震災復興を支えるチカラ 次代を担う人材の育成

2016/11/16 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 2015年には「新エネルギー大賞」受賞
  • 前例がないユニークな事業が評価された
  • 復興のため自ら考え行動する人材を育てる
震災復興を支えるチカラ 次代を担う人材の育成

再生可能エネルギーを通じて人材の教育・育成を目指す「南相馬ソーラー・アグリパーク」。地域復興、再生を目指して始動したプロジェクトは、2013年3月11日のオープン以来、多くの子どもたちに再生可能エネルギーの体験、学びの場を提供してきた。

 

前回に引き続き、同パークを運営する一般社団法人「あすびと福島」代表の半谷栄寿氏と、同パークの太陽光発電所の建設、導入に尽力してきた東芝太陽光事業の新井本武士氏が対談。南相馬市で進む取り組みの過去・現在・未来を見すえ、たゆみなく人材育成を継続させていく理念を語り合う。(前編はこちら)

前例がなくても取り組む。エンジニアリングにかかる期待、応える矜持

一般社団法人あすびと福島 代表理事 半谷栄寿氏(右)と南相馬ソーラー・アグリパークの運営を支えるスタッフ

一般社団法人あすびと福島 代表理事 半谷栄寿氏(右)と南相馬ソーラー・アグリパークの運営を支えるスタッフ

一般社団法人 あすびと福島 代表理事 半谷栄寿氏(以下 半谷) 「南相馬ソーラー・アグリパーク」を始動させてから3年半。多くの子どもたちから感動の声、喜びの便りを寄せてもらいました。それは私たちの大きな励みになっており、2015年には新エネルギー大賞(資源エネルギー庁長官賞)を受賞することもできました。

 

東芝 新井本武士氏(以下 新井本) 営利目的ではなく、子どもたちのために頑張ってこられた半谷さん、あすびと福島のスタッフの姿を見て、微力であっても何らかの形で貢献したい。そんな思いが私たちメンバーの中にもありました。ご苦労を目の当たりにしてきただけに、私たちの喜びもひとしおです。

 

半谷 ありがとうございます。ここであらためて、新井本さんに聞いてみたいことがあります。新エネルギー大賞をはじめ、各所から評価されたのは「体験学習による子どもたちへの新エネ啓発活動」の新しさです。前編でも話し合いましたが、このプロジェクトは前例がない、極めてユニークな点が大きな特徴だったんですね。そこが評価されたんですね。

 

ただ、前例のないプロジェクトに取り組むとき、エンジニアは非常に慎重になるものだと思うんです。しかし、新井本さんたちは安全をしっかりと確保した上で、新しいこと、前例のないことに前向きに取り組んでくれた。その一体感、気概はどこからくるものでしょうか。

 

新井本 アトラクション、体験学習のストーリーを組み立てたのは、子ども向け職業・社会体験施設「キッザニア」を運営するKCJ GROUPです。

 

子どもの身長に合わせてフェンスの高さを設計したり、電気が実際に通っている箱を開けると大変なので、体験用に別の箱を設置したりと、安全を大前提にしつつ、子どもたちの視点で設計しました。「前例がない」点をご評価いただいたとのことですが、前例がないからこそ、工夫の余地があるものです。私たちにとっても、大変面白い仕事だったと思いますね。

半谷栄寿氏(右) 東芝 新井本武士氏(左)

半谷栄寿氏(右) 東芝 新井本武士氏(左)

施設の水没というトラブルを乗り越え、パートナーシップは強化された

新井本 半谷さんには、私たちメンバーの一体感をご評価いただいてうれしく思います。2015年の施設水没の際も、スタッフが現場に何度も足を運びました。みんな「何とかしてあげたかった」と口をそろえますが、メンバーの思いは、その一言につきますね。

 

半谷 そう言ってくれていたんですか……感慨深いですね。あの豪雨による水没は忘れられません。「平成27年9月関東・東北豪雨」と名がつくほど、北関東、東北地方に大きな被害をもたらした豪雨がありました。南相馬市にも観測史上最大クラスの降水量があり、パークの太陽光発電所が水没してしまったんですよね。

 

復旧に向けて動く中、保険会社とのタフな交渉がありました。何分、太陽光発電システムの水没被害というのは保険会社にとっても初めてに近いケースです。水没と発電機能の損害の関係を客観的に説明しなければなりません。

南相馬ソーラー・アグリパーク ソーラーパネル

南相馬ソーラー・アグリパーク ソーラーパネル

新井本 太陽光発電の水没被害は私たちにとっても初の事例です。施設の計測機器が水没してしまったので、近隣の気象台などから降水量、日射量などのデータをかき集め、発電量とマッチングさせて被害を推論していきました。

 

その結果、保険会社に被害を認めてもらうことができ、無事に保険の適用がかないました。半年ほどの交渉の末、太陽光パネル、接続箱などを取り換えることができたんですよね。

 

半谷 スピーディーに保険適用が進められたのは、新井本さんたちがパークのプロジェクトを「自分ごと化」してくれたから。そこには意志の力がありました。「やらされている」ビジネスでは、遅滞が生じたり、やりきれないまま途中で終わったりしていたでしょう。新井本さんたちと志を共有できた、同志になれた瞬間だったと思います。

たゆまぬ復興スピリッツを共有し、長いスパンで人材育成を目指していく

半谷 2015年、福島高校の高校生80名が「南相馬ソーラー・アグリパーク」にフィールドワークに来ました。新井本さんには太陽光発電の仕組みについてワークショップで講演してもらったことがありましたね。小中学生だけではなく、高校生の体験学習の場としても機能し始めているのはうれしい限りです。

南相馬ソーラー・アグリパーク 体験学習

新井本 さまざまな質問をぶつけてきましたしね、福島高校の生徒さんには受け身ではない積極的な姿勢を感じました。事前の半谷さんからのリクエストは、「高校生に分かる視点でお話しください」というものでしたが、これがなかなか難しいもので……。アドバイスをいただきつつ、何とか資料をまとめたのはいい思い出です。

 

半谷 5回か6回、やりとりして講演の資料を固めていきましたね。エンジニアの目線ではなく、高校生の目線で分かるものにしなければいけません。それは、ひいてはお客さまの目線ということにもなります。専門用語を駆使する人よりも、平易な言葉で原理原則を説明できる人の方がはるかにレベルは高いものです。今回、新井本さんは比喩によって理解してもらうことを考え抜かれました。エンジニアとして新しい境地を開いたのではないですか?

 

新井本 おっしゃる通りです。自分が分かる言葉ではなく、相手に伝わりやすい言葉で説明していくことの大切さを痛感しました。発電所の建設、ワークショップという全体を通して、私個人としてもよき学びの場にさせていただいています。

 

半谷 それは何よりです。「南相馬ソーラー・アグリパーク」も、新たなステップに着実に進んでいます。2016年10月に新しいセンターハウスが完成し、ワークショップや体験をより効率的に進められるようになりました。福島県内の小中高生に来てもらった先には、首都圏の高校生、そして大学生も受け入れていきたいという展望があります。

南相馬ソーラー・アグリパーク センターハウス

南相馬ソーラー・アグリパーク センターハウス

若い世代の成長に応じて進化し、人材育成の価値を提供していきます。その試みをたゆみなく続けていくことで、福島の復興を自分で考え、事業を立ち上げる人材が生まれてくるでしょう。そのような未来が福島の復興である、と私は考えています。

 

新井本 アントレプレナー(起業家)を生み出すのが最終目標ということですね。私たち東芝にとっても「南相馬ソーラー・アグリパーク」は復興の拠点として大切な存在です。小中高生の体験の場として役割を果たすだけではなく、今後もさらなる人材育成をサポートしていければと考えています。本日はありがとうございました。

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