積み上げたR&Dは裏切らない――「技術の東芝」が描く戦略地図

2022/01/11 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 東芝グループの幅広い技術力を結集して、社会課題に挑む
  • 社内、そして社外も巻き込むR&Dのエコシステムで開発を加速
  • 不変にして普遍、ベンチャースピリットを抱く研究者、技術者が次の世界を支えていく
積み上げたR&Dは裏切らない――「技術の東芝」が描く戦略地図

地球温暖化により甚大化する自然災害、COVID-19後のニューノーマルへの対応、労働人口の減少など、私たちの前には様々な社会課題が立ちはだかっている。約150年もの間、東芝はエネルギーや社会インフラをはじめとする様々な事業を通じて、未来を思い描きながらその時々の課題解決に取り組んできた。そして今、先端技術を結集して描くのは、どのような戦略地図なのか。カーボンニュートラル、そして強靭な社会インフラを支える技術をワンストップで提供できる企業は世界でも数少ない。技術戦略をリードするCTO(Chief Technology Officer)の石井秀明氏が、確固たる基盤技術、先端技術の最新成果を示しつつ、東芝らしい技術戦略を語った。

東芝の技術力を結集、一気通貫の取組みで社会課題の解決を促進する

経営理念に紐づき、東芝グループが掲げる技術方針

経営理念に紐づき、東芝グループが掲げる技術方針

「私たちの社会、世界を多くの社会課題が取り巻いています。東芝は喫緊の社会課題として『カーボンニュートラル(脱炭素化)』『インフラレジリエンス(社会インフラの強靭化)』にフォーカス。最先端の研究成果やデジタル技術を駆使し、エネルギー・インフラ領域で価値を創出することに力を入れています

 

こう語るのは、東芝CTOの石井氏だ。COP26(国連気候変動枠組条約 第26回締約国会議)の グラスゴー気候協定では、2100年の世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5℃以内に抑える努力を追求することが盛り込まれた。脱炭素化を目指すカーボンニュートラルは世界的な社会課題だ。また、気候変動に伴って増加する自然災害や社会インフラの老朽化、日本国内の労働人口の減少などに備えるため、社会インフラの強靭化(レジリエンス)も見逃せない。

 

東芝は、エネルギーの流れを「つくる」「おくる」「ためる」「かしこくつかう」という4つのプロセスに分け、カーボンニュートラルに向けて日本が掲げる課題に応える商品・技術・サービスを提供していく。また社会インフラの強靭化では、「そなえる」「みつける」「まもる」「つづける」という4つのライフサイクル(段階)に分け、迫りくる脅威に対応する商品・技術を整理し、開発を加速している。

 

カーボンニュートラルに貢献する商品・技術・サービスを一気通貫で提供

カーボンニュートラルに貢献する商品・技術・サービスを一気通貫で提供

社会インフラの持続可能性に立ちはだかる脅威に対して、商品・技術・サービスを提供

社会インフラの持続可能性に立ちはだかる脅威に対して、商品・技術・サービスを提供

 

「『つくる』から『かしこくつかう』まで、そして『そなえる』から『つづける』まで、いずれも一気通貫で取り組める企業は、世界でそう多くないと自負しています。東芝グループの研究者、技術者は『自分の技術がどう社会で生かされるか』という社会実装を常に意識して研究開発に取り組んでいます。私は、CTOとして国内外の研究組織を所管し、それぞれの領域でしのぎを削っている現場と何度も議論しながら、これから東芝が力を入れるべきR&Dの戦略地図を描いています」

 

カーボンニュートラルを実現し、社会インフラの強靭化を支えるにはデジタルの基盤技術力が欠かせない。東芝は、これまでAI(人工知能)技術※1長く現場で培ってきたこれが現場で生まれるデータを分析し、フィードバックすることで、安定した電力供給、社会インフラの安定稼働、ロボットやカメラなどのエッジ機器の機能強化をもたらす。AIの予測をもとに再生可能エネルギーの安定供給を実現したり、AIの異常予知に基づいて装置の監視・保守を効率化したりと応用は多岐にわたる。

※1 世界知的所有権機関(WIPO)発行「WIPOテクノロジートレンド2019」、世界初の郵便区分機(1967)に始まり、各種インフラ、半導体製造等の現場で培った東芝のAI特許出願数は世界3位。

 

AI技術がカーボンニュートラル、社会インフラの強靭化の基盤

AI技術がカーボンニュートラル、社会インフラの強靭化の基盤

しかし、社会インフラの強靭化と一言に言っても、自然災害、社会インフラの老朽化、労働人口の減少、パンデミック・地政学的リスク、サイバー攻撃への備えまでカバーする領域が幅広い。石井氏によると、R&Dをいかに効率的に進めるかが課題となる。では、どのような工夫がなされているのだろうか?

株式会社東芝 執行役上席常務 CTO石井 秀明氏

株式会社東芝 執行役上席常務 CTO 石井 秀明氏

「私たちには、社会インフラ領域に関して多くの実績があります。そこで積み上げた技術の蓄積、知見を踏まえて標準化して、様々な事業領域で共有すれば一から開発せずに済みます。具体的には、機器の状態監視や見える化、システムのセキュリティ機能など多種多様な技術を機能ごとに分解して共通化し、小さなサービス単位として各現場に展開していきます。そして、各領域の知識と掛け合わさることで、元々の機能がレベルアップする好循環が生まれるのです

 

そしてカーボンニュートラルの実現に必要となるのが、電力効率の向上だ。またデータを生かして価値を生むには、社会・情報インフラのデジタル化が当然求められる。これらに対して重要な役割を果たすのが、半導体・ストレージだ。この領域において、石井氏は「社会・情報インフラの進化をリード」をキーワードに半導体・ストレージの強化を明言する。

 

「パワー半導体は、電気自動車、鉄道、送変電などの電力変換機能に必須のデバイスで、グローバルな社会課題の解決に欠かせません。東芝は世界3位というポジションにあり、今後も規模・シェアを拡大し、社会・情報インフラの進化を下支えします。そのためにも技術のブラッシュアップや生産基盤の整備が課題です。

 

また、データを保存するストレージであるHDD(ハードディスクドライブ)も、常に大容量化へ歩みを止めません。データセンターを中心にストレージ市場は大幅な成長が予測され、HDDは引き続き主役を担うものと想定されます。東芝は、高記録密度を可能にするアシスト記録技術で、大容量ニアラインHDD製品を継続的に市場投入していきます」

 

パワー半導体についての上述の課題認識のもと、パワーMOSFET※2やIGBT※3などの旺盛な需要に応えるべく、日本初となるパワー半導体の300mm量産ラインを加賀東芝エレクトロニクスに立上げ中だ。300mm化によって、1ウェハーあたりの半導体の取れ数が増えて製造効率が向上するのはもちろんだが、AIを導入した最新のプロセス技術により性能や品質の向上も期待できる。現在、ラインの立上げを急ピッチで進めており、23年度上期の稼働を予定している。

※2トランジスタの一種で、IGBTに比べ低電力で高速な動作に向く。
※3入力部がMOSFET構造、出力部がバイポーラ構造のデバイスで、低い飽和電圧と比較的速いスイッチング特性を両立させたトランジスタ。

 

HDD大容量化に向けては、キー技術の一つがマイクロ波アシスト磁気記録技術(MAMR)※4となる。21年2月には、東芝オリジナル技術である磁束制御型のMAMRを用いた業界初の製品を市場投入している。また更なる記録密度向上に向けて、磁気共鳴型のMAMR方式の開発にも取り組んでいる。

※4 microwave assisted magnetic recordingの略。マイクロ波のエネルギーを活用して記録密度を高める技術。

 

グローバル課題の解決に向け、半導体・ストレージの開発にも注力

グローバル課題の解決に向け、半導体・ストレージの開発にも注力

 

パワー半導体、国内初の300mmウェハー対応の製造ラインを新設、生産能力拡大

パワー半導体、国内初の300mmウェハー対応の製造ラインを新設、生産能力拡大

東芝グループ、そして社外も巻込むR&Dのエコシステムで開発を加速

これまでの技術、知見を基盤に、東芝グループは時代にフィットする価値を創出してきた。連綿と積み上げられた技術の地層が、「エネルギー」「インフラ」「デバイス」の各事業を支えていく。CTOとして各研究組織を束ねる石井氏は、グローバル視点でR&D体制を整備。グループ全体が技術・開発力をいかんなく発揮すべく、組織間の連携、コミュニケーションを円滑にしている。

 

各事業会社と連携し、グローバルに構築されるR&D体制

各事業会社と連携し、グローバルに構築されるR&D体制

東芝は、いわゆる中央研究所であるコーポレートラボ、事業会社に所属するワークスラボを備え、両者の連携が重層的に技術を育んできた。上図で示す通り、研究開発センターをはじめとする濃い緑で表示したコーポレートラボ、エネルギーシステム技術開発センターなど薄緑で示したワークスラボが密なる連携を取り、それぞれの立場を生かしてR&Dの両輪となってきた。

 

ワークスラボは事業に直結するため、2~3年先の社会実装を目指した研究を推進。コーポレートラボはAIなどの基盤研究も手がけるため、さらに長期的な視点で研究開発を進めます。私自身、事業部門で設計に携わっていましたので、両方のラボとの密接なコミュニケーションにより新たな商品企画が創発され、いい意味で違う視点を組み合わせて開発を進めるR&D体制の重要さが身にしみています。工場のラインで製造に携わる者も含め、研究者、技術者が考え、意見をとことんぶつけ合っていく。そこにこそ、東芝らしいベンチャースピリットがあり、成果への道筋があるのです

 

「東芝は、事業ポートフォリオが変わり、会社の形が変わる度に、注力領域の競争力を伸ばすべくR&D体制を整えてきました。今、私が着目しているのはグローバルな連携です。たとえば、量子暗号通信はケンブリッジ研究所がプレゼンスを発揮し、開発を加速しています。各拠点の研究者がやり取りし、研鑽を続けることが技術の高度化につながる手応えがあります。そこで感じたのが、東芝ならではの組織のあり方が結局は成果につながるという確信です」

 

当然、「上に物を言えない」など淀んだ空気はない。技術を共通言語に自由闊達なR&Dが進む。これからも、先人が育んできた豊穣な技術の風土を守っていきたい。石井氏をはじめ、東芝の技術を支える者の思いだ。このように技術において妥協せず、とことん対話を進め、自前主義に拘泥しない。石井氏は、カーボンニュートラルを例に取り、グループ内・外を巻き込んだエコシステムの重要性に触れた。

 

「カーボンニュートラルは2030年、2050年をマイルストーンに進められます。そこでは、目指すべき未来を思い描き、バックキャストしてR&Dを進めていかなければなりません。コーポレートラボがメガトレンドを見極め、どのような技術開発が必要かを可視化し、技術長期計画として事業部に共有する。コーポレートラボとワークスラボがR&Dを進め、事業部がアウトプットとして実現する。この有機的な連携が適切なリソースの配分につながるのです。全体を俯瞰し、近視眼にならずに進んでいくためには、グループのリソースを縦横無尽に活用するエコシステムが重要です。さらに、エコシステムは東芝グループ内に留まりません」

 

石井氏の言葉を体現する例として、CO2を燃料や化学品の原料となるCO(一酸化炭素)に変換し、資源化するP2C(Power to Chemicals)がある。これは、東芝の強い技術を起点にエコシステムを構想し、他社と連携して持続可能な航空燃料(SAF)製造からフライトまでのサプライチェーンに一気通貫して取り組み、サービス提供を目指すものだ。東芝がコアになる技術を持ち、誰にどんな価値を提供するかという目的が明確であれば、社外の有力なパートナーとの強い連携が可能となる。社外から技術を取り込んだり、他社の機能を活用したり、エネルギーの流れのなかで必要なピースを埋めてカーボンニュートラルを目指す。これは、エネルギー領域を一気通貫する技術を持つ東芝だからこそなし得ることだ。

 

カーボンニュートラルに向けたエコシステムを描き、実現に向けた技術、枠組みを構築

カーボンニュートラルに向けたエコシステムを描き、実現に向けた技術、枠組みを構築

不変にして普遍のベンチャースピリット――技術者の熱き魂は連鎖する

研究開発に積極的に投資する。それは、社会課題を解決する企業の使命の一つだ。2022年度の東芝は、グループ研究開発費を売上高比率5.5%(1,800億円)に引き上げ、今後はさらに強化していく研究開発投資においても、石井氏は「技術は東芝の源泉である」と強くメッセージしている。

 

「カーボンニュートラル、社会インフラの強靭化といった社会課題を解決すること。そこに、東芝の技術はどのように貢献できるのか。あらためて東芝の経営理念、存在意義に立ち返りました。そして、研究開発費をより強化すべきと判断したのです。社会と顧客の課題に向き合うメンバーのモチベーションにも応えていく。この数字は、経営陣としての意思表明でもあります」

 

「今後、東芝はエネルギー・インフラ事業、デバイス・ストレージ事業にさらにフォーカスして新しい会社の形を目指すことを計画していますが、研究者、技術者がやることは基本的に変わりません。それぞれの領域により特化し、より注力しやすくなるという変化はあるでしょう。維持・強化すべきはグループ内外を巻き込んだ共創であり、東芝らしい総合力です。パワーエレクトロニクスなどデバイスとシステムとのシナジー効果など事業として連携が必要な領域や、AI、IoT、セキュリティ、材料、生産、ソフトウェアなどの共通基盤技術の開発においては、契約、組織、環境の構築や整備により、2つの注力領域の連携を継続し、さらに強化していきたいと考えています」

 

集積した技術を磨き続け、顧客のため、社会のために課題を解決していく。創業以来、技術者たちが脈々とつないできたベンチャースピリットは、今なお東芝の土台を支えている。石井氏がCTOとして願うのは、志を共有するメンバーがさらに加わり、地球的な課題の解決に技術で貢献していくことだ。

 

「私が大切にしているのは、研究者や技術者がベンチャースピリットを発揮し、存分に躍動してもらえる風土を守り、さらに高めていくこと。東芝は時代や社会環境に応じて会社の形態を柔軟に変え、組織として進化を続けてきました。課題を解決するため、付加価値の高い製品・サービスを提供し続ける。方法やアプローチは変わっても、軸がぶれることはありません。私はCTOとして、この思いに共鳴、共感して加わってくれた仲間、これから加わってくれる仲間を大事にしていくことをお約束します。お客様やパートナーの方々とも創発し合いながら、共に新たな未来を創っていきましょう」

株式会社東芝 執行役上席常務 CTO石井 秀明氏(2)

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