再エネ普及を支える影の立役者「蓄電池モニタリング技術」 ~「電力の需給調整」市場スタートにより増す存在感

2022/03/18 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 再エネ普及に必須の「電力の需要と供給の調整」で、蓄電池が活躍!?
  • 蓄電池の状態を、適材適所のモニタリング技術が診断!
  • モニタリングによる「調整力as a Service」がカーボンニュートラルに貢献!?
再エネ普及を支える影の立役者「蓄電池モニタリング技術」 ~「電力の需給調整」市場スタートにより増す存在感

2020年7月、日本の東北地方から西日本にかけて豪雨が発生、同年の8月には米国のカリフォルニア州で気温54.4℃が観測された。こうした異常事態が、日常になってしまうのだろうか。地球温暖化によって気候が極端化し予測がつかない時代──。これを何とかするには温室効果ガスを全体でゼロにするカーボンニュートラルが必須であり、風力など再生可能エネルギー(再エネ)の普及が鍵を握る。多くの企業が対応を急ぐ所以だ。

 

石油などの化石燃料と違って枯渇せず、CO₂を直接排出しない再エネ。しかし、気象条件によって電力が安定しないというデメリットもある。そこで必要になるのが電力の出し入れを調整する蓄電池システムであり、その劣化や不具合のモニタリングが重要になる。

 

いくつかの蓄電池モニタリング技術を持つ東芝。この技術により電力の調整や再エネの普及はどう進み、将来に安心して暮らせる世界を残せるのか。東芝エネルギーシステムズの加瀬高弘氏、三ッ本憲史氏に聞いた。

カーボンニュートラルという社会課題に、蓄電池の「エネルギー需給調整」を!

「電気をつくる、おくる、ためる、かしこくつかう」を基本方針に据え、社会を支える東芝エネルギーシステムズ。同社で電力流通のサービス事業推進を率いる加瀬氏は、この方針を次のように解説する。

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリット・アグリケーション事業部 グリッドサービス事業推進部 シニアマネジャー 加瀬 高弘氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリット・アグリケーション事業部 グリッドサービス事業推進部 シニアマネジャー 加瀬 高弘氏

「『つくる』は発電。東芝は長年にわたって発電機器提供に携わり、バイオマス、風力、太陽光、水力、地熱といった再エネも展開しています。『おくる』では、電力流通機器や、電力系統(電力が供給される流れ)の監視制御システムなどによって電力を円滑に供給し、『ためる、かしこくつかう』では蓄電池を活用しています。それらを結びつけるVPP(バーチャル・パワー・プラント:仮想発電所)事業などもスタートしています」(加瀬氏)

※散在するエネルギー源をIoT機器によって遠隔で制御し、あたかも一つの発電所のように機能させる

 

カーボンニュートラルの機運が高まり、従来型のエネルギー供給が見直されている。代わりに存在感を高める再エネだが、自然環境に左右され発電量が安定しない。あまった電気をとにかく蓄電池に貯めてから、使う分だけ取り出すことが考えられるが、加瀬氏は「今のところ、あまり現実的ではない」と指摘する。

 

「再エネで発電した電気をすべて貯めて必要な時に使う方法は、蓄電池の価格がかなり安価になり、容量が何倍も大きくなれば可能です。蓄電池技術の開発は続いているので、そうした方法もいずれ可能となるでしょう。だが、今、蓄電池が電力系統の中で活躍するのは電力の需給調整だと考えます。そして、この需給調整の市場の整備が再エネ普及の助けなります」(加瀬氏)

 

需給調整の話は専門的になるので、概要をかいつまむ。電気は東日本と西日本で周波数が異なり、東は50Hz、西は60Hzだ。この周波数が乱れると、家電や工場の機械などが上手く動かなくなり、また発電機も安定な運転ができなくなって、大規模な停電につながりうる。そして周波数は、電力需要と供給のバランスが崩れたときに乱れる。

 

需要とは電気の消費量のことで、供給とは発電量だ。そこで、需給調整のために一部の発電機の余力を残して稼働させて、需要の増減や再エネの変動に対し発電量を調節しながら、電力系統(発電、送電、変電、配電といった、発電所から需要まで電力が供給される流れ)全体でバランスをとっている。これが需給調整の仕組みだ。

 

発電から需要まで電力バランスが整わないと、電力機器がうまく動かない

発電から需要まで電力バランスが整わないと、電力機器がうまく動かない

しかし、調整力のために効率の悪い形で火力発電設備を動かすと、不要なCO₂が発生することになってしまう。だからこそ、「クリーンな調整力を実現するために、蓄電池に期待を寄せている」と加瀬氏。つまり、バランスが崩れた時に、蓄電池から電気を瞬間的に出し入れして安定させるわけだ。これを需給調整用の蓄電池システムと呼び、今後国内でも導入の拡大が期待される。

 

それを加速するように、日本で需給調整の市場が開設されようとしている。この市場が開設されると、蓄電池を活用して需給調整力を供給しようとする事業者も参入できる。自ずと、電力系統用の蓄電池の存在感が高まる。

 

「東芝は、リチウムイオン二次電池『SCiB™』を生産しています。これは長寿命で急速な充放電を繰り返せるため、電力の需給調整に最適です。カーボンニュートラルに向けて、SCiB™が課題解決に役立つことは間違いありません。たとえ他社が需給調整で蓄電池の活用をためらっても、我々はリスクを取って進めていく覚悟です」と力強く語る加瀬氏。実際、SCiB™の事業部と共に、需給調整に適応する、大出力で高い電圧に耐えるSCiB™の開発を進め、日本、海外などで実証実験を続けている。

 

自動車、産業機器など幅広く活用されるリチウムイオン二次電池「SCiB™」

自動車、産業機器など幅広く活用されるリチウムイオン二次電池「SCiB™」

モニタリング技術を使い分け、蓄電池システムを診断。性能を最大限引き出す!

東芝の強みはまだある。それは、蓄電池の状態を診断するモニタリング技術だ。加瀬氏と同じ事業部でエネルギーIoT推進部に所属する三ッ本氏は次のように語る。

 

「電池は使い続ければ劣化する。これは誰もが知っているでしょう。充電容量が減ったり、内部抵抗が上がって発熱したりも劣化です。蓄電池システムの劣化状態をモニタリングできれば、安定して寿命一杯まで使い切ることができ、その性能をフルに引き出せます。私たちは、このモニタリング技術を複数持っているので、場面に応じて適切な診断法を使い分けられます」(三ッ本氏)

 

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリット・アグリケーション事業部 エネルギーIoT推進部 フェロー 三ッ本 憲史氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリット・アグリケーション事業部 エネルギーIoT推進部 フェロー 三ッ本 憲史氏

代表的なモニタリング技術は、次の4つだ──。『充電曲線解析法(CCA法)』『電池容量推定試験』『DSOC法』『電圧標準偏差法(VD法)』これらを東芝は使い分けている。難しい名前が並ぶが、メタボ健診を例にとって、三ッ本氏は次のように教ええてくれた。

 

蓄電池モニタリング技術の分類

 

「ちょっと強引な例えですが、

『充電曲線解析法』は、定期健康診断などで実施する血液検査や超音波検査にあたります。検査用の充電を行ってその詳細なデータから蓄電池の劣化要因を診断、言い換えればメタボの程度や要因を精密に診断します。

 

『電池容量測定試験』は文字通り容量を測定します。蓄電池が放電し切って空っぽの状態から満タンまで充電した時の電力量が充電容量、その逆が放電容量になります。メタボ診断に例えれば、定期健診での体重・胴囲の測定でしょうか。実際の試験は数時間~1日を要するので、体重計のように気軽に測定できるものではありません。

 

『DSOC法』は、普段の運動の量(ジョギングや散歩の距離あるいは時間)と、運動前後の心拍数などから体重を推定するイメージです。きちんと運動して心拍が下がるまで休憩できる人ならば、日々のモニタリングに活用可能です。

 

『電圧標準偏差法』も普段のデータを使いますが、運動の状態や休憩の有無にかかわらず診断できるのが特徴です。歩数計や心拍計のログデータを統計処理して、「今日のメタボ度」を推定してくれるスマートウォッチのようなものですね」(三ッ本氏)

 

前述のように、需給調整市場が本格化すると再エネなど多くの事業者が参入し、周波数が乱れないように電力を細かに出し入れする蓄電池システムが欠かせない。もし蓄電池の劣化の状態や速度を可視化できなければ、怖くて参入も運用もできない。だから東芝は、再エネの普及、カーボンニュートラルの実現のために、蓄電池モニタリングに力を入れているのだ。

蓄電池とモニタリング技術。セットで安心を提供、再エネ普及を促進。

2021年に始まった「需給調整」市場は、取引を段階的に拡大している。そんななか、東芝が目指すのは、IoT技術によって次世代の電力流通に欠かせないソリューションを提供する姿であり、電力流通に関わるサービスを率いる加瀬氏は「蓄電池に限っていえば『調整力as a Service』です」と語る。賢明な読者はもうお気づきだと思うが、「蓄電池を充放電することで、電力の需給バランスがずれたときに吸収すること」をサービスとして提供するという構想だ。

 

「需給調整」市場の誕生に伴ってさらなる拡大が見込まれるVPP(仮想発電所)でも、蓄電池のモニタリング技術は重要だ。繰り返しになるが、VPPとは分散する発電設備や蓄電設備を、需給状況に応じてIoT機器で遠隔制御し、あたかも一つの発電所のように機能させることを指す。では、なぜモニタリング技術がサービスになるのか。三ッ本氏に具体的なところを教えてもらおう。

 

「今後、家庭用蓄電池の持ち主などもVPPに加わるでしょう。しかし遠隔制御で充放電を繰り返されたら蓄電池によっては劣化がどんどん進み、持ち主はたまりません。そこで、モニタリング技術を使い、蓄電池の状態を見せたり、劣化した分の保証をしたりといったサービスが考えられます。このモニタリング技術には様々な可能性があり、色々な場面で使われるようになると思います」(三ッ本氏)

 

長年にわたり、発電所の運営や電力系統の監視に携わってきた東芝。もちろん、再エネでも実績を残している。蓄電池では「SCiB™」が、電気自動車、産業機器、周波数を調整する蓄電池システムなど幅広く使われる。そしてモニタリング技術だ。

 

大型台風など地球温暖化による異常気象が多発すれば、私たちや将来世代は安心して暮らしていけない。それを何とかするためにカーボンニュートラル、再エネ普及が必要なことは明らかだ。この社会課題を解決するために、一見、地味に感じるモニタリング技術による蓄電池システムの健全性診断が、私たちの社会に実装されようとしている。

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