高まるリチウムイオン電池への期待と、東芝の回答[後編]

2020/12/01 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • さらなる高性能化を果たすリチウムイオン電池SCiB™
  • LTOを超える次世代負極材料、ニオブチタン系酸化物(NTO)
  • エレクトロスピニング技術により薄膜化を実現した次世代セパレーター
高まるリチウムイオン電池への期待と、東芝の回答[後編]

前編中編では、世界中が期待するリチウムイオン電池の新しい展開と、東芝が未来に向けて提案するチタン酸リチウム(LTO)を負極に採用したリチウムイオン電池、SCiB™についてご紹介した。SCiB™は、これまでのリチウムイオン電池が抱えてきた問題を解決し、自動車からインフラまで多くの分野へと展開の幅を広げてきた。後編となる本稿では、SCiB™のさらなる進化と、それを実現する東芝の最新技術についてご紹介しよう。

東芝が目指す、新しい未来を始動するための次世代技術

SCiB™は安全性や耐用年数の向上といったリチウムイオン電池の課題を克服してきたが、さらなる進化の途上にある。東芝は、高容量タイプと高入出力タイプの性能を併せ持つ、新しい高入出力タイプセルのモデル20Ah-HP、4.8Ah-HPを開発している。基本的な構成は変更せず、電極やセパレーター、電解液のパラメーターをチューニングした結果、高容量タイプのエネルギー密度と高入出力タイプのパワー密度の「いいとこ取り」をすることに成功した。現行のセルと同じサイズのまま入出力性能を高めているため、既存のモジュールやパックの設計を流用したアップグレードが可能となる。たとえば、近年の自動車産業では、欧州市場を中心とした排出ガス規制に対応するために48Vのマイルドハイブリッドカーの高性能化が進んでいる。20Ah-HP、4.8Ah-HPは、こうした高エネルギー密度と高入出力が要求される用途に適した電池であると言えるだろう。

 

そして、SCiB™の進化は、そのアイデンティティーである負極材料の見直しにも至っている。東芝は、次世代負極材料としてニオブチタン系酸化物(NTO)に着目している。NTOは、理論上の容量密度がLTOの約3倍であるとともに、長寿命や急速充電といったLTOの特長を併せ持つ優れた負極材料である。こうしたNTOの特性と合わせ、東芝の持つ独自の電極化技術を用いることで、長寿命や急速充電の性能を保ちながらエネルギー密度を1.5倍にすることを目指している。社会共生型ロボットの実装が進む中で、NTOの登場によってSCiB™搭載機の航続距離が伸びたり、モビリティを小型化・軽量化したり、さらなる社会的価値の創造が可能になるだろう。

材料容量密度(mAh/cm3)

5μmの薄膜化を実現した、次世代セパレーターSCdE

NTOに加えて、新たな技術としてSCiB™の進化のために投入されるのが、正極と負極を分ける次世代のセパレーターであるSkin-Coated Electrode(SCdE)だ。SCdEは、電極材料の表面を樹脂製の極薄ナノファイバー膜で覆った新構造である。通常、正極と負極の絶縁を保つセパレーターには、厚さ20μm程度の独立膜が採用されている。これに対して東芝では、独自の電極一体型セパレーターで約5μmまで薄膜化することに成功した。

Skin-Coated Electrode(SCdE)

膜の形成には、ナノファイバー形成技術の一つであるエレクトロスピニングを応用している。この技術では、原料となる高分子溶液に高電圧を加えて紡糸する。エレクトロスピニング技術により、絶縁性、耐熱性に優れたセパレーターの薄膜化が実現し、電極間の距離を極限まで近づけることでエネルギーの容量と入出力の同時改善が可能になった。さらに、膜の高空孔率化により、イオン電導性の向上と内部抵抗性の低下につながり、さらなる高入出力化が可能となる。また、従来のセパレーターに比較して、電池中の絶縁体に関連するコストを約半分まで抑制できるのもメリットだ。

エレクトロスピニング

 

前編中編・後編に分け、リチウムイオン電池に対する世界からの期待への回答として、東芝が送り出す次世代リチウムイオン電池SCiB™についてご紹介した。SCiB™の、安全、長寿命、高速充電といった様々な特長は、世界規模の地球温暖化への対策として進む様々な領域の電動化による低炭素化、経済成長につながる運用コスト削減、非常用システム構築による信頼性向上などに貢献する。こられのことは、持続可能な都市開発を含め、多くの社会インフラで価値を発揮するだろう。その進化はまだまだ止まらない。すべては、東芝グループの経営理念である「人と、地球の、明日のために。」走り続けるのだ。

 

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