スポーツ映像アナリティクスの最前線 ディープラーニング×画像認識技術の可能性

2017/01/18 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 新たなスポーツソリューションの始動
  • 東芝ラグビーチームで実証実験を開始
  • 今後、他のスポーツや産業への応用も
スポーツ映像アナリティクスの最前線 ディープラーニング×画像認識技術の可能性

東芝ブレイブルーパス(東芝ラグビー部)が、高度なICT技術を活用した新たなプロジェクトに取り組んでいる。これは音声・映像認識技術をディープラーニングと組み合わせることで、戦略立案、選手強化に活用するというものである

 

背景にあるのは、東芝が誇る音声・映像を活用したクラウドコンピューティングの技術だ。東芝が、自社のラグビー部で実証を進めている映像アナリティクスの最前線に迫ろう。(前編はこちら)

映像からボールの行方を探る

音声認識、映像解析の技術をクラウドコンピューティングと組み合わせて、スマート化することを第一に考える必要があります。それによって選手個人の成長、さらにはチームとしての成長を遂げようというのが私たちの取り組みです」

ラグビー×ICTプロジェクト

 

そう語るのは、研究開発センター・インタラクティブメディアラボラトリーの大内一成氏だ。

 

東芝の画像認識技術については以前も紹介しているが(被疑者の顔と逃走経路を瞬時に特定 ビッグデータを高速照合する技術)、こうしたノウハウが、3歳からラグビーに魅了されてきたという大内氏の知見と結びつき、今回のプロジェクトに結実している。

東芝 研究開発センター・インタラクティブメディアラボラトリー 大内一成氏

東芝 研究開発センター・インタラクティブメディアラボラトリー 大内一成氏

「映像アナリティクスの観点から見た場合、ラグビーという競技の難しさは、大人数が複雑に動き回ることに加え、選手同士が激しくぶつかり合うコンタクトプレーが多い点にあります。特に、選手が密集した状態では、どうしてもボールが人の陰に隠れてしまいます。そのため、映像からボールの行方を探ることは、従来の技術では困難でした」

 

そこで大内氏が着想したのは、選手やボールにセンサーを取り付けることなく、AIによってそれらの動きをマッピングする仕組みだ

ラグビー映像解析 デモ画面

ラグビー映像解析 デモ画面

実際の試合映像とともに確認できる機能性に、思わず目を見張る。映像からAIが機械学習し、選手とボールの動きを高精度でマッピングするだけでなく、「タックル」や「パス」、「スクラム」といったシーンのタグ付けまで自動で行うのだ。

 

また、音声認識技術を活用してホイッスル音を検知。さらに、プレーの展開に応じて映像を自動で分割する。試合後、プレー単位で映像を振り返ることができるのは大きなメリットだろう。

ホイッスル音を検知して映像を自動分割

ホイッスル音を検知して映像を自動分割

オンタイムで映像をチェックできるメリット

開発途中のこれらのシステムについて、東芝ブレイブルーパスの現役プレイヤーである知念雄選手は、開発中のこうした取り組みについて次のような感想を口にする。

東芝ブレイブルーパス 知念雄選手

東芝ブレイブルーパス 知念雄選手

「私はもともと陸上競技出身なので、個人にフォーカスした分析は経験済みですが、こうした団体競技で映像からこれだけの情報を処理できるというのは興味深いですね。とくに俯瞰映像は、自分の位置取りが非常にわかりやすくて、勉強になります。これは競技を始めて間もない新人選手のトレーニングにも有効なのではないでしょうか」

 

また、現在は東芝ラグビー部のリクルーティングを担当している、元東芝ブレイブルーパス選手の猪口拓氏は、自身の現役時代と照らし合わせて次のように語る。

東芝 猪口拓氏

東芝 猪口拓氏

「私が現役でプレーしていた頃は、試合中に撮影した映像を、終了後に大急ぎで編集し、各メンバーが見られるようにしていましたから、オンタイムで映像をチェックできるメリットは大きいと思います。たとえば、ハーフタイムに前半のプレーを振り返ることもできるわけですから、適切な戦略の変更を試合中に行えることになります。これは有利ですよね」

 

競技を取り巻く環境は、まさに日進月歩。映像アナリティクスは始まったばかりの挑戦だが、今後の急速な発展が期待される。

 

「ラグビーを映像で完全に解析するためには、まだまだクリアしなければならない課題が山積みです。しかし、難しいからこそ実現したいという想いがありますし、その想いこそが技術を発展させるのだと強く信じています」(大内氏)

 

ラグビーにおける技術革新が、他のスポーツへの応用、さらには意外なビジネスソリューションの確立へとつながるかもしれない。ゆくゆくはオフィスや工場での作業効率化、個人の能力開発支援も視野に入れているという。東芝ブレイブルーパスの活躍ともども、今後の展開を楽しみに見守りたい。

左から猪口拓氏、大内一成氏、廣瀬俊朗氏、知念雄選手

左から猪口拓氏、大内一成氏、廣瀬俊朗氏、知念雄選手

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