきた課題で、コロナ禍において現場にいる人といない人の差をできるだけなくしていくことが理想だという。
実はそんな彼らの本業は、原子力などエネルギー分野のロボットの研究開発だ。もともと発電所などの産業用設備の巡視・点検向けに開発を進めていたため、ロボット開発は得意だったというわけだ。
「たとえば福島第一原発などの放射線量が高いエリアのように、人による長時間の作業が難しい場所においては、遠隔操作できるロボットが必要で、そのための技術的な素地は持っていました。そのため今回のロボットはその技術を活用することで、1週間ほどでプロトタイプが完成しています」(川端氏)
つまりこの「在宅×現場コミュニケーションロボット」は、コロナ禍における課題認識と技術的バックグラウンドが生み出したもの。当時の開発メンバーで、現在、東芝 CPSxデザイン部に出向している清水智得氏が次のように補足する。
「土台の部分は無線LAN通信で操作できる移動台車となっており、こちらは以前開発した巡視・点検ロボットのものを応用しています。また、軸の上部に搭載しているパンチルトズームカメラ※1も、実験に使っていたもので、『在宅×現場コミュニケーションロボット』は基本的にすべて手元にあったこれまでの資産で構成されているんです」(清水氏)
※1パンチルトズームカメラ:遠隔操作で、水平・垂直方向に首振りを制御できるカメラで、望遠・広角での撮影が可能
株式会社東芝 CPSxデザイン部 新規事業推進室 スペシャリスト 清水 智得氏※2
※2: ロボット開発当時の所属:エネルギーシステム技術開発センター 機械技術開発部 機構技術グループ
中間部にはウェブカメラとモニターがセットされ、下部にはマイクとスピーカーを搭載。これにより、在宅作業時でもこのロボットを自由に移動させ、現場にいる人と会話をすることができるのだ。
上部にパンチルトズームカメラが付いており、在宅勤務している仲間と現場で会話している感覚が得られる。ロボットが日常の現場で行き来するようになることが理想だ。
現場のみならず、オフィスや研修でも使えるロボット
この「在宅×現場コミュニケーションロボット」は、最初のプロトタイプをベースに、適宜仕様の変更や機能の追加を行なうアジャイル開発の手法が採用されている。
「モニター部分も当初は旧式のアナログ入力のものを使っていましたが、その後、より軽量なタブレット端末に変更しています。足元のカメラもより広い範囲が見えるものに交換したり、落下防止センサーを新たに搭載して安全性を高めたりするなど、初期のものから比べると格段に使いやすさは向上しています」(川端氏)
開発プロセスにおける最大の苦労点は、走破性能だ。ロボット開発においてハード面での組立てを担当した笹川氏は、次のように語る。
「目線を人間の高さにそろえ、細長なデザインを採用しているため、どうしても転倒リスクが高くなります。利用場所は、必ずしも平坦な場所ばかりではなく、段差の多いスペースもあるでしょう。4輪仕様にすれば安定感は増しますが、それでは台車部分が大きくなりすぎて小回りが利かなくなるデメリットが生じます。様々な要因を勘案して現状の仕様に落ち着いていますが、さらなる走破性能の向上は今後の課題だと思います」(笹川氏)
東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーシステム技術開発センター 機械技術開発部 機構技術グループ 笹川 憲二氏
すでにチーム内では、ミーティングの際にその場にいないメンバーがこのロボットを使って参加したり、自宅にいるメンバーがオフィスを仮想的に動き回ったり、思い思いの用途で課題の解決を試みているという。
開発からおよそ1年。「働き方改革Award2020」を受賞したことにより、社内認知が一気に進み、「使ってみたい」という要望が社内からいくつかあがったという。
「おかげで複数の部署から引き合いがあり、我々にとっては思わぬ現場や用途で活用していただいています。例えば、点検などの産業用途から社内の教育・研修など。実際に使ってもらうことで、新たな課題や要望が出てくることもあるので、その都度、機能を検討し、開発して実装することを繰り返しています。多方面からお呼びがかかり嬉しい反面、悩ましい点もあります。オフィスだとシンプルで安価なことが求められますが、現場だと段差を超えることや操作性が大事になってきます。一つひとつ考慮していくと非常に高額になってしまうため、バランスを取りながら開発しなければならないのがとても難しいところです」(川端氏)
「働き方改革Award2020」への応募を決めたのも、アワードをきっかけに使用するユーザーが増え、そのフィードバックを開発に活かせるはずと考えたことも1つの動機だった。
開発につながった、メンバーの「変革への情熱」とは
在宅勤務中でも、出社しているメンバーといつも通りにコミュニケーションを取りたい。そんな現場の課題を解決するために生まれた、「在宅×現場コミュニケーションロボット」。在宅勤務する人にとってはより現場に近く、現場で働いている人にとっては在宅勤務する人とも一体感を持って働くシームレスな世界に一歩近づいた。オンラインとリアル、双方の「働き方」が当たり前となり、コミュニケーションの不便があった日常に変革を起こしたわけだが、それはメンバーそれぞれに「変革への情熱」があったからこそ実現できたことだと言える。その情熱とは一体どこから湧き上がってくるのだろうか。彼らを束ねる機構技術グループの菅沼直孝マネージャーは、メンバー一人ひとりに、「変革を楽しむ心」があると語る。もう少し具体的に、メンバーについて教えてもらおう。
「『困難なことに挑戦するのが好き』というのがメンバーに共通して言えることです。福島第一原発の廃炉で、デブリ※3を見つける装置を作ったのはまさにこのメンバーです。ロボットを製作し、現地で困難な課題をどうにかして解決する。そんな情熱があります。東芝は組織としては大きい会社ですが、小さいベンチャー企業の集まりだと私は思っています。それぞれ異なる得意分野を持ち、お互いの能力を組み合わせて作ったロボットで課題解決できる点がこのチームの強さですね」(菅沼氏)
※3 デブリ:2011年3月の福島第一原発事故の際、原子炉内部にあった核燃料が溶け、さまざまな構造物と混じりながら冷えて固まったもの。
実際、チーム内の若手メンバーである上田氏、福島氏は、すでに今回の開発を通して次のような成果と手応えを語る。
「既存の巡視・点検ロボットをベースに開発を進める過程で、様々なジャンルの知見に触れることができました。」(上田氏)
「現在はオフィスでの用途が中心ですが、将来的には家庭など身近な場面で役に立てるロボットを開発したいという思いがあります。今こうして頑張っていることが、将来自分が歳を重ねたときに、傍らでロボットがサポートしてくれるような未来に繋がっていればいいですね」(福島氏)
東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーシステム技術開発センター 機械技術開発部 機構技術グループ スペシャリスト 上田 紘司氏(左)、 福島 武人氏(右)
可能性あるロボットへの夢は膨らむ。新しい未来を思い描き、そこに向けた情熱を原動力に開発が進んでいく
「学生時代からロボットについて研究していますが、普及はまだまだというのが現状です。働き方など身近なところからでも、ロボットは使えるんだよ、ということを色々な方に知ってもらいたいです。今回の開発で社内からの様々なニーズに触れて、その要望が用途によって大きく異なることを肌身で感じました。これは、今後の開発業務においてもプラスに働くと確信しています。我々が持つ遠隔操作技術を世の中に生かし、もっともっとロボットが活躍する、快適な世界をつくりたいと思いながら日々、取り組んでいます」(川端氏)
「在宅×現場コミュニケーションロボット」だけでなく、これからのロボット開発への取り組みも、まだまだ多くの可能性を秘めていそうだ。